<砂塵>
Tactics1 オルゴール動乱

<7>

「はあ、はあ…」

古びて崩れかけた納屋に飛び込み、俺達は座り込んだ。

「あー、びっくりした。心臓止まるかと思った…」

ファーダは、手で自分の顔を扇いだ。

「全く、心臓に悪い。おかげで、汗をかいてしまった」

と、ヨハンがぼやく。

「俺の鉄拳を食らって目を開けるなんて…」

サムが、両手のメリケンサックをぶつけ合って低い金属音を出した。よほど悔しかったらしい。
外の様子を伺っていたヤーブは、赤く染まった指先をズボンになすり、振り返った。

「ファーダ、どうする?奴等、間隔を詰めてきてるぜ」

「どうするかな。コージ、ここはどの変だ?」

「アルカンサ街だよ」

と、俺は崩れた壁の隙間から見える周りの景色と時計で方角を確かめた。

「南D4区画だな」

「ダウンタウンから、ゴーストタウンに迷い込んでしまったわけか」

と、ファーダはうんざりした顔をする。

「アジトから、少し遠ざかっちゃったな」

「下水道使えば、近いけど?」

俺の提案に、みんなは即座に反対した。

「下水道行くくらいなら、ここで玉砕するぞ!」

と、とくに激しく反対したのは、ヨハンではなくて、ファーダとサムの二人。まあ仕方ない。この二人は、俺に香港の下水道を案内されて以来、下水道嫌いなんだ。俺だって好きじゃないけどさ、近道であることは確かなんだ。

ただし、隠れるところが少ないから、危険なんだけどね。

「このシャツ、白いからな」

ヨハンは、汗で体に張り付いたシャツをまじまじと眺めた。埃もついて、少し汚れている。

「下水道なんか歩いたら、一発でおしゃかだな。あー、あんまり高価なものじゃなくて、良かった」

「ヨハン、お前、下水道行く気なの?」

ファーダの問いに、ヨハンは首を「横に」ふった。

「そんなわけ、なかろう。シャツはともかく、ズボンと革靴は高いんだ」

「…ああ、そう」

ヨハンの価値観とか判断基準っていうのは、全て自分の服装とモノの値段に左右されるんだ。ヨハンは、ポケットからシルクのハンカチを取り出して優雅に広げると、額の汗を拭いた。

「ほこりにまみれるのは、趣味じゃないけど、下水道しかないなら、仕方ないということだ」

「…」

ファーダは、俺をちらりと見た。俺は恨めしく、ファーダに視線を送り返した。ヨハンっていうのは、追いつめられないとその「凄腕」を発揮してくれないんだ。だからファーダたちは、俺にヨハンを扇ぎたてろと言ってるわけ。俺は、ため息をついた。

「…そうだな。下水道行こうぜ。ヨハンが行くっていえば、ファーダとサムだって、反対しないさ」

「冗談だろ! 下水道なんか、嫌だ!」

仕方ないとか言ってたくせに、ヨハンはいきなりムキになった。

「じゃあ、あいつらを何とかしてよ。ヨハンの狙撃の腕だけが、頼りなんだから」

その途端、壁に銃弾が炸裂した。敵が到着したらしい。

「下水と地上と、どちらにするんだよ!」

俺は、応戦しながら叫んだ。

「天神さまは、お前だぞ!」

「下水なんか、絶対嫌だと言っただろ!」

どうやら、追いつめられてその気になってくれたらしい。ヨハンはズボンのポケットから弾倉を出すと、銃のグリップに重ねるようにして持つ。

「援護してくれよ!」

叫ぶと同時に、ヨハンは外に飛び出していった。

***

激しい銃撃、そして、静寂…

ヨハンは、敵に向かって両手で銃を構えたまま、じっとしている。

「おい、ヨハン!」

「うわ――――――――――――っっっっ」

俺達に声を掛けられたヨハンは、いきなり叫んだ。

「わたしのズボンと、シャツが!」

見ると、ズボンの裾とシャツの肩のところを、銃弾がかすったらしい。裾のほうは焼けこげて穴が空き、肩のほうは血がにじんでいる。

「怪我してるじゃないか!」

俺が慌てても、ヨハンは肩の事なんか、全く頭になかった。

「穴が空いてるッッッ!高いのに、高価なのに!」

サムが、呆れて肩を竦める。

「下水道行くのと、同じ結果だったな」

と、ヤーブ。敵は、ヨハンに一発ずつ撃たれ、見事即死のようだった。一発でかた付けられるんだから最初からこうやって欲しいのだけど、やってくれないんだよね、ヨハンは。こういう市街戦で敵をクリーンヒットするには、距離を詰めた上、気分が乗らないとだめなんだそうだ。

「とにかく、無事でよかったよ」

と、ファーダはヨハンの肩の傷をみた。

「幸い、かすり傷らしいし」

「無事で良かった? かすり傷らしい? どこがだよ!全然無事じゃないじゃないか!二個所もやられたんだぞ!これじゃシャツは再起不能だし、ズボンは重傷だよ!」

ヨハンと俺、付き合い長いけどさ、本当によく分からない奴だぜ。サムは再び呆れ、ヤーブはヨハンの傷に消毒薬を垂らす。

「ズボンは、修繕にだせよ」

ファーダの苦笑いに、ヨハンは情けない顔をした。

「あーあ。あの時君たちを見つけてバスを降りて、良かったのか悪かったのか…」

「おかげで助かったぞ♪」

俺達は、口々にそう言った。おだてておかなきゃいけないもんね(^^)

「ヨハン様様だぜ」

「そうそう」

「でも、ズボンが…」

「足首撃ち抜かれなくて、良かったじゃないか」

「そうそう。この前買ったアルマーニのスーツじゃなかったんだし」

俺達の慰めに、ヨハンはやや立ち直ったようだった。

「まあ…そうかもしれないな。これ、アルマーニのズボンの、半額くらいだしね…」

「…」

俺達は顔を見合わせ、それから、お互いのズボンを見やった。

アルマーニのスーツって、ズボンだけで20万シバルって言ってなかったっけ?確か俺達は、そんな高価なズボンがあるという事に、驚いていたような気がする。

普段の日にそんな高価な服、着るなよ。俺のジーパンなんか、9千シバルだぜ! それでもかなり、高いものをはいていると思っていたんだが…

「予定より早く片付いたけど、買い物どうする?」

「止めておこう」

ヤーブの問いに、ファーダはそう答えた。

「とにかく、アジトに戻ろうぜ。これ以上うろつくのは、危険な気がする…」

ジャリ…

俺達は、ギョッとして振り返った。

そして見たんだ。

ヨハンに眉間をぶち抜かれたはずの男の右手が、激しく震えながら、動くのを。

そしてその手は、男の脇の辺りまで動いていくと、突然その体を起こしたのだった。

<8>

バッタ――――――――ン!!!

「……」

俺とヨハン、ヤーブ、サム、ファーダは、扉を閉めて息を止めたまま顔を見合わせた。

誰も口をきかない。

「どうしたんだよ?」

と、俺達を呆れて見ているのはランディだ。彼はしげしげと俺達を眺めた。すぐにアーサーも部屋から出てきて、ランディと一緒になって俺達を見る。

「ランディ、こいつらは何なんだ?」

「さあ?」

「ゾンビだっ!悪魔が死体にとりついたっ!」

そう叫んでランディの襟首を掴んだのは、ファーダだった。

「悪魔払いだっ!」

「真面目な顔して、何バカ言ってんだよ」

ランディは、ファーダの手をバシッと叩いて払いのける。

「悪魔払いなんて、今時流行らないぜ」

「本当なんだってば!」

ファーダとランディは、幼なじみなんだそうだ。ファーダは自分で、「ランディのヒモ」と言っている。ランディのほうは、そのファーダの面倒を一生みることが、「神に与えられた試練」なんだと言っている。確かに試練だ(^^;;

「生き返ったんだ!ヨハンに眉間をぶち抜かれた敵が、手をブルブル震わせて起き上がったんだ!」

「あのな、ファーダ。眉間にヨハンのマグナムぶち込まれて、生き返る訳ないだろ」

「だから、そうじゃないってば!」

「そうじゃないというのは、俺のセリフだ」

「だから、素直に信じろよ!ランディ!!」

ランディとファーダの、噛み合わない会話を聞いていたアーサーが、肩を竦める。

「熱あるのかぁ?」

俺達は、顔を見合わせたよ。確かに、ファーダのほうが妙だものね。ヤーブが困ったような視線をアーサーに送る。

でも俺は、別のことを考えていた。

彼らを一度、殺すから・・・

レイは広場で、そんなふうに言ったはずだった。まさか、このことなのか?

その時、ダイニングから電話のベルが鳴り響いてきた。

「あ、電話だ。お前らも家の中に入れよ。ジェシーは昼寝してるんだ。あいつ起こして、ビールでも飲みながら、何があったか聞くよ」

と、アーサーは先にダイニングに行ってしまう。俺達もその後に続いたよ。歩きながらも、ファーダはまだランディにゾンビの話をしていた(^^;)

ジェシーはソファで、ぐっすり居眠りさ。いい身分だよな。だけど彼は、すぐさまヤーブの熱いキスで目を覚ますはめになった。

そして受話器を耳に当てていたアーサーは、俺をちらりとみた。

「ええ、います。お待ち下さい… コージ、お前にだ。レイって奴から」

俺達の注意は、一斉に電話に集まった。俺はアーサーから受話器を受け取り、素早くスピーカーに切り替えた。

「アロウ、コージですが…」

“コージ?良かった。無事だったんだ…”

受話器…というか、電話からオープンに聞こえてくるのは確かにレイの声で、微かに震えている。

「レイ、どうしたんだ?無事だったって…」

“ごめん、狙撃されたんだろ?セイナネがやらせたんだ。みんなが怪我して戻ってきたから問い詰めたら… どうしてこんな…”

「落ち着けよ、レイ。俺達はたいした怪我はなかったけど、みんなが戻ってきたってどういう事だよ?俺達、奴等の事を確実にヒットしたはず…」

“そんなんじゃだめなんだ。セイナネが、みんなを変えてしまったから… 早く逃げて!彼らの事だから、絶対にコージたちを襲うよ!彼らは、あちこちの軍や傭兵隊から、戦闘データをとっているんだ。締めくくりがハンティングだって… ハンティングを始末するのが、みんなの最終目標なんだ。早く、国外にで…て……”

「レイ?!」

“レイバックが…復讐を…だめだ……”

「おい、レイ!」

何か様子がおかしい。俺は受話器に呼びかけた。向こうからは、苦しそうな呻き声が聞こえてくる。と、その呻き声は、低い笑いに変わった。

“ふふ…ふふふ…国外なんかに行かれては、困る…君たちには、軍の仕事を遂行してもらわなければならないのだから…”

「レイ? レイじゃないのか? 一体誰だ?!」

“…レイバック…レイバック・ヴァイシャルさ…今年が約束の20年目だ…”

俺達は、凍りついてしまった。ゾンビを見た後だったから「何言っとるんじゃい、このボケ」と、ツッコミをいれる気力もなかったんだ。

「レイバックって…一体何であんたが…」

俺は、深呼吸した。

「死んで、その研究も途絶えたはずのあんたが、何してる?」

“研究は途絶えたのではない。終わったんだ。死ぬ寸前に、完成させた。それを軍は、いや、遺伝子研究室の奴等は、歪めた…”

「セイナネとかいう…」

“あの女が、私の22人の弟のうち、4人を殺した。そして、一番大切なレイを…許せない。この軍もだ。わたしの家族を…”

「れ、レイ!レイバックなのかよくわからないけど、一体何するつもりなんだ?」

“君が、コージだろう? レイが、叫んでるよ…早く逃げてってね… 君たちは、レイによくしてくれたそうだね… 友達がいなかったから、喜んでいた。小さな教会の事。毎週来ている日本人の君の事。その隣の、毎週変わる懺悔者の顔ぶれ… とくにコージ、君に日本語が通じたっていって、喜んでいたよ。毎晩私に…君の拾ってくれたカードに、色々と報告してくれていた。”

「……」

“私の望みは、全てのヴァイシャを殺し、この国と心中することだ。レイが、止めろと言っているが… 君たちと、取り引きしたい。私が軍地下のリーヴァをすべて爆破する前に、私を捕まえる事が出来たら、ゲームは終わりだ。私も潔く、永遠に眠ろう…”

リーヴァといえば、電気を精製する謎の甲虫だ。

「おいっ!!レイはどうしたんだよ!」

“レイを助けたかったら、私を捕まえるんだ。ゲームの開始は、慰霊祭の日だ”

がちゃん、と電話は切れてしまう。

つ――――――、つ―――――、つ―――――――…

俺は受話器を持ったまま、みんなを見回した。

「…毎週変わる懺悔者の顔ぶれだって。あいつ、よく観察してたんだなあ(^^;)」

「お前は毎週来ているって、覚えられてたじゃないかっ!この馬鹿!」

俺の襟元掴んでそう怒鳴ったのはファーダと、一回も懺悔した事がないヨハンだった。

「とにかく、慰霊祭はいつだ? 来週の水曜…一週間か」

ファーダは、俺の襟から手を放し、腕を組んだ。

「…とにかく、報告会しようぜ。そして作戦の全てを、練り直そう」

「ファーダ。その前にだな…」

手を上げたのは、ヨハンだ。彼は、俺の鼻を指先で弾いた。俺を犬と同じ方法で仕付けるなよ!!鼻を押さえて苦しむ俺の前で、ヨハンは自分のシャツを引っ張った。

「ファーダ、その前に着替えよう…汗臭くて、死にそうだ」

「……(^^;)」

俺達は、シャワーを浴びて、着替える事にしたのだった。

***

俺達はまず食堂で、午前中に録音したレイと俺の会話を聞いた。

「…どうなっているんだ?」

「ヤーブ、お前から話せよ」

と、俺はヤーブを促した。ヤーブは、もったいぶって咳払いする。

「俺とコージで調べたのは、とりあえずレイ・ヴァール大佐の事。このテープで、コージと会話して、教会の日曜礼拝に参加していた奴だ。ええと、2404年7月8日生まれ。これはもちろん、ヴァイシャル少将の命日だな。母親があの写真のタシェリ・スファンだという確証は、得られなかったよ」

彼はビールを啜り、思い出すように目を伏せる。

「ええと、彼女のほうは、少将と同じ研究室の後輩なんだ。どうやら彼女が、セイナネ教授の恋敵だったらしい。タシェリのほうは、7月の末に急死している。自殺だったっていう噂だけど、病死で片付いている」

「病死ねえ…」

と、みんな息をつく。一番怪しい死因だよな。

「レイ大佐は、アーミーチャイルドというふれ込みで遺伝子研究室の第一セクションに配属されている。勤務成績はS(スペシャル)。研究内容は、父親とほとんど同じかな。ただ、アーミーチャイルドの研究施設配属は、例がなくてね(ほとんどが実戦配備)。同僚も敬遠ぎみだったらしい。しかも精神的にちょっと弱くてね。体調を崩してはシバサスの海軍病院に入ったり出たり… 彼自身がどのくらい「人間として」生活できるかのデーターも取られていたため、行動は比較的自由だった」

「それで軍のトップシークレットのような奴が、ピザ屋の店先でコーラ飲んでコージとだべっていられたわけか」

と、ランディ。

「そういうことだな。それで、次はヴァイシャル少将のことだ。これは、難しかったぜ。彼自身が、軍の機密なんだ。それで、なけなしのコネをはたいて調べたところ…」

といっても、ヤーブは軍に知り合いが多いから、コネばかりなんだけどね。

「…結局、よく分からなかったんだ。ただ、俺達が知っている事との相違点はあった。まず、少将の仕事。ヴァイシャの開発責任者って俺言ったけど、どうやら本当は、人工移植臓器の研究をしていたらしい」

「全然違うじゃねえか」

と、ジェシーがぼやく。

「どう結びつくんだよ?」

「まあ、聞けよ。人工臓器と人工生命体は、全く違う訳じゃない。彼は、精密な臓器を人工的に作り出す独自の技術と、遺伝子工学の知識を駆使して、神の領域を犯した」

「神の領域って……」

「つまり、人工生命体「ヴァイシャ」を作り出したんだ。人工的に造られた生身の体を持つ、人形だよ。だけど、彼ら「ヴァイシャ」は、人間以上の能力をもっていた。特に運動神経。少将は、新鮮な移植臓器の入れ物としてヴァイシャをつくったのかもしれないけど、軍は彼らを、戦闘要員として利用する事を思い付いた。当然少将は、激しく反発した」

「じゃあ、少将も本当は殺された…?」

ファーダの問いに、ヤーブは首を振った。

「いや。少将は、「ヴァイシャ」の製造方法をガンとして話さなかった。それどころか先手を打って、全ての関係資料を廃棄してしまったんだ。そして、彼の寿命も尽きかけていた」

みんなが息を呑む。

「…軍は彼の寿命を延ばすため、無理に手術を受けさせた。そして麻酔で眠る直前、少将は呪いの言葉を吐いたそうだ。「これ以上、お前らの好き勝手にはさせない。この手術は絶対に成功しない。私の胸を裂くお前たちを呪ってやる。20年後もヴァイシャたちが戦闘用であったら、生き返って、全てのヴァイシャを廃棄する。移植臓器の研究は、最初からやり直せばいい」とね」

「それで…」

「ああ。手術は失敗した。彼は目覚めなかったらしい。だけど同じ日、息子のレイが生まれたとされている。関係者は、レイに何らかの封印があるのではと期待しているようなんだが、ここでもう一つ」

ヤーブはみんなを見回した。

「一部に、レイはレイバックの外観を忠実に真似た…つまりレイバックをコピーした「ヴァイシャ」ではないか、という話もあったんだ」

「コージが狙撃された時の話を聞く限りじゃ、その説が正しいような気をするね」

と、アーサー。彼は肩を竦める。

「いくら親子だからって、そっくりってのも有り得ないだろうしな」

「そりゃそうだ。実際、レイが生まれてから15になるまでの公式記録がないんだからな。15年間、レイをレイバックに戻す努力がされていたのかもしれない」

ヤーブは、ふっと息をつく。

「俺とコージが調べたのは、こんなところだな」

「ご苦労さん。じゃあランディ、ヨハン。取引先は分かったのか?」

ファーダに促され、ランディとヨハンは顔を見合わせた。

「取引先は、分かったよ。日本を含むアジア系の企業。国家じゃなかった」

と、ランディ。

「そりゃまた、金がありそうだな」

ジェシーがにやつく。

「そこまで分かったんなら、取り引きを止めさせればいい。「ヴァイシャから手を引け」って脅迫電話かけて、社長か会長の鼻先に銃弾ぶち込むだけなんだし」

「ジェシー… そうすれば取り引きは流れるだろうけど、容疑者が掴まらないじゃないか。それに、お前一人で十分できる仕事だ」

と、ヨハンがため息をつく。

「問題は、我々のようなチームに仕事を依頼したことさ。一人でなく、チームでなければならなかった。あるいは、殺し屋ではなく、傭兵隊でなければならなかった…」

「理由の一つは、軍が絡んでいるからだと思うな」

そう言ったのは、アーサーだった。

「チームにはチームで。ジェシーは一人で多数を相手にするタイプの殺し屋じゃないだろ」

「まあね。そういう仕事は、ヨハン向きだな。俺は物陰から、獲物をズドンと一発で仕留めるほうが得意だぜ」

ジェシーは、くすくすと笑いながら、言葉を続ける。

「民間の闇ルートに、武器の動いた気配はない。とすると、今までの襲撃事件は、軍の格納庫から持ち出されたモノが使われてるって訳だ」

「3度目も、そういう事になるな」

そう言いながらファーダが、胸で十字を切る。

「俺とサムが調べた限りじゃ、襲撃犯は軍の工作員ではなかったよ。軍人であることには間違いなさそうだけどね」

「暴走していると言っていた」

と、サムがぼそぼそと呟きながら、窓を一瞥してサックを指にはめた。

「昼のうっ憤が晴らしたい」

「よしっ」

突然ファーダは、手を伸ばしてサムの肩を叩いた。

「良いことを思いついた。サムとランディとアーサーのリクエストに答えてスリルを味わい、なおかつ、軍から、居間の修理代をぶんだくる方法だ」

「えっ」

俺たちは、一斉にファーダの顔を見る。ファーダは、にこっと笑った。

「俺たちはこれから、居間にうつる。そこで取れるだけのデーター取ったら、照明弾と花火打ち上げよう。時間は15分」

窓の外からは、殺気がガンガン流れ込んでくる。何者かが、ここを襲撃しようとしている。

「迫撃砲なら、殺気は伝わってこないのにねえ」

俺の言葉に、ヨハンが渋い顔をする。

「迫撃砲は、2度失敗してるんだ。3度失敗したらシャレにならん」

そりゃそうだ。これで迫撃砲を撃ってきたら、襲撃どころか兵士としても不可だろう。俺達を見くびっちゃいけないぜ。俺は戸棚の下の隠し引き出しに入れてある赤外線スコープを取り出し、みんなに投げ渡した。

「他に何か必要なものは?」

「神の御加護と、闇…だな」

アーサーはそう言いながら、ダイニングの明かりを消した。


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