第5話



「なんだよ則道。今日の授業の時間いきなり立ち上がってさ?」

午前の退屈極まり無い授業が終わって昼休み。 俺と和博は校舎の屋上に居た 。

「ノリピ〜。煙草止めたほうがいいぞ。」
「和、その言い方は止めろ。」

俺の苦笑した顔から紫煙は吐き出され、暖かな日差しの中に溶けていった。

「夢でも見たか。居眠りして悪い奴だな。」

俺をバンドオタクにしやがった万年早弁男は、自分の事は遠いどこかの棚に投 げ入れて俺を笑談のネタにしようとしているらしい。
だが、それは事実だった。俺は居眠りしていた。楽しくない夢を見た。だから こそというべきか俺は笑談のネタにおとなしくなってやるつもりになった。

「ああ、俺は悪い奴さ。煙草は吸うし、昔は万引きも喧嘩を売った事もある。  お前と正反対さ。」
「おいおいノリミチ、どうしたんだ?気を悪くしたのか?」

和博は顔ではおどけているが目は本気で心配している。 おかしな所で神経質 な奴だが、そんな奴だからこそ俺は和博とバンドを組む気になれたのかもしれな い。 俺は笑って冗談を続けて、和博の気持ちに答えたつもりだった。

「いや、本当に悪い奴さ。何しろ俺は和を5回も殺したんだからな。」

 俺が社会科の時間見た夢・・・ 
羽根を生やした俺が尻尾と蝙蝠の羽根を付けた和博を殺した夢・・・ 
もうかれこれ5回は見ている。 夢とは言え良い気持ちはしない。 しかも、 より によって殺したのが・・・

「気味悪いね・・・・・。」

和博は俺の話にこう、答えた。 確かに悪趣味な話かもしれない。
 一瞬、風が生暖かく感じた。 煙草が不味い。 俺は目で紫煙を追おうとし たが、視界には入らなかった。

「すまん。」

俺は普段なら、たかが夢になにを本気にしている、と言う所なのに柄にもなく 謝った。 まだ半分残っている煙草をコンクリ〜トの床とキスさせて、後ろにほ うり投げた。恐らく俺の背後で放物線を描いて校舎の中庭に落ちていった事だろ う。俺は立ち上がって、和博を見た。

「その石がどうしたんだ?」

心ざしか青ざめた和博は、胸元から石を取り出して俺に向かって言った。

「僕・・・僕もみたんだ。則道が天使みたいになっていた夢を・・・・・・  此れが光った時。」

俺は握り締められた石を見つめた。

風が止んだ。
チャイムが鳴った。


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2175より転載>

あらすじ 外伝紹介 相関図

この作品のに関するご意見、ご感想は・・・