45章 撃墜


光速飛行中は、カローラに装備されたあらゆる武器が無効になる。去勢ミサイルを追って光速飛行に突入した今は、ただミサイルの後を慎重に追いかけるだけのことしか、虎にはできなかった。
このタイプのミサイルは目標への最終アプローチに入ったときに急速に減速して通常飛行に戻る。そして、ミサイルの先端のカバーを自ら弾き飛ばした後に8個の弾頭を発射するやっかいなタイプであることを、虎はジパン連邦空軍の傭兵経験から知っていた。
虎がミサイルを撃墜するチャンスは、ミサイルが通常飛行に戻り先端のカバーを外すまでのわずかな時間しかなかった。
虎の減速が遅れるとミサイルを追い越してしまい、リカバーする暇もないまま8個の弾頭が発射されてしまう。8個所のそれぞれ異なる目標に向けて飛行する弾頭を虎1匹で全て撃墜するのは不可能なことだった。
虎は、ミサイルのどんな動きも見逃すまいと神経を集中した。
「去勢ミサイルだと! 上等じゃないか! オレのスリリングなチンチン宙づり度胸試しを邪魔するヤツは許さねぇ!!」

突然ミサイルが減速した。虎は素早く反応してスロットルレバーを戻した。
通常飛行に戻ったカローラのフロントウィンドウから見える去勢ミサイルの向こうに惑星マーリングリスルが広がっていた。
「マーリングリスルじゃないか!!」虎の驚きは、リップルレーザーを撃つ手元を一瞬鈍らせた。
「はずした!!」
去勢ミサイルの先端のカバーが弾け飛んだ。次の攻撃が最後であることを虎は悟った。
「いずな、オレに力を貸してくれ!!」虎は心で叫んだ。
虎の頭頂のブヨブヨが硬くなり、頭の中で何かがはじけた。虎は無意識のうちに照準を中央から右斜め下にずらすと、リップルレーザのトリッガを引き絞った。
リップルレーザが発射されるのと、去勢ミサイルが右斜め下に進路を変えたのは同時だった。
リップルレーザは見事に去勢ミサイルを貫いた。一瞬の間の後に去勢ミサイルは爆発した。
「いずな、サンキュウな!」
爆発のショックで操縦系に支障をきたしたカローラを操り、虎はマーリングリスルに降下していった。
「廃車だな、こりゃ。。。」

マーリングリスルの隠れた名湯の露天風呂を発見したうなちゃんは、とってもご機嫌だった。
うなちゃんは、頭にのせた手ぬぐいを温泉に浸して顔を拭き、満足の長いため息をついた。チョビとティナたんを誘って、この温泉に来て本当によかった、とうなちゃんは思った。
男湯では、女湯との壁の隙を血眼になって探す3匹の姿があった。
kskm、サワアリ、サワナシ、の3匹だった。
「おい、君たちやめたまえ。」ぱぱんぃが湯船から3匹を注意した。
しかし、3匹はそれを無視した。
「まったく君たちときたら。。。」ぱぱんぃは肩をすくめた。

それぞれのやり方で露天風呂を楽しむ7匹のはるか上空で、去勢ミサイルの爆発の小さな光がキラキラと輝いたが、7匹はそれに気がつかなかった。
マーリングリスルの平和な日々は守られた。


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