27章 特殊部隊の記憶


基地に向かう車のシートに座るCooは、最後の任務の事を思い出していた。ぷりんがまだ幼かった頃のあの任務を。

暗視ゴーグルを通して緑みがかって見えるクロモンイチバの建物は、ひっそりと静まりかえっていた。
Cooは、暗視ゴーグルの感度を微調整すると、そっと指を立てた。Cooの背後のジャングルから、草薙、庵、銀嶺、琥珀の4匹が音も立てずに出てきた。
Cooは立てた指を曲げた。それを会図に4匹は左右に展開して鉄条網に接近した。Cooも続いた。
庵が腰に着けていたニッパーを取り出した。ニッパーは移動中に音を立てないようにラバーでコーティングされ、わずかに見える歯の部分は黒く塗装されていた。
ニッパーだけではない。Coo達が身につけている全ての装備は同様の加工がなされていた。
庵は、通り抜けられる最低限だけ切り取った。電流が流れていないことは事前の調査で確認済みだった。
5匹は、順に鉄条網の下を「ごろん」し、クロイモンイチバの敷地内に潜入すると、すぐに姿勢を低くして捕虜が収容されているはずの建物に向かった。

捕虜として捕らえられていたフェレ達は、突然ケージの外に現れたCoo達の姿を見て息をのんだ。しかし、それが救出にきた味方の特殊部隊であることに気づいたフェレは、その喜びのあまり「ククククッ」と一斉に奇声をあげた。
これがまずかった。不審に思って様子を見に来たクロモンイチバの見張りに、Coo達は発見された。
警報が鳴り響いた。
銀嶺は、捕虜のフェレ達を閉じ込めたケージを急いで切断した。
「さあ、みんな。マーリングリスルに帰ろう。」銀嶺は笑顔で言った。
捕虜のフェレ達は、協力して弱ったフェレが歩くのを助けながらケージからワラワラと出た。

建物を出ると、銃撃戦が始まっていた。
琥珀は、銃弾が降り注ぐ中を勇敢に飛び出し、クロモンイチバの輸送用トラックの運転席に飛び乗った。
「頼むぞ!」琥珀は、イグニッションキーを回すと、咳込んだような音をたてたのちにエンジンが始動した。琥珀はアクセルを床まで一気に踏みつけ、トラックを捕虜達が出てきた建物の前につけた。
「さあ、みんな後ろに乗れ!」琥珀が運転席から叫んだ。

琥珀の運転するトラックは、中央ゲートに向かって突進した。
助手席の窓から身を乗り出したCooは、ロケットランチャーを背後のクロモンイチバに向けた。
「クロモンイチバは、地獄に落ちていい。」Cooは、そう呟くとトリッガーを引いた。
クロモンイチバは爆発炎上した。
トラックは中央ゲートを突き破ると、仲間のピックアップ地点までの道を疾走した。

合流地点に着いたCoo達を待ち構えていたのは、ココロナキショップの連中だった。
「どうしてこの場所がバレたんだ!?」庵が銃弾に身を伏せながら叫んだ。
「知るもんか!!」銀嶺も頭を低くしながら叫び返した。
「これじゃあ、迎えが来ても上品に乗れねえな。」琥珀が軽口を叩いた。
その時、上空で待機していたマーリングリスル輸送ヘリが強行に着陸してきた。
「なんだ、お人好しが降りてきたぞ。」草薙が口笛を吹いた。
輸送ヘリのハッチが開くと、一匹のフェレが呑気に手を振った。
「お客さ〜ん。バスが来ましたよ! 早く御乗車下さ〜い。」
Coo達は輸送ヘリに向かって走った。
「運転手はテツさん、車掌は源さん。マーリングリスル行き最終バスですよー!」源さんは、ハッチに設置してある機関銃を連射して援護しながら叫んだ。
銀嶺達が全員輸送へり転がり込んだのを確認したCooは、ココロナキショップの1人が携帯用対戦車ミサイルを用意しようとしている姿を見つけた。
「さあ、早く離陸するんだ。今すぐ!」Cooが叫んだ。
輸送ヘリが離陸するのと、その下をミサイルが通過するのは、ほぼ同時だった。ミサイルが通過した衝撃で、ヘリは大きく揺れた。
Cooが機外に放り出された。
「着陸しろ! 小佐が!」庵が叫んだ。
Cooが下から叫んだ。「着陸するな! 今のショックで着陸装置が破壊されている! 着陸の衝撃で二度と離陸できなくなるぞ!」
「しかし」
「いいから行け! これは命令だ! さあ!」
「・・・・・」
「命令だ! 捕虜だったみんなを家族の元に返してやってくれ!」

上昇する輸送ヘリのみんながCooに敬礼をした。
次第に小さくなって見えるCooも敬礼していた。


前頁へ 目次へ 次頁へ