第29話〜見慣れぬ日〜


 俺と元太の2人で場所を探し回った。 元太は一寸したベンチを見つけてそ こに腰かけた。 俺もそれにあわせて座る。 目の前をミッキ〜が通りかかると 元太の奴は嬉しそうだった。 違和感という文字を物体化した様な奴だ。
 目の前には、黄色い声に包まれたメリ〜ゴ〜ランドが回り、どこからか軽い 音楽が流れてくる。 空気は心なしか甘く、横を見れば元太は腕を組みながら背 中をそらし座っているが、しっかりと目元と口元はにやけてる。 俺達が座って いる足元を箒で掃いて行った掃除夫だけが、現実の世界を確認させてくれた。  何もかも見慣れぬ世界だ。

 俺は少し呆れていた。 みんなのこのはしゃぎ様といったら。 この喧騒。  この浮ついた雰囲気。 そして不覚にもその雰囲気に少し乗ってしまった俺自 身に。 何もかも気に入らない。 一体、誰が言い出したのやら。

「あれ?穂積君。和博君と一緒じゃなかったの?」

 振り向いた先には今回のイベントの言い出しっぺの一人の内藤さんが居た。  そういえば内藤さんと妙里は目当てのアトラクションを見終わった時にはぐれ たっきりだった。 どうせ、言い出しっぺの一方の妙里の奴がはしゃいで単独行 したのだろう。

「和博の奴は今、よろしくやってるぜ」

 元太のその言葉を聞いて妙里の奴は一瞬厳しい顔になった。 そして一寸は っとして気まずそうに内藤さんを見る元太。 妙里を不思議そうに見る内藤さん 。
 三者三様の見慣れない顔。 これも現実感の喪失からきた幻想なのだろうか 。
 俺は何か言いたくなった。 いや、言わなければいけないと思ったので、声 を出した。

「あのな〜・・・・・・・」

実はこの後のセリフは考えていなかったので、言葉に詰まるはずだった。 そ れを助けてくれたのは時ならぬ悲鳴だった。

「キャ〜〜〜!!!!!」

 俺達4人は声の方向を見た。 相変わらず喧騒がアトラクションの軽快な音 楽に混ざって聞こえる。 だが、明らかに異質な喧騒が徐々に俺達の聴覚を刺激 してきた。
 俺は走り出した。 走り出してから、なぜ俺が音の方向に走り出したかを考 えた。 理由は一つだ。 その音の方向に和博が居る。
 黒い服の男達。 不思議な少女。 石のせいと思われる和博の叔父さんの死 。 なんで今まで不思議に思わなかったのだろう。 男に襲われた事は警察に行 った。 それで済んだと思った俺の不覚。

  和博はねらわれている!

 逡巡は確信に変わり、後悔は怒りに変わった。 もはや俺は和博が誰かに襲 われたと確信した。
 人ゴミをかき分けると、其処は見物に囲まれた開かれた空間だった。
 その空間の中には、手にした銃器以外は見るからに観光客風の男が数人、い や数十人が夏姫さんを囲んでいる。 地面に横たわっている人は恐らく夏姫さん に勝負を挑んだ報いだろう。 何者だろうか。 俺にはわからない。 あの黒ず くめの男の仲間か? あの少女のか? はたまた叔父さんの・・・それとも新た な奴等か。

 今日は記念すべき日だ。 見慣れない物ばかりに遭遇している。
 夏姫さんは・・・・・・・・・座り込んでいる。 どうやら足に怪我を負っ ているようだ。 それはそうと・・・・・・・・・・・
 和博はどこだ?!


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2559より転載>

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