34章 マリオネット


「食糧庁の首席技師のマユ君です。」いたちんは紹介した。
マユは、ぷりんの視線を避けてわずかに横を向いて坐った。
「どうも私達の食料が不適当と結論を出したようですね。その要因を詳しく話していただけるかしら?」ピエロが単刀直入に尋ねた。
「はい。」マユは大きく息を吸うと、一気に話し始めた。「まず第1点目として、この食料は歯石が付着しやすいです。第2点目、私が試しに食べてみましたが下痢をしました。3点目として、表面に油分がコーティングされています。つまり、油の酸化が問題になるということです。最後に、なによりもこの匂い、なんとかなりませんか? 耐えられない。」
ぷりんは、マユの顔をじっと見つめた。マユはその視線を痛いほどに感じて、ぷりんの顔を見ないように目を背けた。
「ということです。」いたちんは頭を掻きながら言った。

「納得できません。私達はこの食料を何の問題もなく食べていますし、今後問題となることもないと信じています。」ピエロがきっぱりと言った。
「それは文化の違いとでも申しましょうか。私達の体には合わないのです。」マユが言った。
「何だか私達がひどい物を食べているような言い方ですね。」ポッチョが鼻を鳴らしながら言った。
いたちんは、バツが悪くなってポッチョから視線を外した。その目が、ぷりんの険しい表情をとらえた。
「どうしました? えっと、ぷりんさんでしたっけ?」
「いえ、昔の友人を思い出していたのです。そこに座ってらっしゃるマユさんによく似た友人をです。」
「ほう、そうですか。」いたちんは話題がそれたことを内心喜んだ。「奇遇ですな。そのお友だちはお元気ですか?」
「何があったのかは分かりませんが、死んだようです。」
ぷりんのその言葉に、マユは驚いてぷりんを見た。
「嘘のつけない優しい娘でした。」

「ぷりんさん。」マユは話し始めた。「そのお友だちには、何かの事情があったのではないでしょか?」
「事情?」
「ええ、例えば大切な人にも嘘をつかなければならないといった事情がです。」
「そうは思いません。本当に大切に思ってくれて、信頼してくれるのならば、その事情を話してくれるはずです。相談してくれるはずです。私達はいつも互いに助け合ってきました。」
「・・・・・」
「でも、その友人は死んでしまったようです。」
「あなたは何も分かってないわ。」マユの感情は高まった。「食料を提供したらそれで万事解決すると本気で思っているの? みんながお腹一杯に食事ができると思ってるの? 私達に必要なものは、赤ちゃんも、おじいちゃんも、貧しいフェレも、みんなが公平に不自由なく食べられる世界なのよ。その世界は、今の体制では絶対に実現しないわ。」
「ちょっとマユ君、何の話しをしているんだ。」いたちんが慌てた。
「私は、あなたを批判しています。」マユはいたちんを見つめてキッパリと言った。「あなたは退陣するべきです。若くて公平な政治が行えるフェレに政権を譲りなさい。」
「な、なにを!」いたちんはマユに掴みかかろうとした。
ぷりんとあづきは、同時に椅子を蹴って飛び出していたちんを取り押さえた。
「何をする! その手を離せ!」いたちんが叫んだ。
ぷりんとあづきは、いたちんから離れた。
いたちんは、立ち上がり体の埃を払った。
「全く最近の娘さんときたら。。。」いたちんは、ふっと自嘲の笑みを浮かべた。「私が、マユ君のようにはっきりと思ったことを主張して、ぷりんさんやあづきさんのようにすぐに行動に移せることが出来たなら、こんな事にはならなかったのかもしれないな。」
いたちんは、窓辺に行き外を眺めた。「今日もいい天気だ。」
みんなは、いたちんの次の言葉を待って黙っていた。

「私はマリオネットにすぎない。」いたちんは話し始めた。
「ジパン連邦を牛耳っているのは、ダークマスク卿という男だ。」
「ダークマスク卿?」マユが繰り返した。
「そうだ。ダークマスク卿が影の実力者だ。私は彼の指示に従って動いている単なる操り人形さ。彼を倒さねば現在の体制は何も変わらない。」
「どんな男なの?」マユが聞いた。
「こんな男さ。」背後から声がした。
振り向くと、黒いマスクに黒いマントの男が立っていた。
「君たちの交渉の様子をさっきから向こうの部屋で見ていたよ。いたちん、少しばかりお喋りが過ぎたようだな。」
「監視カメラか!?」いたちんは震えながら言って、その場にしゃがみこんだ。
「その通りだ。楽しいショーだった。さて、みなさんに移ってもらいたい部屋がある。監獄という名の素敵な部屋にね。いたちん、君もだよ。」
ダークマスク卿はマスクの下でニヤリと笑った。


前頁へ 目次へ 次頁へ