静かな午後だった。
ぷりんはテラスに紅茶のポットを運び、お気に入りのティカップを2つセットした。
ランチョンマットは、今日の柔らかな春の陽射しに合わせて、色の少し抜けたペパーミントグリーンのコットンを選んでいた。ティカップの色は、もちろんパールホワイト。紅茶がきれ
いに見えるから。
「これでよし。」ぷりんはひとりつぶやくと、奥の部屋に向かって呼びかけた。「お兄ちゃん。お茶の用意ができたわ。」
やや間があって、バジャマ姿のCooが蒸しタオルで首筋を拭きながら出てきた。
「ん〜〜〜〜〜〜〜」Cooは気持ちよさそうに唸った。
「何がん〜よ、もう昼過ぎよ。それに、パジャマの裾をズボンに突っ込んで着るの、やめてくれない? 第一、テラスに出るときは、パジャマはやめてって、いつも言ってるでしょ。」
「まあまあまあ。ところで、あづきは?」
「あの娘なら、もう道場に行ったわ。」
「そうか。早起きさんだな。それにしても本当にバトルが好きなんだな、あいつは。腕は上がったのか?」
「かなりね。でもまだまだよ。ムダな動きが多いもの。」
「おまえと比べたら、あづきが可愛そうだ。」
Cooは、紅茶に砂糖を入れ、かき混ぜた。
「お兄ちゃん。」
「ん?」Cooは、ティカップを口に近づけていた手を止めた。
「スプーンをカップに突っ込んだまま飲むのもやめて。」
あづきとティナは、闘志を燃やした瞳で見つめ合っていた。道場のみんなは、固唾を飲んで2匹の勝負を行方を見逃すまいとしていた。
「始め!!」審判役の元輝が鋭く叫んだ。
ティナは一気に飛び出してあづきの首筋を噛み、そのまま引きずり倒そうとした。あづきは、噛まれた首を激しく振りながら、後ろに下がると見せかけて逆に前進した。
この予想外の動きにティナは体勢を崩し、噛んだ口が緩んだ。その間隙をぬって、あづきはティナの胸元に飛び込み、顔面に激しい頭突きをくわらした。
ティナは完全にバランスを失った。
「頑張れ!ボクのティナたん!」純朴な青年が思わず叫んだ。
ティナは、その声に励まされダウンを免れた。しかし、頭を小刻みに左右に振りながら更に突進してくるあづきの攻撃は避けられなかった。
「勝負あり! あづき。」元輝がピシリと言った。
「決まり手、お顔ぷるぷる気合い投げ。」
「あづき、強くなったね。」ロッカールームで道着を脱ぎながら、チョビが言った。
「嬉しい。」あづきは、タオルで顔を拭き、笑顔を見せた。
「私も、もっと強くなりたい。」チョビは言った。
「私もよ。」ティナだった。「絶対に勝てると思ったの。ダイエットしたんだよ。」
「私、ぷりん姉さんに特訓を受けているのよ。」あづきは言った。
「え? ぷりんさんに。」チョビは驚いた。
「ぷりんさんって、伝説の拳法の使い手でしょ。なんて言ったけ、あの拳法。。。」ティナは考え込んだ。
「鳴鼬拳。」あづきは教えた。
「そうそう。戦いに集中するほどに色っぽい声を出す、あの伝説の拳法ね。」チョビが言った。
「あづきズルいよ。」ティナは悔しがった。「私なんか、ロイス相手の修業なんだもの。気合い入らないよ。」
「ふふふっ。さあ、帰りましょ。」あづきはロッカーの戸を閉めると、デイパックを背負った。
光速で飛行していたカローラが、減速を始めた。
「通常速度に戻ったら、そこはマーリングリスルだ。」虎は計器をチェックしながら言った。
「どうだ、カローラも馬鹿にしたもんじゃないだろ? なんたってオレ様が整備したんだ。まあ、多少は違法なチューンもしてないでもないがな。そもそも、船ってヤツは、エンジンだけがよくてもダメさ。つまり、トータルバランスってもんが大事なんだ。特に、この船の足回りには、すげーパーツを使ってる。どんなパーツか聞きてぇか?」虎はニヤリと笑うと振り向いた。
みんなスヤスヤ眠っていた。