<砂塵>
Tactics1 オルゴール動乱

<13>

コージ、ここにいる?なんて聞かれても困るよな(^^;)

俺は、ファーダのほうを見た。

“行け”

彼は手で、そう合図してきた。おいおい…と言いかけた途端、ファーダは手話を続けた。

“だが、レイ大佐じゃない可能性もある。気を付けろ”

確かにそういう可能性もあるよな。だけど、出ていった途端に蜂の巣にされたら、誰が責任とってくれるんだよ????…と、文句言ってもどうにもならない。

俺はM16を構えたまま、ガラスの扉の前に立った。

「やっぱり、いたんだね(^^)…コージ、だったっよね…

俺の正面で、ガラス越しににっこり微笑んだのは、「やっぱり」黒髪の大佐だった。

こいつ、声帯模写まで出来るのかよ!俺は、一歩飛びのいてトリガーを引いた。もちろろん奴もだ。ガラスが砕け、何かが俺の頬に当たった。痛いぞっっ!

と、その時突然目の前に転げ出たのは、手榴弾。

2,1と心の中で数える間に、俺は専用車のほうに逃げた。

ドオォォォッッッと、凄まじい爆音とともに煙が上がり、俺はファーダとヤーブによって専用車の上に引っ張られた。そして車は、猛スピードでレストランから飛び出し右に行く。つまり、本来の進行方向だ。

「コージ、どこに逃げるんだっっ?!」

と、アーサー。俺はようやくファーダの上からどいた。

「このまままっすぐだ。突き当たりを左に!倉庫があるっっ!」

アーサーはその言葉通り、まっすぐ行って左に曲がった。

おーい、ブレーキぐらい踏めよ…(;;)俺達も荷物も車から落ちることは無かったけど、手すりには死ぬほど叩きつけられた。
アーサー…体の青痣は、全部この時のだぞっっ!

で、倉庫…ここは、文字どおり倉庫。ボルトや金具の類から工具、果てには鉄筋や巨大な壁に金属のロールまで、ありとあらゆるものがあったんだ。無い物は、武器の類のみ。俺達は棚の蔭に隠れた。自動で動く棚は10メートル上の天井までありそうで、いろんなものが分類されて置いてある。

「どーするんだよ?」

と、ヤーブは金槌のような巨大ボルトを手にとって眺める。

「これ、インテリアにどうだろう」

「私の居間には、馴染まないな」

と、ヨハン。ヤーブは、残念そうにボルトをもとに戻した。

「敵の出方を待とう。彼、何て名前だっけ?ええと、イシスだっけ」

と、ファーダは三つ編みを後ろに投げた。

「彼が一人だとは思えないな。とにかく彼らを何とかして、先に進もう(^^)」

『とにかく』『彼らを』『何とか』するだあ?にこにこしながらいうには、抽象的すぎるよな。まあいいけどさ。

と、その時だった。棚の間をかいくぐって、こそっと顔を出した奴がいたんだ。俺達は一斉に銃を向けた。

相変わらずの無表情で俺達を睨んだのは、なんとサム!

「サム、こんなとこにいたのか?」

ファーダが、驚いたように彼を台車に乗せた。

「ご挨拶だな、ファーダ。ここで爆薬の準備して待ってれば、ヴァイシャとかが来てさ。身動きとれなくなっちまったんだ」

サムは、ちっ、軽く舌を打った。

「ご苦労さん。ランディとジェシーは?」

「予定通りだ」

言いながら俺とサムは、パンッ♪と手を合わせた。サムがいるのも、いいもんだよな。けっこういいキャラクターだし。旅は道連れ、だもんね。俺は、はりきって無線のスイッチを入れた。

「おーい、ブレストン。聞こえるかーい?」

“聞こえるよ♪コージ、今どこだい?まだレストラン?”

「ま、その近辺。イシス大佐に再会したんだ。熱烈なラブコールから、逃げ回っているところ」

“イシス大佐?彼らなら今頃、営倉に入っているよ?”

「…」

俺は、無線のマイクを睨んだ。なんておめでたい奴っっっ!俺の、あの超スリル体験が夢だったなんて言わせないぞ。現に、発射の衝撃で、右の手首が痛いのなんのってもう、涙出るくらいだぜ(;;)

「…入っているかどうか、確認してから連絡よこしな」

と、俺は無線を叩き切ってやった。

「どうやらあれは、コージの夢だったらしいな」

読心術でも使ったのか、ヨハンがニヤニヤと笑う。

「不死のゾンビ男たちだ。幽霊にも変身するのかもしれん」

「ゾンビが変身なんかするもんか」

と、俺は大人げなくムキになった。

「機嫌悪くなるくらい、痛むのか?」

ヨハンは、俺の右手首をそっと握った。

「やり方さえ知ってれば、わたしが手当てをしてあげるんだけど……ねっ!」

その瞬間、ヨハンは俺を脇に抱え込んで台車の上に伏せたのだった。

その上を銃弾がかすめる。ファーダとヤーブ、サムの3人は鉄鋼の弾除けの蔭に飛び込み、運転席のアーサーは車を急発進させる。

「ファーダ! 奴等の位置は捕捉したっ!左後方、棚4つ向こう!俺達と反対に走っているっ」

アーサーが叫ぶ。 銃撃されただけで、何故そこまで分かるんだろう(^^;)でも、傭兵稼業をしている奴は、けっこうすごい能力を持っている奴が多い。感が鋭いっていうのかな。個人的には、こういう呆れた(人間離れした)感を、超能力というのではないかと思うんだけど…

などと言っている場合ではない。

「コージ、どこから下に降りるんだよっ!」

「倉庫の向かい側に、締め切りの扉があっただろっ」

ファーダの問いに、俺はヨハンと手すりに掴まりながら叫んだ。概要は大体教えてあるんだが、このめちゃくちゃな運転で、俺とアーサー以外の奴等の方向感覚は、すっかり狂ったらしい。

「だからそれは、どっちなんだっっ」

「向かっているけど、降りれないと思うぞ」

と、アーサーが返事をする。

「ありゃあ、扉というより「壁」だぜ。地下8階に降りるためには、爆破するとかしないと、開かないんじゃないの?セキュリティ堅そうだぜ」

アーサーの雑な運転にもようやく慣れて、俺達は落ち着いて回りを見ることが出来るようになった。敵の気配は感じるけど、攻撃してくる様子はない。

ヨハンは俺の上からどいて、慎重に這いずりながらM60のところまで行く。

「コージ、緊急コール鳴らしとけ!」

ファーダもようやく、落ち着いたらしい。アーサーがほんの少しスピードをゆるめた隙に俺達は、どうにかポジションに戻った。

「アーサー、止まれ!敵の気配がしない」

ファーダの声に、アーサーが棚に沿ってゆっくりと台車を停める。

しんと静まり返った中、俺達は辺りを見回した。

「倉庫の外で、待ち伏せるつもりかな?」

「とすると、厄介だぜ。あそこは、「右折」しかできないんだから」

と、アーサーがぼやく。緊急コールを聞いたブレストンが、無線機の向こうで何か騒いでいる。が、俺達はそれをほっといた。緊張して、誰も口をきかない。

と、その時だった。広く、しんと静まった倉庫の中で、ほんの小さな音が響いた。響いたというより、音がしたような気がする…と言うほうが正しい(^^;)

こんな高セキュリティの施設に、ねずみ?と俺は考えたのだったが、これは口に出さなくて正解だったよ。次の瞬間、ヨハンが叫んだんだ。

「M34だっ!」

M34といえば、焼夷手榴弾とゆーやつではないか?35uを一瞬にして焼き尽くす、驚異的な爆弾で、だいたいどこの軍でもベテラン以上の戦闘要員しか使えないし、標準装備でもないし、もともとアーバン戦用というヤツだ。

そんなもん、普通使うかよっっっ!

俺達がびびった瞬間、倉庫の中心辺りがぴかっと光ったのだった。

ドウッッッと鈍い音がして、倉庫の入り口から炎が吹き上がる。と、俺達が乗っている操作を失った台車は、左の側面から勢いよく壁にぶつかった。しかしアーサーは、止まらなかったよ。壁に車体をこすったまま、とにかく前進あるのみだ!

「掴まってろっっっ」

言われなくたって、掴まってるよ。アーサーは、見事なテクニック(というより意地?)で車体を壁から離すと、急転回をする。

俺達はあのレストランをちょっとだけ通り過ぎ、倉庫のほうを向いて止まっていた。壁と床、そして台車の上には赤い血が、大量に流れている。

「誰の血だ?」

ファーダが、緊迫した顔で、無事を確認するように俺達一人一人と視線を合わせる。

「…これは、血じゃないよ。オイルだ」

答えたのは、ヤーブだった。いきなり、みんなそろってほっとしてしまう。

どうやら壁にぶつかった瞬間、「ヴァイシャ」の一人、もしくは二人を押しつぶしたようだった。

倉庫からは炎と黒煙が吹き出し、スプリンクラーが作動して俺達に降りかかる。

俺達が行こうとしているこの通路の突き当たりは、煙と炎で何も見えなかった。

「消化剤が、普通の水でよかった…」

と、サムが呟く。

「こんな所で酸素吸収型とか遮断型の消化剤使われたら、俺達以前に、ここの作業員が死んじゃうじゃねーか」

俺がそう言うと、ヤーブは俺を小突いた。

「人命が尊重されてるんじゃなくて、水と反応するような危ない物がないってことだろ」

まあ、それはそうです(^^;)でも、気温は氷点下。この雨のような水が、そのうち雪に変わったりして…

ほっとしたのもつかの間、ヨハンが煙に向かってM60を撃ちまくる。

「とりあえず、予防だ。生き残りがいるかもしれないし」

とはいえあの煙の中だって、何百度って世界だろ?生き残りも、焼けこげているんじゃないのかな?あとは鎮火を待って、地下8階に行く開かずの扉を破壊するだけ…

ふと、ヨハンが銃撃を止める。何故なら、またしても「音」がしたから。細い、小さな…

ヒュウゥゥゥゥ…これはもしかして、ほら、吹き損ねた口笛?

渦巻く黒煙の中から飛び出してきたのは、3度目正直。そう、迫撃砲弾だったんだ!

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「こんなのアリなのか?」

と、ヨハンが愚痴る。まあ、気持ちは分かるよ。全員そんな気持ちだろうからね。

通路では、俺達が間一髪で飛び降りた台車が、景気良く燃え上がっていた。

で、俺達が何をしているかというと、狭くて暗い空間で息を切らしていたんだ。というと、何だか怪しいが…(^^;)つまりここは、レストランの中にある狭い女性用ロッカールーム。ここで働くのは、男が多いからね。女性用ロッカーは、男性用の3分の1くらいで、そうだなあ、6畳くらいかな?

そして俺達がやっているのは、呼吸を整えることともう一つ。「天井の通風孔をこじ開けること」。アーサーがサムを肩車し、サムは通風孔の格子を留めているビスに爆薬を仕掛けていた。その間に他の面々は、台車から持ち出せた荷物の整理だ。もちろん俺のコージ丸は無事さ。予備の弾倉に予備の小型無線機、手榴弾に爆薬…といった基本装備は、自転車につんであったんだ。そしてその荷物を、一袋にまとめ、無線機はヨハンが背負った。自転車のほうは、もちろん折りたたんで俺の背中。

他に持ち出したのは、何とM60とその弾…アーサーの怪力には恐れ入ったよ。

「アーサー、左に一歩よけてくれ。ファーダ、爆破するから手をかして」

と、サム。ファーダはヤーブに肩車してもらい、通風孔の格子を押さえた。

「いいか、爆破してから20秒でケリつけるぞ」

ファーダの言葉に俺とヨハンは肯き、ヨハンは入り口で様子をうかがう。

「3.2.1.爆破」

サムの掛け声とともに、ドンッという小さな音がして塵が降り、ファーダは外れた格子を俺に渡した。爆発音を聞いたのか、外が騒がしくなる。そんなに大きな音ではなかったんだけど…(^^;)

サムは、すっと通風孔の中に消えていく。

俺は格子を下に置くと、アーサーと一緒に荷物をファーダに渡した。それをサムが受け取って…という仕組み。最後の荷物は、M60の弾丸だ。それをどうにか持ち上げてファーダに渡し、ふっと鼻息をふいた途端に扉に銃弾が当たる音がし始めた。

「扉から離れてろ!コージ、その格子よこせっ」

ヨハンの指示に、俺は素直に従った。M16で、ロッカールームの扉なんか撃つなよ…いくら厚みがあるっていったって、防弾じゃないんだ。敵の銃弾が、次々に飛び込んで来る。

「コージ、先に登れっっ」

ファーダの声に、俺はヤーブとファーダをハシゴ代わりにして、通風孔に潜りこんだ。サムが俺と場所を変わって下に降りていく。

そろそろ20秒だ。通風孔は、結構広かった。高さ1メートルほどの四角い通路で、普段通るのは人間じゃなくて、掃除専用ロボットと風くらいかな。横には既に穴が開けてあって、荷物はそこから出されていた。

俺はそこから出て、ファーダたちがいるあたりの通風孔に特殊なシートを載せ、それから出ているコード数本に、自転車の左サドルから引っ張り出したコードをクリップでつないだ。 それから素早く自転車を元に戻して後輪が浮くようにスタンドを立てた。サムが開けた通風孔のマウスホールから、ファーダ、アーサー、ヤーブ、そしてヨハンが出て来た。

一番最後は、もちろんサム。こいつは肩車なんかしなくたって、2メートル程度の高さなら平気でよじ登るもんね。

「コージ、いいぞ」

「はいはい。行きますよ」

こうなりゃ自棄だ。俺は自転車を 力いっぱい漕いだ。

「おりゃーーーーっっっ」

クリップで繋いだところが一ヶ所、パチッと光る。でも、負けるもんかい!!

通風孔に掛けられたシートは次第に熱を帯び、焦げ臭い匂いが立ち込める。

「コージ、来たぞっっ。もっと気合いれろっっっ」

と、マウスホールから応戦するヨハンが叫んだ。

「努力してるだろーがよっっっ」

気合を入れた途端、シートから煙が吹き出す。と、ヨハンはファーダとアーサーに足首を引っ張られて外に出た。

それと同時にシートのかかっていた部分は「グニャ」っと歪み、ロッカールームの中へ、シートごと“滴り落ちて”いった。溶けない金属を溶かす、これぞ必殺の『溶解金属君』だっ(ひどいネーミングだなー(^^;))!

正確には、溶けないものを溶かすというより、溶けるものを溶かし、なおかつそこに特殊シートを貼り付けるということだ。溶けるのは、配線や、溶接部分、補強のための樹脂。そんなのが、滴り落ち、それによって開いた穴をシートが密閉する。

どこかの軍が20世紀の後半に開発したとかしないとかいうモノなんだけど、動力は自転車じゃなかったと思うんだよな〜(^^;)

下から悲鳴が聞こえてきて、俺達はほっと息をついた。俺が呼吸を整えている間に、みんなは自転車に荷物を積み直す。

回りを見たところ、ここは地下7階と地下6階の間の、作業用の空間らしかった。高さは2メートルほどで、どこまでも広い。

「とにかく、ここから出よう。残った奴がすぐに追って来るぜ」

と、ファーダ。ということで俺達は、出口を探すことにしたのだった。あーあ、7階まで来たっていうのに、一歩後退かぁ。先はどうやら長そうだ…

<14>

「貰った地図によると、この右側に、出口があるみたいだ」

と、俺は自転車のライトを点けて、ゆっくりと漕ぎ始めた。他の奴等も銃を構え、歩き出す。さっきの雨のおかげで、寒くなっちまったぜ。

「とにかく、台車をなくしたのは、痛かったよな」

と、ファーダがぼやく。

「ここから最下層まで、どれくらいあるんだよ?」

「最短距離で2キロくらいじゃないか?」

という俺の返事に、ヨハンがため息をついた。

「何も無かったら、我々の足で15分の距離か。やれやれ」

「近くて遠いってのは、こういう事を言うのかねえ」

と、アーサー。彼は、M16を構えたまま扉の横に張り付いた。

俺達は、目的の出口に辿り着いたんだ。20段ほどの階段があり、その先が扉だった。

「コージ。この階段は6階の、どこに出るんだ?」

「整備管理室だよ。監視カメラなんかがあるんだけど、それはブレストンが使えなくしてあるって言っていたぜ」

「時間的に、先回りはされてないな。行こう…」

ファーダがそう言った瞬間、俺達はまたしても固まった。扉の向こうに誰かがいる…

いい加減、うんざりだ。本当に安い仕事ひきうけちまったぜっ!

俺のため息と同時に聞こえてきたのは、またしても

「…コージ、コージなんだろう?開けるよ」

というレイの声だったんだ。ちくしょーっっっお前らいい加減にしろよっ!

俺達は、息を潜めたままじっとしていた。

「コージ?怪我でもしているの?大丈夫?」

扉の向こうの奴はそう言いながら、かちゃっと扉を押し開けたんだ。

いたのは確かに、本物のレイ。これはいったい、どうなっているんだーーーーっ!

「コージ・・・あ、神父様も一緒だね(^^)」

と、彼は屈託無く微笑んだ。でもその格好は、軍の戦闘服にブーツ、手にはM16で、背中には SMG(サブマシンガン)。

「さ、大丈夫だよ。はやく上がって」

「……」

信用できるかよ、そんなこと。またしても騙されるのがオチだぜ…と思ったら、なんとファーダの奴は、てくてくと素直に階段を昇っていったんだ。おーいっっっ、大丈夫なのかよっっっ?

「レイ大佐、だったよね。君、一人なの?(^^)」

ファーダは負けずにニコニコして、彼にそう言ったのだった。俺達は、あっけにとられちゃったよ。

「うん、一人だよ。下で大きな音がしたから、びっくりしたよ。僕はここで、モニターが動かないかと思って色々いじっていたんだ」

「でも、動かなかっただろう?」

「うんー、やっぱり、動かないように操作されてたるのかな?とにかく、おいでよ(^^)」

これって一体…?(‘‘;)

「ありがと。みんなも来いよ」

俺達はファーダの呼びかけに応じ、階段を上っていった。自転車を担ぐのは、俺だ。荷物も含めて、自転車の重量は10キロくらいかな。

監視室とやらは、モニターがいっぱいあってなんだか無機質な部屋だったよ。唯一有機的なのは、テーブルの上の淡いグリーンのポトスの葉っぱ…

「神父様たちは、ここからどうするの?僕は最下層に行きたいのだけど、なんだか色々な気配があって恐くて…」

「恐い?」

聞き返したのは、 ヤーブだった。

「あ♪ あなたは懺悔以外でも教会に来る人だよね」

レイは、嬉しそうにヤーブを見る。

「よくよく見るとみんな、懺悔する以外にも、教会に来ている人たちだ♪」

確かに、そうかもな。神父のファーダはともかく、サムとヨハンは敬謙な信者だし、ヤーブは日曜の暇つぶしに教会に来るし… でもアーサーは、俺と同様懺悔するためだけに教会に来てるぞ!

「こんなところで神父様に会えるなんて、絶対ついてるよね」

レイはニコニコと、妙に楽しそうだ。

「俺は、ヤーブって言うんだ。レイ、君は何のためにここにいるの?ああ、この監視室ではなくて、この地下動力施設に…」

「僕は、セイナネに指示されたんだ。最下層まで来なさいって…」

と、彼は自信なさそうに答えた。

「コージに電話した後、父の夢を見たんだ。父も、地下においで、そこで待っていてあげるからって…だから、行くことにしたんだ」

「…ここで、戦闘をしたかい?」

「戦闘?…したよ。僕を襲った兵士数人に向けて発砲したけど、死にはしなかった…。こういうの、あまり得意じゃないし、それで恐くなって隠れていたら、昨日になって急に人がいなくなっちゃって…でも戦闘は続いているような気配はしているし、コージが来るような予感がするし… それで、ここで待つ事にしたんだ」

ヤーブが、こそっとファーダをつつくのが見え、俺達は黙っていた。ただ、彼の話からすると、警備兵(の大半)を殺したのは、レイではないようだ。

「俺達も最下層に行く途中なんだ。ゲートの前まで行ったんだけど、イシス大佐に遮られちゃったんだよ」

と、ヤーブが言葉を続ける。

「イシスに?…イシス、どうしてここにいるんだろう?」

「セイナネ教授が、呼んだんじゃないのかな?」

「セイナネが?うーん・・・」

何か思い当たるのか、レイは考え込んだ。

「とにかくレイ、一緒に行かないか?」

と、セーブは誘った。

どうやら、レイと動力炉とセイナネ教授とヴァイシャル少将とヴァイシャがつながりだしたぞ♪俺は嬉しくなってきた(^^)。あとはこれが、スパイにつながれば、万事オッケイっっ!

「一緒に行こう。それのほうが安心だし、君が一緒にいてくれれば、イシス大佐も俺達に銃を向けることはないだろうしね」

「うん、いいよ。一緒に行くよ。でも僕、銃の腕はあまり…」

「大丈夫だよ。みんなでカバーするからさ。なっ♪」

と、ヤーブは俺達に片目をつぶって見せる。

「そうそう。ここで会えたのも神様の思し召しだよ。一緒に行こう」

と、ファーダ…レイみたいな奴には、「神様」なんていう単語は効果あるんだよな。もちろんレイに対する効果もテキメンだった。

彼はぱっと顔を輝かせる。

「そうだね♪一緒に行こう♪♪僕はレイ。レイ・ヴァールっていうんだ。よろしくね」

俺達はこいつを知っていたけど、彼のほうは俺とファーダしか知らないんだもんな(^^;)

とりあえずここで、自己紹介だ。

「さ、行こう」

と、彼はファーダとサムと一緒に、用心深く部屋から出て行く。後に続こうとした俺に、ヤーブがそっと囁いた。

「俺は彼と組む。コージはあまり、近寄るな。いいな」

「お、おう」

どういう意味かよく分からないけど、従ったほうがよさそうだ。何があるか分からないし、俺は一応、怪我人だもんな(^^;)

「コージ、お前はもう、銃を使うな。手首腫れてたぞ」

ヨハンはそう言って俺の肩を叩く。そうなんだよな。さっき倉庫で手首握られた時、そんな感じがしたんだよ… 現に包帯がきつくて痛い。

「どうしても痛いようなら、外気にあてろよ。凍傷には気を付けろ」

と、ヤーブ。俺達は、監視室の外に出た。6階も、他の階とあまり変わらなかった。こんな空洞の階ばっか造って、何になるんだろう?

「この先にいけば、あの倉庫の2階に部分に出られるはずだけど・・・」

そう言いながら、レイは俺を見る。

「まあ、そっちのが近道だよな」

「じゃう、そっちに行こう」

と、ファーダが決断する。6階を半分ほど来た所で、俺たちは壁の窪みに隠れるようにして座り、小休止をとった。

レイが、なんだか具合悪そうだったからだ。

「大丈夫か?」

ファーダが声をかけると、レイは首を横にふった。

「・・・だめだ。これ、これを」

レイが震える手で差し出したのは、あの、銀色のコンパクトケースだった。

「これは、僕がもっているわけには・・・」

ファーダが手をだした瞬間、レイの振るえる手は、そのケースをぐっと握り締めた。

「なら、誰にもわたすわけにはいくまい」

レイは少し低い声でそう言って、俺たちにニヤリと笑ったのだった。

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ドーンッと、重低音の爆音がとどろく。俺たちは、今きた方に向かって銃を撃ちまくった。イシスたち?が追いついてきたんだ。と同時に、レイが、目的の方向に向かって走り出した。

「コージ、サム!追いかけろっ!」

ファーダが叫ぶ。俺は、勢いつけて地面を蹴るのと同時に、後ろの荷台に載せられた荷物のベルトを切った。荷物が散らばって落ち、自転車がふわっと軽くなる。

自転車にまたがると、全力でベダルを漕いだ。それでも、先に走り出していたサムに追いつくのに1分近くかかった。サムは、先攻だけあって普段から荷物持ってないもんな。しかも、超人的に速いんだよ・・・

「サム!乗れっ!」

サムと、自転車の俺が並んだ瞬間、奴は荷台に膝をかけた。それから、前かがみの俺の背中に手を乗せ、中腰になる。

「コージ、見えたっ!」

6階は、7階より直線が長い。太い管が3本、壁を這っている。その長い直線の先に、これまた超人的な走りをしているレイが見えた。

「追い抜くぞっ!」

俺は、1と2しかないギアを切り替えた。

シュウッと音がして、ペダルが軽くなる。速度が増し、レイと並ぶ・・・彼は、驚いたように振り返った。

「はあっ!」

と、サムがレイに飛び掛る。自転車はさらに軽くなって、俺はあわててギアを戻した。

が、間に合わない。目の前に迫ってきたのは、なんとも軽そうな、アルミの扉だった。

「うわーっっ」

とっさに車体を傾けて、後輪を前に突き出す。扉がぶっ飛び、俺は自転車ごと横滑りしたまま手すりにぶつかって止まった。

長い直線の突き当たりは、7階で酷い目にあった、倉庫の2階部分だ。

地下7階と6階が吹き抜けていて、6階部分は壁を一周囲むようにして細い通路が壁沿いにくっついている。

その通路の手すりは、俺と自転車の体重を、辛うじて支えてくれた。なにしろ、地下7階と6階の間には、もう1階層あるわけで、床までの高さだって半端じゃない。

「あ、危なかった・・・」

「危ないっ!」

ほっとした瞬間のサムの怒号に、振り返った俺は目を剥いた。サムとレイが、絡まったまま宙を飛んできたんだ。伏せた俺の上を越え、サムが手すりを蹴る。手すりはぐにゃりと外側に向かって、まるでプロレスのリングのロープみたいに伸びたように見えた。

サムはその反動を利用して俺のいる細い足場に着地する。投げ飛ばされたレイは、くるっと一回転すると、俺たちのいる位置よりすこし低い棚の天井に立った。

そして、がくんと膝をつき、俺たちを見上げた。

「傭兵ごとき、こんなに戦闘能力が高いとは。。。」

彼は、悔しそうに俺達を睨む。

「だが、最下層に先に行くのは、この私だ。貴様ら全員、まとめて吹き飛ばしてやる」

レイはふらりと立ち上がって後ずさり、棚の向こう側へ飛び降りてしまう。

「くそっ、俺の頭突き、10発も喰らわせたのにっ」

サムが呟いた瞬間、俺たちの視界のはしっこで、何かが光った。

んっ、と思うより早く、俺は自転車を起こして漕ぎ出した。サムもしっかり、荷台に乗り込む。

一瞬遅れてドーンッと、こんどは派手に大きな音が響いて、俺たちが壊したドアから、すさまじい爆炎が噴出した。その勢いと熱で、俺たちのいる細い通路を止めたボルトが、次々に外れ飛ぶ。

「わああっ!」

俺は必死でペダルを漕いだよ。壁を3分の2周、ぐるりとまわり、ようやく下へ降りる階段にたどり着く。そのときはもう、俺たちのいる足場も、壁から離れていた。

「コージ、自転車よこせっ!」

階段にさしかかると同時に、サムは自転車を担ぎ上げ、器用に手すりを尻で滑り降りていく。俺もあとに続いた。といっても、その時はもう、階段も崩壊し始め、俺は腹ばいになり、手すりを滑り降りる。途中で床に飛び降り、俺とサムは、倉庫の中央に逃げ込んだ。棚の陰にかくれると同時に、壁沿いの足場は完全に崩壊し、棚をいくつかなぎ倒した。

上からの落下物と地響きが止み、俺たちは息をついた。

「スリル、ありすぎる・・・」

俺の言葉にサムは頷き、手を出した。

「…チョコ、持ってたらくれ」

ぐうう、とサムの腹の虫が鳴る。俺はサムの図太さと食欲に感心してもう一度溜息をつき、ポケットからコンバット用の板チョコを出した。

--------------

「ファーダたち、大丈夫かな?」

「あのくらいの爆発じゃ、死人なんかでねーよ」

サムは、珍しく冗談めいたことを言い、最下層に降りるためのエレベーターの扉に、爆薬をしかける。

「さっきの手榴弾で吹っ飛んじまったかと思ったけど」

と、彼は肩をすくめる。

「ランディの作った爆薬保存ケース、意外と丈夫だったな」

「M34に耐えられるんなら、合格だよな」

「調子に乗って、ほかにへんな発明しなきゃいいが」

その意見に、俺も頷いた。ランディとアーサーの発明品は、失敗のが多い。サムが先に来て準備していた爆薬や装備は、瓦礫に埋もれてはいたけど、無事だった。

サムが爆破準備をしている間、俺は見張りしながら、サムが運び込んでいた予備の弾倉をポケットに突っ込んでいた。全員に1マガジンずつしか配れないけど、まあ、それでもかなりマシだ。

最初に休憩したレストランは、明かりが消えている。防弾のガラスも砕け、俺たちの乗ってきた台車が、まだくすぶっている。

「コージ、やるぞ」

俺たちは、倉庫に戻って体を低くした。

「2.1」

ズズン…と、今度はもう少し大きな音と振動、そして爆風が吹き込んできた。

「よし、行ける」

俺達が扉に駆け寄ろうとしたとき、6階の、俺たちや爆風が突き破った入り口から、騒がしい声が聞こえてきた。

ヤーブ、ファーダがロープを持って飛び出し、入り口からぶら下がる。と、ヨハンとランディが続けて出てきた。爆発音が響いて、その長方形の出入り口から再び爆炎が噴出した。が、今度は手榴弾なわけで、そんなに大きくない。

「早く来いっ!」

サムが走り出す。ファーダたちは手早く下に降りてくると、俺たちを追いかけてきた。

爆破された扉には、人が3人くらい並んで歩けるくらいの穴が開いている。さほど広くはなく、エレベーターと階段が並んであって、その横に駐車場の料金所のような警備員室がある。

そこに倒れていたのは、レイだった。先に来ていたサムが、彼の両腕をしっかりねじっている。ようやく合流したファーダたちは、ずいぶんと煤けていた。俺は手早く、彼らに予備の弾倉を渡した。

「ヴァイシャたち、打たれ強いよ。強すぎる」

言いながら、ヨハンがマグナムを、まだ気絶しているレイに向けた。

「2、3発、ぶち込んでおいたほうがいいかもしれないぞ」

「やめとけよ」

と、ファーダは、ふうっ、溜息をついた。

「ランディ、こいつが気にしてるコンパクトケース、もらっとけよ」

「どこにあるんだろ」

ランディが手を伸ばしかけると、レイが目を覚ました。俺たちの間に、緊張が走る。

「ケースは、胸元に。。。中のポケットだ。早く、取って・・・レイヴァールが覚醒する前に・・・」

ランディが、慌ててレイの襟元を開ける。

「ええと・・・」

「おのれ、レイ!なぜお前が、私の邪魔をするのだ!」

レイが叫んだ瞬間、バキッと凄まじく痛い音がして、レイが立ち上がる。サムとランディが、数歩飛びのいた。

「なんて奴だ。自分の両肩、折りやがった」

そう呟いたサムを、レイはちらりと見る。

「君から逃れるには、そうするしかなかったようなのでね。なに、すぐに治る」

言いながら、彼は右手を握ったり開いたりした。そして、ヨハンを見てにやりと笑う。

「どこを狙ったって、無駄だ。この体は、完全に支配した。再生能力を、レイは嫌って使わなかったが、ふふ・・・この体は、イシスたちより高性能だ。銃では死なない。最下層で会おう」

彼は、そのまま後退してエレベーターに乗り込んだ。

「イシス、わたしに会いたいのなら、早くおいで。障害物はすべてどかすんだよ…」

俺達は、ギョッとして振り返った。

「レイ?レイヴァール兄さん?!」

穴から、イシスたちがばらばらばらっっとなだれ込んで来る。だけどレイを乗っ取った「レイヴァール」は、エレベーターの扉を閉めてしまったのだった。

おいおい。広さ20畳ほどの部屋に、敵と向き合うなんて、冗談じゃないぜ。

だけどこれは、お互い様だ。どっちが先にどういう行動を取るか…(^^;)

俺達5人とイシス大佐たち10人は、お互いかなり困惑して、顔を見合わせたのだった。

双方の距離、1.5メートル。銃撃はないだろうけど、肉弾戦だって勝ち目ないぜ。

しえええええぇぇぇぇっっっ、ファーダ、どうするんだよ?!


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