第23話〜現実と・・・〜


「穂積さん、私は居ると思います。」

ニコニコしながら内藤さんは椅子に座っている僕を見下ろしてそう言った。

「少なくても穂積さんの心の中では、ですけど。」

 所は次の日の学校。 全員二日酔いなんて軟弱さは持ち合わせては居なかっ たのは幸いだった。 但し、妙里は朝から半寝と化しているけど、これはいつも の事だ。 まさか此れが妖精の正体とは想像するだけでも滑稽極まり無い。
 1時間目と2時間目の15分休み。 最近妙里と内藤さんが僕の所に来る頻 度が増えた。 というか内藤さんの頻度が増えた。 僕は兎も角則道の奴はどう 贔屓目に見ても反動的で、体制の委員長とは相反するというのが相場なのに。  端から見れば異様と思われたかも知れないけどそんな事は知ったことじゃない。
 「きついな〜ぁ」僕は僕の机に肘ついてさっきからポリポリポテチを食べて いる妙里を見た。 毎日5つは袋を開けている。 妙里は一体今日は何袋食べる 気だろう、と思った。 口の周りに食べかすを付けている。
 内藤さんはその事を妙里に指摘しながら「ご免なさい。でも、妙ちゃんに聞 いただけで私は見たこと有りませんし・・・」といつもの調子で僕にほほ笑む。

「なあ妙里〜お前は見ただろ?あの病室でもさ。」

と僕が妙里に救援を求めると、 

「見たよ〜。あの時はね〜可愛い動物だったよ〜」

と妙里が答え、 

「動物?妙ちゃん、妖精っていったじゃない?」

と内藤さんが受ける。
 又、キャイキャイが始まろうとしているらしい。 仕方が無いので則道に振 ると、 

「お・・俺は見ていない! 絶対に!妖精なんてみてないぞ!! わかってん のか! 青い光も、宙に浮いたのも、全部錯覚なんだ!ええぃ!! その話は止 めてくれ!」

則道が顔を青ざめてしゃべり立てる。 その姿は、哀れとは思うが滑稽でもあ る。

 いつまでも現実を見つめない奴め・・・ふと思った。 果たして現実を見て いないのは誰なのだろう・・・僕かも知れない。 そして、石も空想で、叔父さ んも空想で、この世界も空想で、ゲ〜ムみたいに何処かにリセットボタンが有っ て、それを押すと元の僕らに戻る・・そんな錯覚に陥った。

「で、決闘というのはいかがでしたか?」

内藤さんの問に我に返った僕は、それと同時に吹き出した。 内藤さんは決闘 というのは呑み比べとしか思っていない。
 僕が吹き出した先には、妙里の口を塞ごうとしている則道が居た。 どうや ら事の顛末をしゃべりかねない口に先制の一撃を加えたようだ。 その的確且つ 、素早い行動にまた僕は吹き出した。

 妙里はかろうじて則道の耳打ちによって、その腕から開放されたが、いずれ は内藤さんにバラス事は疑い無い。 僕が則道に隠し事しないと同じように、例 え夏姫に話さなくても内藤さんには話すはずだ。 不満げに妙里は則道に、悪戯 っ子の本性丸出しの如く笑って言った。

「久美ちゃ〜、あの石の事だけど〜ぉ。 やっぱり居るよね〜。オ・バ・ケ。 」
「そうとは言えないケド、もし本当なら素敵よね。 妖精なんて。」
「いるよ〜ぉ。 そしてね、こういう時は謎の占い師とかが出てきて、”この 石は呪われている災いを招く物。 汝、捨てねば石の民と共に破滅へと行かん” とかいうんだよね〜っきゃははっ! で、持ち主の親友はさらわれて怖〜〜い目 にあうんだって。」
「妙里!!てめ〜〜〜〜〜〜!!!」

堪まらず妙里に掴み掛かった則道は青い顔を隠せず、滅茶苦茶とも言える追撃 を行ったが、攻勢は兎も角守勢、なにより逃げ足に掛けては妙里の足は当代一だ 。 軽くあしらわれた元喧嘩屋は形なしだ。

 叔父さんの事件以来・・僕たちは部室に行こうとは誰も言い出さなかった。  内藤さんは事情を知り、則道も同じ事らしい。 僕が行きたがらないのを察し てくれたらしいけど・・・あそこには道具が置いてある。 ギタ〜、スコア、化 粧道具、衣装・・・いずれはあそこで再活動しなければなるまい。 攻防の騒音 を聞きながらそう思った。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2388、2389より転載>

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