28章 星座


輸送ヘリが遠ざかるのを見つめるCooの目は穏やかだった。
Cooは、ココロナキショップの連中の捕虜となった。

独房のケージで暮らす毎日は過酷だった。わずかばかりのまずい飯、何日も取り替えてもらえない水入れ、ケージごしに突然に脅かして喜ぶ連中、そして何よりも辛かったのは、暑い日にケージごと屋外に放置されることだった。
そんな毎日でCooは急速に体力を消耗していった。原因不明の胃腸の病気におかされるのに、そんなに日にちはかからなかった。
しかし、Cooは負けなかった。そして信じていた。あの連中は、きっと迎えに来る。

Cooは、ある日独房から見慣れた星座が見えることに気がついた。
「なんという星座だったかな?」
Cooは考えた。どうしても思い出せなかった。確かこんな伝説のある星座だった。

不器用な男がいた。その男が恋をした。高嶺の花の娘さんに恋をしたんだ。男にできることは、娘を笑わすことだけだった。娘にとっては、その男はピエロ役に過ぎなかったんだ。
やがて娘に婚約の話が持ち上がった。もちろん、相手はその男ではない。誰が見てもお似合いハンサムな優しい男が相手だった。
突然に戦争が起きた。娘のフィアンセが戦場に駆り出されることを知った男は、娘のフィアンセをこっそりと呼び出してこう言った。
「ボクが代わりに戦場に行く。ボクはあの娘の笑顔が好きなんだ。その笑顔を消すわけにはいかない。」とね。
その日から、フィアンセの男は、不器用な男の代わりに娘をいつも笑わせた。
不器用な男は、戦場で遠く娘の笑顔を思い出しながら戦った。
最後の銃弾が不器用な男の胸を貫いたとき、男は娘の楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。
不器用な男は星座になった。娘をいつも見守れる星座になった。

「アナザーオリオン。。。そうだ。アナザーオリオン座だ。」
Cooは思い出した。みんなが楽しく暮らすことを願って見守る星座、アナザーオリオン。自分もそんな男になりたいとCooは思った。
Cooは、その日から毎晩のようにその星座を眺めて夜を明かした。

2ヶ月が過ぎた。Cooは、薄れゆく意識の中で懐かしい声を聞いたような気がした。重たい瞼を無理に開くと、4匹のフェレの姿が見えた。
草薙、庵、銀嶺、琥珀だった。
「小佐、遅くなってしまって申し訳ありません。」
4匹は、姿勢を正すとCooに敬礼をした。
ココロナキショップは、草薙達の怒りの攻撃により壊滅していた。

救出されたCooは、マーリングリスルの病院に大切に輸送された。
ベットの中で、Cooは中佐に昇格し勲章を授与された。
その後、Cooは軍隊を退役すると、いつもぷりんとあづきのいる生活に戻った。

「何を考えていたんです?」
銀嶺の声に、Cooは現実に返った。そうだ、基地に向かう車の中だったんだ。
「いや、昔のことさ。」
「そうですか。」
「銀嶺、そう言えば大切なことを言い忘れていた。」
「なんです?」
「ありがとう。信じていたよ。」
「え?」
「照れくさいから2回言わせるな。」
銀嶺の運転する車は、海兵隊特殊部隊の基地へと入っていった。


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