33章 交渉開始


ポッチョ全権大使一行を乗せた特別機スッキッパーが、ジパン連邦の国際空港に滑らかに着陸した。
楽団の演奏に迎えられ、送迎の車まで敷かれた赤い絨毯の上を歩きながら、ポッチョの緊張は高まっていった。
「この交渉は失敗するわけにはいかない。」ポッチョは何度もそう自分に言い聞かせていた。
ピエロは別の事を考えていた。この赤い絨毯の下に潜り込んで端から端まで行けたら、どんなに楽しいだろうと。

ポッチョ達を乗せた車は、迎賓館の正面玄関に到着した。車を降りたポッチョ達に、1匹のフェレが握手を求めてきた。
「ジパン連邦にようこそ。私は首相の長江いたちんフェレのすけと申します。どうぞ、いたちんと可愛くお呼び下さい。空港まで出迎えに行けなくて申し訳ありません。」
「私はポッチョと申します。使節団の団長です。」
「私はピエロです。ジパン連邦では、競馬を楽しめるかしら?」
「ええ楽しんでいただけますよ。いい馬がたくさんいます。時間を忘れるほどに熱中できますよ。」いたちんは笑顔を見せた。
「ところで、後ろのお嬢様方は?」
「ぷりんとあづきです。彼女らは私とピエロの補佐官です。」ポッチョは、ボディガードだと言わない方がいいと感じて嘘をついた。

交渉は、翌日の朝から<昭和記念の間>にて始まった。
「親善の意味を込めまして、お土産を持って参りました。」ポッチョは、大きなカバンから品物を取り出した。「これは、珍しい宝石なんですよ。アクアマリンです。重さが198gもある史上最大のものですよ。」
「ほう。」いたちんは手に取って眺めた。ラムネの瓶が溶けて固まったように見えたが、見る方向により色合いが変わって見え、怪しい魅力をもっていた。
「それから、これは彩画伯の傑作です。<お母さんが私を抱いているところ>という題です。」
「版画ですか?」
「そうです。画用紙を部分的に重ねて貼ることで段差を作り、それにインクを塗って転写したのです。」
「彩画伯のお母さんは、きっと素敵な人なんですね。」
「ええ、いつも笑顔を絶やさない優しい方です。それから、航平画伯の<いろいろなスポーツ>という作品も持ってきました。」
「素晴らしい色彩だ。これは盆踊りの選手ですか?」
「いえ、新体操の選手だと思います。」

「さて、昨日いただいた食料のサンプルですが。」いたちんが本題に話をもっていった。「私どもの食料庁の技師から報告が届いています。」
「報告?」ピエロが言った。
「ええ。それで大変申し上げにくい事ですが。。。」
「何でしょう?」
「その、私どもの口には高級すぎて、その。。。」
「はっきりおっしゃって下さい。」
「つまりは、食料には向かないということです。」
沈黙が訪れた。
「向かない? つまりは食べられたものじゃないとおっしゃるわけですね。」ポッチョはキレかけていた。
ピエロは、ポッチョがキレた時にどうなるのかを知っていたので、慌てて言った。「その結果を提出した技師さんと、直接話ができますか?」
「ええ、可能です。呼びましょうか?」
「お願いします。」

マユが呼ばれて<昭和記念の間>に入ってきた。
マユは、ぷりんの姿を見て思わず声を上げそうになった。ぷりんの方も同じだった。
2匹は皮肉な再会に驚き、見つめ合っていた。


前頁へ 目次へ 次頁へ