第13話


 あれから一ヶ月・・・僕の世界は病院の小さな個室だけだった。 一週間後 、点滴の回数は激減した。 主治医が回ってきた。 高城とかいったっけ。 つ い一ヶ月前誤診したということで母さんにペコペコ謝罪していた医者だ。 悪い 物を良いと言われた訳じゃ無いから別に良いじゃんと僕は思うケド、父は結構興 奮していた。 子供の僕でもそれが、大人の父の照れ隠しというのは分かった。  主治医は今でも一通りマニュアル通りに診察をする時も、すまなそうな顔をし て僕を見る。 もしかしてこのすまなそうな顔が、この医者の普段の顔かもしれ ないと思うと、少しだけ此の男の医者に興味が沸いた。

 ガチャ!

 主治医が出ていく音がしたのに、今度は此方等に足音が近づいてきた。 誰 かが無言で入れ代わりに入ってきたもだろう。 僕はそれに慣れたように、ベッ トに横になったまま、その足音に振り向いた。 

「カズ、元気そうでなによりだな」 

いつもの則道だった。 

「のり〜ぃ、いつも思うのだけど見舞いに手ぶらというのもボ〜カルの条件な のかい?」

僕はいつも努めて明るく言うのだった。 相手も其れが悪態を装った好意的な 感情というのは心得た物のはずだ。 則道は一寸首をかしげて口端で笑った。 

「おや?まだ見舞いは届いていないのか?退屈な男子にはもってこいの物が」

いぶかしがる僕を見てさらに則道は愉快そうな顔をした。 もしかしてギタ〜 ?
 音が聞こえる。 リズムに成っている。 いや音じゃない、声だ、子供の声 。 段々こっちに近づいてくる。 ペタペタスリッパが鳴っている。 コンコン ッと僕の個室のドアが鳴った。 再びドアが鳴る。

ガチャリ

 僕は頭に一寸痛みが走ったようだ。 その痛みの原因・・・ドアから現れた 茶色の左右両方三つ編み、背丈サイズ小学生、ナップを背負った幼児ルックのク ラス委員副委員長・覚見 妙里が両腕を前後に、おもいっきり互い違いに振りな がら歩いてきた。 リズムは妙里自身が口ずさんでいた。 

「あのなぁ・・・妙・・」
「あ〜元気〜ぃっ? クラスのみんなのね〜、お見舞いの言葉持ってきたよっ 」

 則道は笑いを堪えている。 則道〜〜ぃ。 

「なんだ、以外と元気なんだね〜。」と

僕の足を叩く。

「馬鹿!其処は治っていないって!」

僕は当然ながら抗議すると今度は

「じゃあ此処。」

と今度は腹を叩く。 一々叩かんと確認出来ないのかっ!妙里はちょこまかし てせわしない。 さっきは窓から外を見ていたと思ったら今度はベットの下がど うなっているか確認している。 いくつか厳しい条件を満たせば、妙里は爆発物 の捜査官に見えない事も無い。 決して見えないだろうけど。
 実はもう一人来ていたんだ。 クラス委員長の内藤久美さん。 長身で良く 言えば落ち着いている。 学校でも膝下20cmのスカ〜トを履いている数少な い人だ。
 妙里の踊りが無ければ見逃すはずは無かったのに。 いつも妙里に引っ張ら れている様に見える。 でも以外と妙里を御しているかもしれ無い。そうでもな ければ妙里にはとても付いては行けまい。 長い髪、端正と言えば端正な細い顔 。

「大変でしたね」

と言われた時、妙里と正反対の応対に成ったのは当たり前といえば当たり前だ 。
 実はこの二人、叔父さんを部室で発見した第一発見者だったそうだ。 あの 後、散々刑事に聞かれたらしいけど、その後の経過を学校の皆に言い触らさない のはなんとなく嬉しかった。 特に妙里がその件に付いては静かなのは、ありが たいと同時におもいっきり変だった。 一寸疑問が沸いてきた。

「あの部室に妙里は何の用事があったんだ?」

 妙ちゃんだけですか? と内藤さんが聞いた時内藤さんも、と一寸どもって 聞き直した。 妙里は持ち前の快活さで即答した。 

「内緒だよ〜〜〜〜〜〜。」 

そしてドアから出ていった。
 嵐は去った。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2232より転載>

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