16章 それぞれの仕事


カローラのコクピットに座る虎は、いくつかの数字を打ち込み、リターンキーを叩いた。
「マーリングリスルの座標を入力した。航路の計算が終わるまで、少し時間がかかる。」虎は、シートにもたれた。
ミクは虎の背後の席から声をかけた。
「ねえ、影虎さん。」
「虎でいい。」
「虎、どうしてマロン側につこうと思ったの?」
「さあね。どうしてだろうね。」
「ジパン連邦のやり方が気に入らないってさ。」ムウが割り込んだ。
「本当なの?」
「ああ。」虎がめんどくさそうに言った。「子どもが生まれる。オレの子だ、多分。かあちゃんに栄養つけてもらいたい。子どもにもメシを腹いっぱい食わせたい。今は金よりメシだ。」
「やさしいのね。」
「よせやい。」
「奥さん、どんな人?」
「顔を近づけると唇に噛みつく癖がある普通の女さ。」
「名前は?」
「ウラン。うんこのウ、らっきょうのラ、んぃのン、だ。」
「きれいな名前ね。」
「まあね。」
「ねえ虎、もう1つ質問。」
「質問の多い女だな。なんだ?」
「どうして頭のてっぺんがブヨブヨしてるの?」
「触るな!」
「どれどれ」ムウも指でつついた。「ホントだ。」
「触るなったら!!」
そのときディスプレイに航路計算が出力された。
「大人しく座ってろ! 光速飛行に入るぞ。」虎が言った。
カローラのフロントウィンドウから見える星が放射状に線を引き始め、やがてコクピットが眩しい光に包まれた。

ちょうどその頃、マユは総指令室に呼び出されていた。
「呼ばれた理由は分かるな。」男爵が爪切りを磨きながら言った。
「はい。」
「言ってみろ。」
「私の不注意で、囚人を逃がしてしまいました。警備をつけて囚人を尋問すべきでした。」
「そうだ。で、どう責任をとるつもりだ? マユ君。」
マユは左足を出した。
「何のつもりだ?」
「小指を見てください。」
男爵は、ミクの足の小指を見て思わず爪切りを落とした。
「ひょえー。爪が無いじゃん!」
「はい。オトシガミってヤツです。」
「オトシマエじゃないか?」
「そうとも言います。」
男爵は、爪が根元から引き抜かれた傷口を、言葉もなく見つめた。やがて絞り出すように言った。
「よろしい。下がっていい。」
部屋を出て行こうとしたマユに男爵は声をかけた。
「痛いでしょ、それ。」

反乱軍の秘密基地では、ベベがジパン空軍基地でダウンロードしたデータを解析していた。
「これは!」ベベは、インターホンのスイッチを入れた。「マロン、ちょっと来てくれる?」
「なんや?」マロンの眠そうな声が聞こえた。
「見せたいものがあるの。」

マロンはすぐにやってきた。
「これよ。」ベベはキーをいくつか叩いた。
突然、立体映像が浮かび上がった。
「かなですうっ。」きわどい水着のギャルの映像だった。
「これは。。」マロンが目をみはった。
「この子はダイスケなんですぅ。」
「見る角度を変えてくれ。正面斜め上からや。」
ベベがキーを操作した。
「バカ、カエルにしてどうする! 元に戻すんや。」
「異常に興奮してますね、リーダー。」
「興奮なんかしてへん。戦略的見地から、2つ山の攻略方法を考察してるだけや。」
「はいはい。」ベベは元に戻した。
マロンは、しばらく眺めた後でベベに言った。
「看護婦バージョンはないのか?」


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