第31話〜幻影船〜


「さあ・・・こっちによこして。」

 彼女は近づいてきた。
 それにあわせて僕は後ろに下がる。 彼女はさらに足を進める。 僕はさら に後ろへそうしているうちに、僕は後ろに居たらしい夏姫さんにぶつかった。  もはや後ろはないと観念した所で、彼女は僕との距離を置くことを認めたようだ 。 歩みは止まった。 彼女は、さもありなんという顔をして腕を組んだ。

「そうね・・・なら、貴方が使う事ね。 その石を。」
「使うって・・・・どうやって? 何のために?」
「簡単よ。 使い方はね・・ほら、私の石。 貴方のと一緒でしょ?」

 そういうと彼女は、手のひらに載せた僕と同じ石を、僕に見せた。 青く光 っている。 その石と僕のを合わせて

「これと貴方の石をこうして・・・・・・・・・」

「待てカズ!!」

 後ろから夏姫さんが僕を突き飛ばす。 目の前に居た彼女がよけたせいで僕 はそのまま前方にスライディングした。 本当にザツなんだから。 夏姫さんは 。

「これはどういう事かしら?夏姫さん。」
「あんたは信用出来ないって事よ。 和博モドキさん。 あたいはね、怪我を しているから完全には掛り難いんだよ。 この手の幻覚はね。」

 と言って夏姫さんは自分の足を思いっきり殴る。 そして次は僕の番だった 。 彼女を横切って走ってきた夏姫さんに正拳というよりヤシの実割りをくらっ た。

  気が付けば・・・・・
 此処は草原だった。 宇宙船はいつのまにか消えている。 風を急に感じる 様になった。 信じられないケドあの拳で正気に帰ったという所か。

「使い方によっては幻覚でも結構つかえるから重宝なのよね・・・。 お見事 。」

 彼女は・・僕にそっくりな彼女はさっきと同じ方向に立っていた。 風に学 校の制服のスカートと短めの髪を任せていた。 微笑んでいる顔を僕に向けて言 った。

「残念だけど今回もまだ駄目だったみたいね。」

 夏姫さんはいつのまにか僕の傍らにいる。 僕と一緒に彼女に対抗しようと しているように、だ。 夏姫さんの髪の匂いが強くすると思ったら、僕の顔にそ の長い髪がたまにぶつかって来ている。 普段なら赤面物のシュチュエーション なのに。

「君は誰だ? なんの為にこんな事を・・・?」

 後で落ち着いて考えれば、他にもっとかっこいい言葉が有ったかも知れない けど、例え陳腐でもそれがその時僕に浮かんだ精いっぱいの考えだった。

「全ては異次元の事、と言うことにして夏姫さんに事後処理を頼もうかと思っ たのだけど・・・ もう少し良い手を考えて出直すわ。 ほら、其処に貴方達の お連れさんが来てるから、そろそろこれで失礼するわね。」

 彼女は文字どおり消えた・・少なくともその様に見えた。 これも幻覚か?

「でも石の事は真実よ。 その石は私達の物。 誰にも渡しては駄目よ。」

 僕の耳には彼女が消える瞬間に聞こえた言葉がいつまでも残っていた。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2577より転載>

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