気になることは調べよう・ユダヤ編その9

「ゲットーと富裕なユダヤ人」

 ヨーロッパのゲットーは、13世紀から19世紀まで存在したようなので場所を確認してみると・・・まずはフランクフルトを筆頭に、オックスフォード、ウィーン、ブタペスト、マドリード、ローマ、ナポリその他を併せて26カ所に存在した。

 今回お話しするのはフランクフルトに於いてのユダヤ人だが、この地でゲットーが成立するのは15世紀であると思われる。ゲットーが成立するまでのユダヤ人に対するキリスト教徒らの迫害は筆舌に尽くしがたいのだが、ゲットーに於いてもそれはなんら変わることなく辛い日々の連続であった。他の民族とりわけ島国に生きる我々にとっては想像に絶する出来事であり、現在ユダヤ人がイスラエルにこだわる気持ちは十分納得できるのである。まあただ、パレスチナの人々のことを思えば、軽はずみな意見は到底吐けないのだが、とにかくユダヤ寄り、パレスチナ寄りと交互に知識の量を増やしてゆき、個人的な考えをまとめたいと思う。とにかく、今はユダヤの民が受けた仕打ちについてお勉強をしてみたいと思う。

 ちなみに、18世紀、ゲットーでのユダヤ人が受けた名状しがたい状況をリアルに垣間見た一人の作家の文面が残っているので、ここで引用させていただく。

デンマークの作家イエンス・バッゲーセン(1764〜1826)の証言

「蜂の巣の穴としかたとえようがないようなフランクフルト・ゲットーの恐ろしいほどのひどい入り口は・・・その狭い通りを一度ずっと通り抜け、散歩をする興味を私に起こさせた。・・・そこは又何と途方もなく数限りないみじめさが支配していたことか、又何と多くのあわれむべき姿に満ちていたことか、私が抱えていたスケッチブックの用紙にまで染みつくのではないかと恐れるほどの悪臭など・・・このように抑圧された人達の弁護人は、道義上許されるあらゆる手段を持って、圧制者達に彼らが何をしなければならないかを明らかにするべきである。私は彼らユダヤ人がなんの恩恵も受けずに生きていることの証人であり、又彼らがいかに筆舌に尽くしがたい苦悩と人間としての本性をゆがめられて生きているかということに私は強く心を揺さぶられたのである。中略、非人間的な奴隷売買・・・などと並ぶような現行のユダヤ人規定ほど、ゾッとする非道なものはこのヨーロッパにほとんどあるまい。実際、このユダヤ人規定は人間の正常な理性に相反するものである。中略、もしこのヨーロッパ・ユダヤ人の縮図であるフランクフルトのゲットーを見て・・・何ら同情の念に駆られないものがあるとすれば、それは紛れもなく人間としての理性と心に欠けているのだ。まさにユダヤ人は人間の愚かさと無慈悲、迷信と圧制、そしてヨーロッパのこの上ない愚鈍の犠牲なのだ。」

 上の文面を読んでいただければ、いかにユダヤ人達の置かれた状況が悲惨であったかをご理解いただけると思う。しかし、この良識ある作家の慈悲深い考え方で判断するなら、フランス革命前の18世紀後半こそ、ゲットーの緊迫、密集化と言う悲惨な状況が極限に達し、それにより啓蒙思想や解放の声が一段と高まる予感を感じるのである。まあ、それにしてもゲットー内のおぞましいイメージ。作家バッゲーゼンの憤懣やる方なきその思い故に、彼の筆致は最も差別が先鋭化したそんな時代を現代の我々にもリアルに描きだしてくれるのである。

 さて、その様に迫害され続けていたユダヤ人であるが、フランクフルトゲットー内での住人3000人の内4人に一人は富裕な家庭に属するユダヤ人であったということに驚かされる。先ほどの痛々しいほどの文面を読む限りはそんなことは信じられないと思うのだが、フランクフルト市参事会が調査した結果なので致し方ない。そのことは、キリスト教徒がなぜユダヤ人をそれほどまでに差別し続けたかの何かを示唆しているのではないか。さらに言えば、その富裕家族の中で、ロスチャイルド家をはじめ54世帯は、一万グルデン以上(3000グルデンでおよそ、1億数千万と思われる)の財産を持つ大金持ちであった。つまり、ゲットーの11%に近い住人が、大金持ちに属していたのである。もちろん単純な数で言えば、中産階級ないし貧しい住人の方が多かったことは疑いないのだが。しかし、当時のフランクフルト市の人口3万7000〜3万8000人における市民の富裕階級と貧しい庶民の数を、ゲットーのそれと比較して考えると、いかにゲットーに富裕階級が多かったかが明らかとなる。そう言うことは、19世紀に至るまで、ひどい状態でゲットーに閉じこめられたとは言え、ユダヤ人が資金面ではすごい力を持っていたことがここに於いて証明されるのである(それは現在に於いても変わりはない故に、何かと嫉妬を含めてユダヤが世界を動かしているなんぞと喧伝されるのだろうね)。

次回は「フランス革命」です。参考文献「ユダヤ人ゲットー」大澤武男著・講談社現代新書

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