アメリカの日本敵視政策は、日英同盟という緩衝物(中立地帯)がなくなったことで、ますます露骨なものになっていった。まず日本をけん制するために、徹底的に中国を使おうとアメリカは決心した。
当時の中国にはたくさんのプロテスタント系の牧師がおり、またアメリカには親中国派の文化人が多かった(有名なのは、中国を舞台とした小説を執筆した女流作家パール・バックが有名だ)。このため、アメリカの反日勢力は中国の反日運動を陰に日向に援助し、また、アメリカの大衆新聞は日本の中国における活動をセンセーショナルに報道した(現在においては、南京大虐殺説のアイリスチャン?が有名ですね)。
したがって、中国の反日運動は必ずアメリカの反日運動に結びつくと言う図式が生まれた。これは日本にとって、ただでさえ厄介な問題が、ますます複雑になると言う危険な状況を意味した。これが日露戦争以後、日本がまず直面した暗雲の一つであった。
人種問題についで、日本が無益な戦争へと走らざるをえなくなった第二の原因は、アメリカにおける保護貿易の勃興であった。1929(昭和4)年に下院議員ホーリと上院議員スムートが、いわゆるホーリ・スムート法案を連邦議会に提出した。
彼ら二人は、ともに実業家であり、それぞれコンツェルンと称していいほど多くの企業を私有していた。彼らは、自分の関連する企業の利益を大幅にあげるために関税を高くすることを考えついた。つまり、競争相手となる外国製品をアメリカ市場から閉め出してしまおうと言うわけである。
この法案は翌1930(昭和5)年に成立し、ただちに1000品目について「万里の長城」と称されるほどの関税障壁が生まれた。これはすなわち、アメリカが自由貿易を捨て、ブロック経済に入ったと言う証明に他ならない。
案の定、それから一年も経たない内に、なんと世界貿易はほとんど二分の一になり「世界大不況」になった。
1929年から30年にかけての世界恐慌のスタートについては、教科書にもでてくるし、よく知られているが、その引き金はもっぱら1929年の株式相場の崩壊だとされている。しかし、単にアメリカの証券市場の暴落だけで、世界中を巻き込む長い大不況が起こるわけがない。むしろホーリ・スムート法によって、アメリカがブロック経済に入ったことの方が真因で、この視点を抜きにしてあの大不況を論ずることはできないのである。実際、1929年に提出されたホーリらの保護貿易法案が、神経過敏になっていた株式相場の崩壊のきっかけをつくったと言うべきなのだろう。
次回は「ブロック経済がヒットラーの台頭を招いた」です。
さらに事態は悪化し、アメリカがブロック経済に入ったことに応ずるかのように、2年後の1932(昭和7)年には、イギリスがカナダの首都オタワで帝国関税会議を開き、イギリスおよびその植民地もブロック経済を行うことを決定した。
このブロック経済圏には、当然ながら、当時世界の4分の1を占めていたイギリスの植民地が入る。そして、これらのカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、ビルマ、インド、アフリカの植民地からイギリスに送られる原材料は、すべて無関税あるいは特恵関税の扱いを受け、それ以外の国から原材料には高率の関税を課す。逆に、イギリス本国でつくった工業製品は、植民地に特恵関税で輸出されるというわけである。アメリカに続いてイギリス帝国までブロック経済に入ってしまっては、それ以外の産業国家はたまらない。
このブロック経済になった世界で、生き残るのが可能な国といえば、ヨーロッパではフランスとオランダぐらいのものであった。フランスはアフリカにも中近東にも植民地がある。東南アジアにもラオス、カンボジア、ベトナムなどをもっている。オランダも全インドネシアなどを所有しており、その経済基盤は何とか確保されていた。そのほか、自給自足が可能であった少数の国は我慢できた。
しかし、それこそ絶体絶命の窮地に立たされたのは、第一次大戦の敗北によってすべて植民地を失ったドイツである。
ドイツは第一次大戦後、非人道的と言っておかしくない額の賠償金を払い続けながらも、着実な復興を遂げていた。だが、ブロック経済によって貿易を封じられてはひとたまりもない。たちまち天文学的な数の失業者を出す状況に至った。そして、解決の道はなかった。
ここで現れたのが、ヒットラーである。彼はイギリスがブロック経済に入った2年後の1934(昭和9)年に政権を取ったわけだが、最初に宣言したのは、賠償金の放棄であった。また彼は、ドイツ民族には生活圏が必要であると主張し、それを東に求めるという意図を露にしたが、これは第一にルーマニアの油田のことを指していたことは明らかであった。
ヒットラーの政策が、ブロック経済に対抗するものであったのは明確である。そして、自給自足の可能な国家を建設するための戦争に備えて、彼は着実に手を打ち始めていた。つづく・・。