12章 撤収


マロンは、トーキーを取り出しスイッチを入れた。
「ベベ、聞こえるか?」
「ええ。」ベベが応答した。
「ゼンジと合流した。2匹のお客さんも一緒や。」
「ゼンジ! 無事だったのね!」
「そや。みんな無事や。これからそちらに戻る。あタロウを着陸させてくれ。後部座席に1匹づつ乗ってもらう。」
「了解!」
「頃合いを見て、ベベもブラックバナナに戻ってくれ。気いつけてや。over。」
「マロンもね。over。」

必要な交信を終えたベベは、ジパン連邦空軍のホストコンピューターへの回線を切断し、リブラットを背負っていたザックに戻した。その代わりに、大きなハンモックを取り出して管制室にセットした。
準備を終えたベベは、管制官達に向かって笑顔を見せた。
「さあ、みなさん。この上に乗って。一匹残らずよ。」
管制官は、誰も動かなかった。
「あのね、私、気が短いの。」ベベの顔が険しくなったのを見た管制官達は、我先にハンモックに乗った。
「やればできるじゃない。さてと。。。」ベベは、ハンモックの底に何やらぶら下げながら言った。
「あなた達からは見えないでしょうけど、爆弾をセットしたわ。でも大丈夫よ。振動さえ与えなければね。」
パニックを起した1匹の管制官がハンモックから飛び降りようと身を起した。その体をすかさずベベが押さえて言った。
「おっと、ハンモックを揺らしちゃダメ。この爆弾のセンサは割と敏感なのよ。いい子だから気をつけてね。」
ベベは白い歯を見せてニッコリ笑い、管制室から出ていった。
「いい夢を見てね。」

ベベが管制塔から愛機の側に戻ったちょうどその時、あタロウのブラックバナナが着陸した。あタロウは器用に機体をベベの横につけ、コクピットから飛び降りた。
「大将は、まだピクニックから戻らないのかい?」
「もう戻るわ。ほら、あそこよ。」
ベベの指差す方向に、マロン達が全速力で駆けてくる姿があった。
「オレは2番目に走っている彼女を乗せよう。野郎とのタンデムは気が進まない。」
「ふふっ。じゃあ、私はゼンジを乗せるわ。」
「それがいい。あのドテドテとマヌケに走る野郎は、大将に任せよう。」
突然あタロウのブラックバナナから、キョンピューターの音声が聞こえた。
「敵機だわ。H型ハーネスが30機なんだわ。こっちに向かってくるんだわ。3チュッパチャプス後に交戦圏内に入るんだわ。」
「時間がないが、ギリギリセーフってとこか。」
「ふふっ。」ベベが思い出し笑いをした。
「何がおかしい?」
「あのね、管制塔のフェレ達が今どんな顔してるかなって思って。」
ベベが管制官を1匹残らずハンモックに乗せた話をかいつまんで話しているうちに、マロン達が駆け寄ってきた。
「さあ、帰ろうや。」マロンは言った。

ミクはあタロウ機に、ゼンジはベベ機に、そしてムウがマロン機の後部座席に収まった。
コクピットに乗り込もうとしたあタロウに、ベベが言った。
「さっきの話のオチを言ってなかったわ。」
「ん?」
「管制官のハンモックの下につけたもの、あれはクマのプーさんのヌイグルミよ。」
あタロウは笑いながらコクピットに乗り込むとエンジンを点火した。ベベも自分の機に乗り込んで点火した。
「お先に!」
あタロウ機が離陸して、ベベも続いた。
ただ、マロン機のエンジンだけが始動しなかった。


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