25章 不安


作戦の準備が整う時間を利用して、ぷりんはミク達を夕食に招待した。
指定された時間きっかりに、ミクとムウは花を持ってぷりん宅のドアのノックした。
「いらっしゃい。すぐに家分かった?」ぷりんは出迎えた。
「ぷりんの書いてくれた地図を見ながら来たら迷っちゃた。」ムウが言い、ミクに肘鉄をくらわされた。
「さぁ、入って。夕食の準備は、もうちょっとなの。ソファーで楽にしていて。」

ミク達は、リビングルームで思い思いのスタイルでくつろいだ。ふと、ミクはCDデッキがあることに気づいた。
「ねぇぷりん、音楽を聞いてもいいかしら?」ミクはキッチンに向かって声をかけた。
「ええ、適当に聞いてちょうだい。」
ミクは、PLAYボタンを押した。ビートのきいたイントロが流れた。ロックンロールだった。

オイラはすかしたイタチ野郎
街で噂のイタチ野郎
今夜もあの娘とファンキーモンキーダンス
踊るぜベイビー 腰の動きにあの娘もメロメロ
おやぢのロックンロール
おやぢのロックンロール

Cooが腰を怪しく振りながら奥の部屋から出てきた。
「いい曲だろう? ベイビー」
「ああ、すかしてる。」ムウも踊っていた。
ぷりんがキッチンから飛び出してきた。
「いつの間にこんなCD買ったの! お兄ちゃん!!」
「いいじゃないか、なあみんな。」
「ああ、ナウなビートだぜ。」ムウは同意した。
ミクは顔をピクピクさせながら笑顔を作った。

「私、不安なの。」ぷりんが夕食の途中で呟いた。
「え?」ミクも手を止めた。
「もしもの場合、ポッチョとピエロを守れるかしら?」
「ああその話。大丈夫よ。マスターなんでしょ、ぷりんは。」
「何の話だ?」Cooが言った。
ぷりんは、会議の話と自分に与えられた役割を話した。
「すっごーい、お姉ちゃん!」あづきは目を輝かした。「私も行きたーい! ねっ、いいでしょ?」
「ダメよ、あづき。遊びじゃないのよ。」
「オレもついて行こうか? 」Cooが言った。「こう見えても昔は、胃腸の弱いCooちゃんと呼ばれていたんだ。」
「何の関係があるの。」
「それを言われると弱い。」
「スケさんは泳げずに溺死、というヤツですな。」ムウが言った。
「過ぎたるは及ばざるがごとし、でしょ。だから何なの?」ミクが不機嫌に言った。
「すっごーい! よくミクは分かったわね。そんなおやぢボケ!」あづきは感心した。
「コイツとの付き合い、長いから。これで3度目よ。同じギャグ言うの。」ミクはため息をついた。
「どうやら男性陣は分が悪いようだ。」ムウが言った。
「男性陣だって!! すっごーい言い方!」あづきは鼻に皺を寄せた。
「どうだいムウ、あっちでナウな曲でも聞かないか?」Cooは誘った。
「そうしよう。」

部屋の向こうから、おやぢのロックンロールが聞こえてきた。
ミクはその音楽を無視しようと懸命になりながら言った。
「あづきちゃんが一緒だと、ぷりんも心強いんじゃない?」
「え?」
「さっき、そんな顔してた。」
「そうよ! 私も強くなったわ。道場では誰も私に勝てないわ。」あづきは喜んで言った。
「その自信が危ないのよ、あづき。」
部屋の向こうから弾けたムウの声が聞こえてきた。「イエーィ!」
「うぬぼれは自らを滅ぼす結果につながるの。マスターAkoはよく言っていたわ。上に登るは易し、されどその高さを知ることは難し。」
「いい言葉ね。耳が痛いわ。」ミクは言った。
「私、強くなりたい。いい経験になると思うの。お願いお姉ちゃん。」
ぷりんは、あづきの目を真っすぐにみつめた。
あづきも、真剣な瞳をぷりんに向けた。
おやぢのロックンロールが聞こえていた。
3匹は必死で笑いをこらえていた。


前頁へ 目次へ 次頁へ