第6話〜二人の夢〜


 僕は二人が見た夢の事を考えていた。おそらく、天使のノリミチ、悪魔の僕 、というのは二人の性格の象徴であろうと。

 のりちゃんは本当は誰よりも優しい奴なんだ。 僕なんかよりもずっとね。  そりゃ頭はキンキンだし、煙草は吸うし、悪い事も多少はしたことあるみたい だけど、僕は知っている。 本当は誰よりも愛されたいんだってね。 が、愛さ れたいが故に時に自ら淵に墜ちてゆく、なんてことがある。 でも、僕は奴のそ んな不器用なところが好きだ。

 僕はと言えば・・・。 小賢しい自分の性格が時々嫌になる。 世知辛い世 の中を生きて行くにはとても都合のいい性質だなとは思うが、のりちゃんを見て いると時々自分が情けなくなる。 この間も飲み会で酔っ払った時にそのことを さんざんのりちゃんに愚痴ってしまった。 でも、奴は二人で同じ性格だったら バランス悪い、俺達別々の性格だからこそ、お互い解りあえたんじゃないかな、 と答えてくれた。 なんていい奴なんだろ。

 彼は真っ直ぐだ。自分の夢に真っ直ぐが故に周囲の誤解を生んでしまう。  彼の金髪は奴に言わせればポリシーらしい。 我、ここに有り、ということを示 していたいという。 自分が死んだ時にノリミチ、誰だっけそれ、じゃあんまり だろ、ほらあの金髪の不良だよ、て言えばみんな一発で思い出せるじゃんか、な んてことを笑いながら言ってたっけ。  右向けば右、左向けば左、前進すれば 前進、俺はこんなペンギン色の群の中に埋もれて何もできないままに死んで行く のは嫌だ、といつか言っていたっけ。

 二人が最初にした話、それはノリミチが僕を軽音部の部室に僕を呼び出した んだっけ。 因縁でも付けられるのかと思って冷や汗垂らしながら部室にいった ら、いきなりさ、いつか、自分の歌声で世界中を幸せにしたいなんて言出すんだ もの。 そのためにはお前のギターが是可否でも必要なんだと、僕に訴えた。  びっくりしたよ、その時は。 それまで話なんてしたことなかったし、頭キンキ ンでいろんな噂のある奴で先生にも目つけられていたし、いわゆる「不良」のイ メージだけが彼の全ての印象だった。 だけど、夢を語る奴の目が、あまりにも 真っ直ぐだったから、僕とは比べ物にならない程その目が澄み、輝いていたから 、僕は思わず「ハイ」なんて言ってしまった。 第一、誰かにこれほど強く自分 の存在を求められたのも初めてだった。 成績はそこそこ、友達は広く浅く、大 抵のことはそつなくこなしてきた。 友達なんて取りあえず人数いりゃ便利だろ 、くらいにしか考えていなかった。 彼は僕にとっては初めての親友だ。 今ま で誰にも言えずにいた密かな夢、つらい恋心、過去の過ちを僕らはぶつけ合い、 時には殴り合い、そして理解しあった。

 ”夢”を持つ者は、とかく何時の時代も笑われ、異端視され、理解する努力 もされること無く排除されて行く。 僕はそんなミエナイチカラに(BY B'z)押 しつぶされない強さをノリミチから教わったのさ。


(SUM)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2183より転載>


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