13章 傭兵


マロンは、エンジンの起動ボタンを何度も叩いたが、エンジンは反応しなかった。
「なんでやねん。」
「どうした?」後部座席からムウが声をかけた。
「エンジンがスト起こしてん。」
「働かせ過ぎってわけか。」
「そやな。」マロンは、いくつか別の方法を試みた。
「やっぱりダメや。」
「マロン、どうした? どうして離陸しない。」スピーカーからあタロウの声が聞こえた。
「ちょいとしたトラブルや。すぐに解決するさかい、先に帰ってや。」
「マロン、何があったの?」ベベの声が割り込んだ。
「いいから、先に帰ってくれ。」
「・・・」
「ああ、もう解決した。全速力で逃げるんやで。後から追いかけるワシに追いつかれたら、お尻ペンペンやで。」
「分かったよ。ちゃんと追いつくんだぞ。」
あタロウ、ベベ、アカメの3機のブラックバナナは基地から離脱した。

「たいしたもんだな。さすがリーダ。お見事です。」ムウがのんびりと言った。
「何がや。」
「あんたのこと気に入ったよ。」
「そいつは光栄ですわ。」
「そろそろ諦めて、コクピットから出た方がいんじゃないかい?」
「そやな。これじゃあ射的のマトみたいやな。」
マロンとムウは、ブラックバナナから飛び降りて、とりあえず滑走路の脇の格納庫まで走った。

ハーネスが全機出撃した後の格納はガランとしていた。
「何か飛ばせそうなものはないか?」ムウは言った。
「ここにはないな。しょーがない。自分の足で走って逃げるか。」
「疲れるからいやだ。」
2匹は笑った。
「ワシはマロンや。」
「オレはムウ。あんたの事はゼンジに聞いたよ。もっといかめしいヤツだと想像してたんだが。。。あんた可愛いじゃん。」
「よしてや。気色悪いわ。」
「ちょっと、あんた達。」背後で声がした。
2匹は驚いて振り向いた。マロンは素早く銃を向けた。
「おっと撃つな! 味方だよオレは。」鼻先の短い大柄な男が言った。
「味方?」マロンは銃を向けたまま言った。
「そうさ。さっきから、あんた達の脱出劇をここから見てたよ。」
「楽しかったかい?」ムウが言った。
「まあね。ところで、あんた達、船が要るんだろ?」
「まあね。」
「協力しよう。」
「なしてや?」
「もうすぐ子どもが生まれる。子どもにはメシを一杯食わせてやりてえ。だけど、ここにいても十分に食わしてやれねえ。それに、ヤツらのやり方は納得いかねえ。まあ、そんな理由だ。」
「ヤツら? あんた、ジパン空軍の者じゃないんか?」
「オレは単なる傭兵さ。金で雇われて戦っている。金さえもらえば誰とでも戦う。」
マロンは銃を下げた。
「あんた、名前は?」
「影虎さ。みんなは虎と呼んでいる。」
「よし、虎。あんたの船を見せてくれ。」
「OK。こっちだ。」

「見てくれはアレだが、よく飛ぶぜ。」虎は剥がれかけたペンキを爪で弾きながら言った。
「そう願いたいね。」ムウは言った。
「買い替えたいんだが、今はぴーぴーさ。子どもが生まれるんでね。ターボパーツがダンボール1箱分あるんだが、こいつにはつかないのさ。」
「頼もしいこって。」マロンが言った。
「大丈夫さ。ちゃんと飛ぶよ。オレ、整備の腕はいいのさ。」
「条件は?」マロンが言った。
「何の?」
「虎は傭兵なんやろ。契約条件は何や?」
虎は笑った。
「そうだな、オレの癖を笑わないっていう条件だ。」
「どんな癖や?」
「困るとグルグル回る。」
マロンとムウは笑いをこらえた。
「契約成立だ。」
格納庫の外からハーネスの爆音が聞こえてきた。
「さあ、とっとと乗ってバケットシートに体を固定してくれ。」

格納庫から虎の操縦するカローラが飛び出した。
カローラは一気に加速して、帰投してきたジパン空軍のハーネスとすれ違った。
「ひやっほ〜ぉ!!」虎は目を輝かせ更に加速した。
カローラは、安全圏に脱出した。


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