21章 ジュラ


反乱軍の基地のレストルームに、あタロウ1匹が座っていた。
あタロウは、ポケットから1枚の写真を取り出し、基地の仲間に見せたことのない優しい顔で、その写真を眺めた。
「ジュラ。。。」
あタロウはそっと呟き、写真を撫でた。あタロウは、あの日のことを思い出していた。

「こっちよ。」ジュラが手を振った。
あタロウは、ジュラにやっと追いついた。
「見せたい物って、何だよ。」
「来れば分かるわ。もうすぐよ。」ジュラはそう言うと、また駆け出した。
2匹は丘を駆けあがると、崖の上に立った。
「あれよ。」ジュラは指差した。その方向に沈む夕陽があった。
「ただの太陽じゃないか。」
「ちがうわ。あなたと見る最後の夕焼けよ。」
「知っていたのか。」
「あなた、明日基地に戻るのでしょう。そして、戦場に行くんだわ。」
「戦わないといけない。」
「わかってる。。。。見て! 私、夕陽が沈む瞬間の空の色が好き。」
あタロウは、ジュラの横顔を見た。ジュラの瞳に太陽が揺れていた。
「ジュラ。。。」
「お願い。きっと戻ってきて。。。」ジュラは、涙をこぼすまいと、夕焼けの空を見上げた。
「待ってる。。。私。。。」
あタロウは、黙ってジュラを抱きしめた。

あタロウは物音に気づいて、ふと我に返った。
マロンが立っていた。
「行ってあげ。」マロンは、静かに言った。
「何のことだ?」
「とぼけんでもええ。」マロンはあタロウの手にある写真を顎でさした。「ええ娘やないか。」
あタロウは、慌てて写真をポケットに戻した。
「おまえには関係ない。」
「ミク達が帰ってくるまでは、特に作戦行動の予定はない。行ってあげるなら今や。」
あタロウは立ち上がると、マロンを見つめた。真剣な瞳だった。
「さあ。」マロンが優しく言った。
あタロウは、ふっとマロンから視線を外すとレストルームを出ていった。
「行ったな。。。それでええ。」
マロンは自動販売機で今流行のコーヒー買うと、ゆっくりと飲み始めた。
トイレを流す音が響いてきた。
「なんや、ゲリリか。」


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