42章 フーロ


ムウを乗せたブラックバナナは、議事堂の建物に急速に接近していった。無線機からは、ミクの悲痛な声が聞こえていた。
「ムウ、早く脱出レバーを引くの!! 今すぐによ!!」
「どのレバーか分からないんだ。それに、もう手遅れさ。」ムウはそう言うと無線のスイッチを切った。
ムウの心は穏やかだった。暖かな陽射しの下で、飽きもせずに土を掘り返して遊んだ幼い頃のことを思い出していた。鼻先に土をつけたまま、ふと見上げた青空に長い飛行機雲があった。空を飛びたいと思い始めた最初の記憶だった。
「空を飛べて幸せだった。」ムウは、コクピットのフロントウインドウに一杯に広がった議事堂の建物を見つめながらつぶやいた。

「フーロの力を信じるのです。」ムウの頭の中に直接語りかける声があった。
「誰だ?」
「フーロは、フェレットの精神の源。宇宙を流れる大いなる河。」
「何だ? 頭がおかしくなったのか?」ムウは頭を振った。
コクピットから見える景色が全て静止し、眩しく輝き始めた。その光は次第に形を作り始め、やがて2匹のフェレの姿になった。
「フェレは決してあきらめてはいけません。」そのフェレは静かに話し始めた。「最後の最後まで、ベストをつくさねばなりません。」
もう1匹が言った「精神のレンジを広げ、フーロの声を聞くのだ。そこに答えがある。」
「おまえ達は誰だ?」
「私の名前はミュウ。フーロの旅人。」
「私はカノンだ。さあムウ、フーロの声を信じるのだ。」
ムウは、目を閉じて心を開いた。瞼の裏側にコクピットに座る自分の姿が見えた。その姿は、シートの右側にあるレバーを手前に引いていた。
「分かったぞ!!」
ムウは、シートの右側に手を伸ばした。レバーが手に当たった。ムウは思いっきりそのレバーを引いた。
シートが後ろに倒れた。
「何をやっているのですか。」ミュウが呆れた顔で言った。
「精神の集中が足りない。ウケを狙ってはダメだ。」カノンがたしなめた。
ムウは再び集中した。
「そうか! 分かったぞ!!」
ムウは目をあけると背中を丸めてシートの足元に手を突っ込んだ。そして、手に当たったレバーを引いた。
キャノピーが爆薬で吹き飛ばされ、3秒後にムウは座席ごと機外に放り出された。

議事堂の屋上のペントハウスでは、ダークマスクが急速に接近してくるブラックバナナに気づいた。
「バカな。。。」ダークマスクは目をみはり身をかたくした。その瞬間をぷりんとあづきは見逃さなかった。2匹はダークマスクに飛びかかり、手にしていたミサイルの発射装置を奪った。
しかし、紙一重のタイミングで遅かった。ぷりんが発射装置を奪った時には既にスイッチは押されていた。
「そんな!!」あづきはその場にしゃがみ込んだ。
「停止ボタンがあるはず!!」ぷりんは装置を調べた。
「そんなものはありゃせんよ。」ダークマスクは高笑いした。
ブラックバナナは、議事堂の屋根をわずかに削りとると、そのまま議事堂を通過して向こう側の池に墜落し、爆発炎上した。その衝撃に、ポッチョ、ピエロ、長江いたちんフェレのすけ、ぷりん、あづき、まゆは倒れた。
ポッチョ達が身を起こして辺りを見渡した時には、ダークマスクの姿は消えていた。

ジパン連邦空軍基地では、マロン達が突然の地響きに驚いていた。
「なんや! 地震か!?」
窓辺に駆け寄ったマロン達が見たものは、滑走路の向こうで次第に口を開いていく大きな穴だった。
「なんや! あの穴は!!」
穴からミサイルの頭がゆっくりと顔を出した。
「嗚呼!! 其飛行円筒爆弾 男性不能効果付属弾!! 」オノエリが叫び顔を手で覆った。
「なんや!? なんて言ったんや? ようわからん!」
オノエリは、胸にさしていたボールペンを取り出し、股間の下でブラブラさせた。そしてミサイルを指さした後で、そのブラブラさせたボールペンをコツンと下に落とした。
マロン達は、その意味を知ると股間を抑えて”く”の字になった。


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