第32話〜果たせぬ約束〜


「いたぞ!!無事か!」

 聞き慣れた声につい気が抜けて僕は座り込んでしまった。 友人達は僕と夏 姫さんの怪我を見て驚いている。 僕も改めて自分の肩を見て驚いた。 右肩が 血で染まっている。 思わず触って確かめる。 穴が開いている・・。 後ろで 悲鳴が上がる。 振り向くと内藤さんが腰を抜かしている。

「お前・・・肩が・・前も後ろも・・貫通したのか・・」

 身体が震えている。 左手を右肩の後ろに回して探ってみた。

「うっ・・っ・・。」

 へこんでいる。 なんてこった。 そう言えば幻覚を見ている間は痛みが無 かったはずだ。 痛みが次第にきつくなってきた。 と夏姫さんも座り込んでい る。

「カズが狙撃された時、弾が貫通して私の足をかすったの・・。」

 痛みのせいだろうか。 激しい苛立ちを覚えた。 何に? 僕らを危うくさ せる全てのものに。 そもそも何故こんなことになった? こいつのせいだ。  そう、僕の首にでんといすわっているこいつのせい。 僕は石をぐっと握り、力 任せに首から引きちぎり、このどうにもならない痛みと怒りをぶつけた。

「貴様! 居眠りばっかしてんじゃねぇよ! いったい何遍僕ら危ない目にあ わせたら気がすむんだっ! てめぇのせいでまた殺られそうになったよ! また 大怪我したよ! 僕だけならまだしも夏姫さんまで怪我させちまったよ! てめ ぇなんとか言え、何者なんだよ!!!」

 石は僕の問に答えるかのように目がくらむような光りを放った。 次に目を 開けるとそこは碧くて深い水の底だった。 でもこれも幻覚だろう。 呼吸が可 能なのが何よりの証拠だ。
 そこは海だろうか。 それとも湖? 沼? 川? 目の前にかつてそこに人 々の生活があったことを語る石造建築物が広がっていた。 崩れかけてはいるが 、確かにそこで何かが生きていたことを語っていた。 でも僕が見る限り人の気 配は全く無い。 俗に言う遺跡という奴だろう・・。

「お父様・・お母様・・お姉さま・・お兄さま・・みんな・・みんな・・。ど うかどうかもう二度と・・こんな・・」

 ホログラフの様にゆらゆらとした若い男? いや女か? 性別不明の者が涙 声になりながら語った。 たぶん半寝の妖精だろうが今日は少し様子が違う。  いつもの姿よりも少し成長したようなそんな感じだ。 年の頃は13〜15とい ったところだ。
 横を見るとノリがまた倒れそうになっている。 横っ面を往復ビンタした。  いいかげんこいつの怪現象恐怖症にも頭に来たからだ。 まったく、何かあっ た時には一番頼りたい人物がこれでは僕らのこの先が思いやられる。

「お前、ガキじゃないんだからいいかげんにしろ! しっかりみとけよ、今こ こで起こっていることを!」

 何時もと違う僕に彼は一瞬びくっとしたが、すぐに落ち着きを取り戻した。  ひきつってはいるものの、取りあえず正気を取り戻した様だ。

「妖精よ、お前は僕が主だと言ったな! だったら答えろ! ご主人様の質問 に答えろ! 何故僕らを性懲りもなく何度も危険な目に合わせる! 僕を守ると いったな! 約束は果たせ! それができないならさっさと僕らの前から消え失 せろ!」

 すると半寝の妖精はまたもや半べそかきながら僕にこう訴えかけた。

「ああ、お・・さま・・早く早く思い出して・・私は・・・との約束を果たせ ぬまま、・・・がうつわを失う度にあなたを探し約束を果たそうとすればあなた は決まって私を畏れ思い出すこともなくまたうつわを無くしそしてまた・・・」

 妖精の言葉が所々聞こえなくなる。 言葉が途切れているんじゃ無い。 痛 みのせいだ。 目の前の幻覚は痛みの増加とともにしだいにただの草原へと戻っ ていった。


(SUM)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2609より転載>

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