第15話


 今日も個室に入り浸りだ。別に僕が希望した訳でもないけど、大部屋での周 りの人への気遣いがいらないので都合がいい。 ベットの背を起こし、布団に体 を押しつけたまま、体の横からギタ〜を取り出した。 ビンッ、と弦をはじく。 アンプが有ればこんな情けない音では終わらないはずだった。 数回はじいてそ の感触だけでも楽しんだ。

「いつっ!」

腕の痛みがその、ささやかな楽しみを止めさせた。 まだ、痛い。医者は相変 わらず「もう少しで退院だ」とう言葉を繰り返すのみだった。 もう少しがつも りに積もって少しじゃ済まないぞ!と医者に当たりたくなる。 僕は痛みを堪え てギタ〜をゆっくり膝の上に置いた。

 その後、僕を撥ねた車も人も消えたままだった。 目撃者もいなかった。  後で分かったけど僕が撥ねられたのは学校の裏門、部活の人間の通用口だった。  普段は人が通らないので門を締めているけど、放課後には生徒が勝手に開けて 出ていく所だ。 面している道は生徒以外は滅多に通らない。 不思議だ。 突 き当たりには学校の校舎が道を塞いでいて、反対側には大通りだ。 目撃者が則 道だけなんて。

 僕はベットの脇に付いている手帳大のスイッチを押してベットの背もたれを 下げた。 視界にすでに見慣れた白い天井に有るシミが現れた。今更どうでもい い。 誰が僕を撥ねたって、今僕は生きている。 腕も治るし、則道とも話し合 えたし、、夏姫さんとも・・。 此の点が則道に言わせるとのんき者らしいけど 、何より退院したときの事でわくわくしている。 そんな事で憎しみなんて持っ ている暇はないさ。

 叔父さんの事は・・・なぜか今では実感が無い。 葬式には出られなかった けど確かに叔父さんの体は大自然の循環の中にうずまった。 でも、ひょっこり 叔父さんが僕の目の前に出てきても驚かないような気がする。 でもなんでそん な事に・・・。叔父さんは僕たちの部室になんで居たんだろ・・・。
 ふと、横のロッカ〜の上に置いてある石が目に入った。青い石・・・不思議 な石・・・これだ、と直感した。 叔父さんがあそこに居た理由が。探していた んだ。この石を・・・・・・・・。この石のせいで・・・・・・・・・・。
 僕はそう思うと反射的にその魅了して止まない石を握り締め・・・地面に届 けと言わんばかりに床に投げ付けようとした・・・光った。 石がまた青い、今 ではまがまがしさを感じる青い光を発した。

 俺は又この愉快な生物を連れてきた。 相変わらず妙里は病院内ではしゃい でいる。 このまま小児科に置いていこうか。 

「則ちゃんっ、良かったね。ノ〜トパソコン貸して貰えて〜。」 

同感だ。 妙里は夏姫とは実力の差は有れ、同門の間柄だ。注文を付けるのに うってつけの人間だとはいえ、始めは人選の誤りかと不安だった。

 俺は妙里にノ〜ト一式を持たせて、目的の個室に入った。 其処には皮肉の 嘆を体いっぱいに表現した和博がいるはずだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・入って始めに口を開いたのは妙里だっ た。 

「これは・・・・・・・・お医者さんの領分じゃないね・・・・・・・。」

少し笑い声で言った妙里に今回は心から同意した。  青く光った和博が宙に 浮いていた。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2245より転載>

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