31章 説得


カローラは、ジパン連邦空軍のレーダー圏内に到達した。
「こちらカローラ、虎だぜ。着陸するぜ。場所を開けておいてくれ。」虎が基地に交信を入れた。
やや間があって、応答があった。「暗号コードは?」
「KAMI2323。」
「待機せよ。」
「大丈夫かしら?」ミクがつぶやいた。
「大丈夫さ、暗号が変わってなければね。」虎が言った。
「カロラー、認証する。」無線が入った。「どこ行ってたんだ? 虎。ヤクト小佐はカンカンだぜ。」
「悪い悪い。急にカミさんが産気づいちゃって。」
「そうかい。で、何匹生まれたのかい?」
「いやまだ生まれてないんだ。オレの顔を見たら産む気が失せたんだとさ。」
無線から笑い声が聞こえてきた。「さあ、とっとと着陸しろ。4番滑走路を使え。船はいつもの場所に停めるんだ。」

マユは、ドライフードを1粒つまみあげ、シャーレに載せて分析機器にセットした。そして、コンソールに戻り、ディスプレイに表示される数値をチェックした。
  粗蛋白質 34.8%
  粗脂肪  17.2%
  粗繊維   3.5%
  水分    9.9%
  灰分    4.3%
「いいわ。これも合格ね。」マユはつぶやいて、クリップボードのリストに赤丸をつけた。
ノックの音がした。マユは、次のサンプルをセットしながら叫んだ。「ドアは開いてるわ。勝手に入ってきてちょうだい。」
男が入ってきた。
「オレは影虎っていうんだ。みんなは虎と呼んでる。」
マユは、チラリと虎の方を見たが、すぐにディスプレイの数値をチェックした。「これは、粗蛋白質が足りないわね。」
「マユさんか?」虎は言った。
「そうよ。」
「ちょとオレの船まで来てくれないか?」
「どうして?」マユは、キーボードを操作しながら言った。「ちょっと忙しいの。」
「マーリングリスルの件で話がある。君を待ってるフェレがいる。それに、ぱぱんぃから本を預かっている。」
マユは、虎の方に振り向いた。その顔は驚きのあまりに目が大きく見開いていた。
「メッセージをぷりんに伝えたよ。」虎は静かに言った。
「船はどこに停めているの? さあ、早く行きましょう。」マユは、慌てて白衣を脱ぎ捨てた。
「マユさん。オレは別に構わないんだが、白衣を脱ぐ前に、スカートか何かをはいているのを確かめた方がいいんじゃないか?」

カローラの船内で、クッキーはマーリングリスルの作戦とマユの妨害工作について、マユに話した。話を聞き終わったマユは言った。
「つまりこういうこと? ギャルが虎の股間にぶら下がっているノーマルのオスの証を見て、これオチンチンですか?ってぱぱんぃに聞いたら、ぱぱんぃが妙に慌てて、違うよそれはきききまって早口で言ってごまかそうとしたのね。」
「その通り。」ムウが言った。
「違うでしょ! マユどうしたの? ふざけないで!」ミクが言った。
「ふざけたくもなるわよ。何なのこの話。私は科学者なのよ。嘘の報告なんてできないし、戦争が起きるようなきっかけも作りたくない。」
「この星を住み易くするための絶好の機会なのよ。」クッキーがマユの手を取って言った。「きっとお父さんもマユの働きを喜んでくれるわ。」
ムウは突然に”お父さんの唄”を歌い始めた。音痴だった。

 お父さんの好きなもの それは青い空
 お父さんの好きなもの それは緑の森
 お父さんの好きなもの それは優しい瞳
 お父さんの好きなもの それは それは愛する娘
 ラララ お父さんは今も覚えているよ
 ラララ みんなで出かけたあの公園
 君が一番輝いて見えた
 今夜は君が欲しい I want you...muuu...

「だから、何なの!!」ミクはムウに言った。
「危ない歌だろう?」
「危なすぎるわよ。」
「雰囲気作りさ。」
「分かったわ。あなた達に協力する。」マユは感動して泣いていた。
ミクは、ムウとマユを交互に見てつぶやいた。
「あなた達の感性って分からない。。。」


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