第19話〜嵐の前触れ〜


「ブレ〜ン・・・・・あ、あの、私バンドの事は知りませんし、機械もそんな に知りませんし・・・」

と言いながら内藤さんは嬉しそうだった。 別にバンドに入って演奏なんて頼 んではいない、早い話軽音部にちょこちょこ顔出して手伝ってという事だと言っ たら快く了解してくれた。実際、僕達はシンセすら満足に使えない。 

「妙ちゃんは何か楽器使える?」

と内藤さんに聞かれた妙里は

「使えるよ」

と言って手にしていた石のペンダントを紐の部分でクルクル回した。 おいお い、其処には妖精が入っているんだろ? 僕は考えた。 妙里は一応運動神経は 良いはずだ。 以外といけるかも、と思った途端、妙里のいつもの爆弾がその空 想を弾き飛ばした。 妙里曰く、

「使えるよ〜。タンバリンでしょ、カスタネットでしょ、シンバル、小太鼓、 トライアングル、鈴、あとね〜大砲!」
「あ、そうよね!”1872”って曲だったっけ。 チャイコフスキ〜の演奏 で本当は大砲が楽器になっているのよね。ドカ〜〜〜ンって。」

三人どころか二人でも姦(かしま)しいのは妙里のせいか。 妙里と、普段は 大人しい内藤とのキャイキャイデュエットを聞いて僕は又、布団を被った。

 退院も間近、今度こそ主治医の高城先生に退院の約束を取り付けた。 今日 も来た則道・妙里と部屋を離れ、面会室に行った。 一応此処は喫煙室だけど、 流石に則道は此処では吸う気は起きないようだ。 一通り、今後の活動を決めた 。 春の学祭、この時発表を行う。 出来れば体育館、少なくても教室では出来 るかもしれない。 何しろこっちにはクラス委員の長と副が付いている。 ふっ ふっふ。 あとは石の事。 妖精の事。 妙里がまた見たいというと則道が青い 顔をする。 僕はこの事は秘密にして利用価値を考えたいと言うと内藤さんが色 々情報を集めたいという。 そう、気持ち悪いと良いながらやっぱり捨て難い。  まるで、自分の半身みたいに・・・・・・。
 内藤さんとは別れて病室に戻る。 後ろから妙里が物欲しそうに僕の後ろに 来てその後ろから則道がくる。 白い廊下のかどを曲がり、個室のドアが見える ・・・。
 ドアが開いている。 僕は主治医が来ていると思って急いだ。 まだ検診に は早いはずなのに。 ドアを開けて立ち止まった僕に後ろから則道がぶつかった 。 僕はもう一度室内を確認した。 ベットの上に茶の背広男が3人集まってい る。だれだ?こいつら。

 僕が室内を覗く場所の横からいきなり腕が出てきて僕を掴んだ。 部屋の真 ん中に連れ出された僕を見て則道が部屋に入ってきた。 誰かを呼べば僕は多分 そのまま入院の心配が無い世界へ行ってしまうからだ。 僕の頭に金属の感触が 有る。 逃げろ・と言おうとした僕は則道の顔を見て止めた。 余裕が有る。

「探しているのか?」

と言ってそのまま歩いてくる。 男の間を擦り抜けて部屋のほぼ真ん中のロッ カ〜の下を覗く。 つられて男達が視線を集めた時、風が吹き抜けた。 

「ドッカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!」

との声と共に僕を後ろ手に釣り上げていた男が窓へ吹き飛んだ。 妙里の跳び げりが決まった。 身長差50Cmの相手に頭蹴り。 正確には妙里じゃない。

「美少女戦士タエ仮面!」

と名乗った者はなぜかお化けの覆面をしている。 こんな事するのは妙里しか いない。 則道も身を起こし、1人を相手した。 片や元喧嘩の雄の則道、片や <我が流派に正拳無し>と謡われる空手使い妙里。 とは言っても妙里は避ける だけだけど。

 男の姿をした凶悪な嵐は去った。 室内は適当に壊れて、どうにもごまかし ようが無かった。 やっぱり、この石が目当てなのか?僕の叔父さんとの関係は ・・?
 それにしても則道は強い・・。 そして今日則道が最後に殴ったのはさっき の男共でなくて、則道を脅かす目的でお化けの覆面を持ってきたと聞いた時、叩 いた妙里の頭だった。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2305より転載>

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