30章 嘘


グリとキックーは、ジパン連邦空軍基地にいるマユとコンタクトをとる手段について小声で相談していた。
「ダメだ。これは不可能さ。」グリが投げ出した。
「そうな事を言っても、何とかマユに会って食糧輸入交渉をぶち壊しにしてもらわないと。」クッキーが言った。
「分かってるよ。分かってるさ!」グリが声を荒げた。
「何をケンカしてるの?」ミクが声をかけた。
「なんでもないの。」そう言ってミクの方に顔を向けた目に、虎の姿が映った。
クッキーの顔が急に輝いた。
「そうよ。虎よ。虎だわ。」
クッキーは席を立つと、虎の側まで言って話しかけた。
「虎、あなたジパン連邦空軍の傭兵だったわね。」
「そうさ。今は違うけどね。」虎は言った。
「本当に今は違うの?」クッキーは言った。
「そうだよ。なんだ疑うのかい? なんだい、オレがスパイとかなんとか言い出すつもりかい? だったらタダじやすまないぜ。オレは、あんた達の仲間のつもりだったのに、そんな風にオレを見てたのか!」虎は怒った。
「クッキー! 何て事言い出すの!!」ミクも怒った。
「違うの。私の言い方が悪かったわ。こう聞けばよかったわ。あなたは、契約の上では、まだジパン連邦に雇われているの?」
「契約の上?」
「そうよ。契約上の話。」
「そうだな、そう言えばまだ契約は切れていない。まあ、マロンとムウを乗せて脱出した時点で、オレの方から切ったことになるけどな。」
「よかった。」
「何が言いてぇんだ?」
「カローラをジパン連邦空軍基地に着陸してちょうだい。」
「空軍基地に? 何をバカなことを!」
クッキーは、マユに妨害工作を頼む作戦について話した。
「それで、マユとコンタクトをとる必要があるの。あなたは、ちょと外出して戻ってきた風に基地に着陸してもらいたいの。」
「そんな事できるのかしら?」ミクは不安な表情を見せた。
「これは賭けよ。」クッキーが言った。
「おもしれぇ。」虎は目を輝かした。「こいつはおもしれぇ。やろうじゃないか。」

カローラは光速航行から抜けると、惑星ジパンが目前に広がっていた。同時に反乱軍が使用している秘密専用回線の無線が入ってきた。
「おかえりなさい。虎ちゃん。」
「その声は、えっと。。。」
「琴よ。カローラをレーダーでクッキリ捉えたわ。随分不用心なご帰還ね。」
クッキーがマイクを奪った。
「琴。私よクッキーよ。」
「ああクッキー。お帰りなさい。旅は快適だった?」
「まあね。ところで、私達が帰ってきたことを知っているのは誰と誰?」
「え? 今のところ私だけ。」
「そう。しばらくみんなに伏せておいてくれない?」
「どうして?」
「ちょっと行きたい所があるの。」
「え? どこに行くの?」
「あ、あの、えっとね。。。バーゲン。そう、デバートのバーゲンに寄って行きたいの。」
「どこのデバート?」
「タチカワ。。。」
「そうなの。」
「そうよ。そうだ、琴にお土産買って帰るわ。何がいい?」
「私はいいわ。それよりバレた時の事を考えて、マロンに何か買ってきたら?」
「何がいいかしら?」
「そうね、。。。SHOKOのプロマイドなんかどうかしら?」
「そうね、それがいいわ。なるべく凄いヤツを買うわ。それじゃそういうことでヨロシク。」
「了解よ。じゃあバーゲン楽しんでね。」
「密告はだめよ。」

無線が切れた後で、グリはクッキーに言った。
「どういうつもりなんだ。どうしてマロンに内緒で行くんだ。」
「マロンがこの妨害作戦を賛成すると思う?」クッキーが反論した。「マロンは卑怯な事が大嫌いなのよ。」
「それはそうだけど、やっぱりまずいよ。とりあえずマロンに話して、それから許可をとって。。。」
「おいおいおい」ムウが割り込んだ。「グリ、君はバッシーを叩いて逃げるタイプなんだな。」
「石橋を叩いて渡る、でしょう。」ミクが言った。
グリは、バッシーを叩いて逃げて捕まった時の自分の姿を想像して気を失った。


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