第21話


「おれぇはぁなぁ〜、ヒック。てめぇな事は納得いかね〜んだって、分かって るのかぁ則道ぃ。」
「おぅ! 今日はぁ引き分けちゅうかぁ〜ん〜」

 僕は一体何をして居るんだっけ? 隣には妙里がキャハキャハ言いながら歩 いている。 さっきの声は肩を組みあっている赤い顔の則道と元太。 振り向く と夏姫さんが僕のすぐ後ろから此れ又赤い顔している。
 そうだ。 僕らはあの後飲み屋にいったんだっけ。 妙里のジュ〜スを抜か して皆ビ〜ルを何杯も・・・そうか、そうだった。 妙里の言っていた決闘って 「呑み比べ」とか言ってたっけ。 資材置き場でハラハラしていた自分を思い出 した。 教室で妙に落ち着いていた内藤さんを思い出した。 飲み屋で酔った夏 姫さんにキスされそうになって真っ赤になって逃げた事を思い出した。 されれ ば良かったと後悔した。 僕も酔って居るのだから。

「ここらで良いか?」

元太が立ち止まった場所は一寸開けた場所だった。 公園かな? もっと明る くてしらふなら分かったのに。 立ち止まった元太と則道は互いに向き合って構 えた。 不意に何が始まるのかが理解できた。

「止めてくれ!妙里!夏姫さん!!」

 僕は妙里を見たけど妙里も心配そうに夏姫を見ている。 夏姫さんは黙って いた。 妙里は覚悟を決めたらしい。 いつもの笑い顔は消えて2人を見つめる 瞳だけが目立っていた。

「則道、気ぃいれてきぃや!!」

両手を前に出し、左手を少し後ろに引いた形で構えた元太が発した声は夜の湿 った空気を震わせた。

「おうよ!てめぇこそ寸止めしやがったら殺すぞ!」

両手を脇に締め、横に構えた則道は今にもとっかかりそうだ。
 僕は酔いが覚めた。 そうだ。 この中で武術の心得が無いのは僕だけ、と 改めて認識した。 みんな僕より強い。 心の中で則道と初めて合った時の怖さ が今までの則道との付き合いと共に思い出した。 その時、僕の中で何かか燃え たような気がした。

 則道のまっすぐな拳はそのまま元太の懐に吸い込まれたように見えた。 元 太はそのまま体を横にして則道の腕を掴んで足で蹴る「腕抜き」をしようとした 。 蹴ろうとした元太を則道は一瞬宙に浮いた元太ごと横に倒れようとしたが素 早く体勢を直した元太が則道を突き放した。 2人は又、間合いを計るように離 れた。

「元太、てめぇの拳もたかが知れてるな!」
「うるせえ!お化けを信じる臆病モンが!」

 またつっかかて行ったのは則道だった。 「後手の先」の元太はまた拳をか わしながらその力を利用して打撃をくわえようとする。 これが、妙里のような 小柄の非力でも相当の力が出せる理由の一つらしい。 ところが則道は拳をひっ こめ、拳につられた元太に足払いをしようとした。 喧嘩というものは拳は大し て効かない。 効いても時間が掛かりずぎる。 それよりも足だ。 つまり喧嘩 の時は相手の足に気を付けろ、と則道が僕に教えてくれた事が有った。 元太は 型に破れそうになったがかろうじて避けた。
 数度のやり合いの後・・・・・パチパチパチパチ。 誰かが拍手した。
 手を打つ音の後、「其処まで!」という夏姫さんの声がした。

「最後に良い土産が出来たな。元太。」

夏姫さんが傷だらけの元太に近寄った。 妙里は則道の側に・僕は・僕は・ボ 〜として・胸が熱くなって・石が又、光って視界が縮まって・いかなくっちゃ・ 何処に? 僕は何処にいくって? でも訳分からないけど、このまま気を失った 方が良いみたいだ・・・。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2345より転載>

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