第30話〜正夢〜


 痛い、痛い、肩が痛い。 僕は耐え難い痛みに目を覚ました。 そこは春の 色に染まるTDLではなかった。 目の前には殺気を排出している男達の頭と高 速で変わる浦安一帯の景色があった。
 そうだ、夏姫さんは?無事なのか? と男達の会話が聞こえた。

「誰があんな所で発砲しろといった。 おかげで面倒が増えたではないか。  坊主だけならまだしも、あんな凶暴な娘まで連れて帰ることになるとはな。」
「し、しかし、まさかあの娘武道のたしなみがあるとは思いもしませんで・・ 」
「ばか、立ち方を見てわからんのか。 あの娘の立ち方は明らかに武道を、そ れも相当な腕前だ。」
「あの娘どうしますか? 怪我の回復を見てマカオ辺りに・・」
「ばか! 売り飛ばした所であの気性じゃいずれ寝首をかきにくる。 それよ りこの坊主と一緒に処分しちまおう。 なかなか面白い物が見られるかもしれん ぞ。 くくっ」

 恐ろしい話をしている。 バックミラーには後続車両が写っていた。 窓が 黒くて中が見えない。 あの中に夏姫さんがいるんだろうか。 無事なんだろう か。

「ん、なんだあれ。 あんなとこで仁王立ちになりやがって。」

男の声につられて前方を見た。 すると黒いトレンチコートの女が道の真ん中 で足を肩幅に開いて両手をポケットに突っ込み此方を見ている。 車はかまわず 進んでいった。 そのうちよけると思っているようだ。 男達はクラクションを 鳴らした。 徐々に女の顔かたちがあらわになる。 男が叫び声を上げる。 何 を言いたいかは大体解る。 僕と顔がうり二つなので驚いているんだろう。 車 の中は騒然とした空気になった。 僕は視線を再び前方に移した。 女はポケッ トから手を出すと腕を真っ直ぐ此方にのばし手のひらを重ね此方に向けた。 と 車の中に赤い点が現れた。

「ぎゃあぁぁっ!!」

運転手役の男を皮切りに乗っていた男達が次々と悲鳴を上げて倒れて行く。  僕は制御不能になった車のおかげで頭を打ってそのまま気を失った。

 揺れている。 身体がだるい。 肩の痛みは無い。 でも右手は感覚が無い 。 胸から下がきつい。 左手で探る。 金属で固定されている? ベッドの上 ? 目を開ける。 眩しい。 再び閉じる。 周囲に興味を持つ。 左手を静か に動かす。 暖かい。 確かめる。 手だ。 柔らかい弾力の有る手だ。 僕の 知ってる手じゃ無い。 でもこの無機質な感覚の中でとても安らぐ感触だ。 そ のまま握る。 と衝撃が僕を襲った。 思わず目を開けると視界は赤に包まれ、 聴いたことも無い言葉で何かのアナウンスがあった。 しばらくすると照明は赤 から普通の白に戻り、アナウンスも落ち着いた感じの物が流れていた。

「ごめんね。ビックリした?」

 身体を拘束していたベルトを外しながら話しかけたのは僕と同じ顔の女だっ た。

「心配しなくていい。 彼女の方も無事よ。 さ、手を離して。」

 思わず赤面してしまった。 夏姫さんだったのか・・。 女は状況を説明し 出した。

「TDLで襲われた時、二人とも拉致した後殺害する手はずになってた見たい ね。 本当は人混みに紛れて君を暗殺するつもりだったみたいだけど君が先に連 中を見つけてしまったから予定が狂った見たい。 で車二台に分乗して移動中の 所を私達が奪還した。 ベルトは安全装置ね。 衝撃は乱気流に突っ込んだから 。 赤い照明はまあ、赤信号見たいな物ね。 アナウンスは『乱気流に突入しま した。 各自退避せよ』見たいな意味合いね。 本船と違ってこの船は小さいか ら揺れるのよ。」

 窓の外を見るとテレビでしか見たことの無い、”宇宙から見た地球”らしき ものが写っている。 僕は混乱した。 何故コイツが僕を助けた? 僕は問を投 げた。

「あんた、敵なの、味方なの?」

 女は味方よ、と答えた。 そしてまだ多くを語ることは出来ないが我々は君 の石が必要だ。 が、無理矢理奪うことは不可能だ。 何故なら君はその石と契 約を交わした。 だから無理矢理奪おうものなら石が君を守るべく我々を攻撃す るだろう。 だから君が君の意志でこの石をこちらに引き渡して貰わねばならな いのだと。 僕は更に混乱した。


(SUM)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2566より転載>

あらすじ 外伝紹介 相関図

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