第33話〜選択〜


「お前って、よくよく病院に縁があんのな」

 僕は又、この前入院したときと同じ環境に居る。 鼻に付く病院独特な消毒 臭は懐かしいと言うには前回からの時間が少なすぎた。 僕は前回入院した時と 同じように毎日見舞いにきてくれる則道を横目にベットに横になっている。 前 回と同じ天井の模様。 前回と同じ布団の感触・・・。

 僕と夏姫さんが病院に行くとなって、一寸混乱が有った。 病院への説明、 家族への言い訳。 後、石の事。 到底信じてもらえまい。 場合によっては嘘 の証言をしたと取られて僕ら自身が不利になるかもしれない。
 僕らは裏口を合わせる事にして、石の事は極力黙って居る事にした。

「和博・・・結局これで良かったのか? 何処かとりあえず隠れてて、こっそ り治療した方が良かったかも知れないな・・・。」

 そうも行くまい。 我ながら呆れるほどの大怪我だ。 それに、この際騒ぎ を大きくして他人に僕らを防衛してもらうのも一つの手だ。
 もっともこれは内藤さんの提案で、勿論全てを話す必要は無いという条件付 きだ。
 その結果、則道の話では内藤さんと妙里は警察の薦めも有り、自宅で暫く外 出禁止で学校すら来ていないそうだ。 夏姫さんと元太は相変わらず学校で無茶 しているが、自ずと無茶にも限度があるに違いない。

 今、僕の病室には則道、そして30前半の男の刑事が一人。
 その刑事はくせっ毛の黒髪を頭に貯えて、則道よりさらに高い身長が不自然 な程さらに高く見える。 切れ長の目は白目の存在を確認出来ない。 見る相手 に無機物的印象を与えるその刑事は、僕の叔父さんが殺された時初めて会ってか らの付き合いだ。
 刑事は一応うちの地域の所轄の警察署から来た、一課の人間と言っていた。  一課。 つまりTVでおなじみ殺人担当だけど、TVの俳優なら兎も角、僕が その刑事に感動する気にはなれない。 則道なんて刑事というだけで露骨に嫌悪 感を表現している。
 刑事はそんな則道を横目に口元に薄笑いを浮かべて話した。

「則道君。 言っておくが君の嗜好に従ったために決まった訳では無いが、捜 査は打ち切られたよ」
「どっちだ? 叔父さんの殺しか? 今回の俺達の事か?」
「俺が関係するのは”殺し”だけだが・・両方だよ。」

 と、言いながらなぜか刑事の顔は僕の顔に向けている。 顔に有る黒目に支 配された二つの目は、僕に何か言いたそうだった。 僕は質問した。 全ては解 決したのか?と。

「解決か・・したさ。 だが、真相は俺にも分からない。 不満か?」

 つまり、警察は解決をあきらめたという事らしい。 僕はTVのドラマじみ た事を垣間見る事ができたようだ。 嬉しくも何とも無いし、むしろ、怒りを覚 えた。
 まさか、それこそTVのヒーロー物みたいに上層部と夏姫さんを襲った黒ず くめの男がつるんでいる、そんな事があるのだろうか・・・。 僕は思わず言っ た。

「納得・・・出来ません! 誰なのですか! 叔父さんを殺して、そして夏姫 さんを襲ったあの男共・・それにあの女性・・・」
「・・・という事は君は殺しと今回の事は同じ利害の元で起こったと思うのだ ね」
「・・・特に理由はありませんが・・・。」
「・・・まあいいさ。 後は俺に任しとけ。 恋人と良い学生生活送れよ。」

 部屋から出ていった刑事は、赤面した僕を細い目で捕らえていただろうか・ ・。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2653より転載>

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