8章 救出作戦


ジパン空軍基地に突入するブラックバナナのコクピットに座るあタロウは、不思議と心が穏やかだった。機内のパイプからわずかに漏れたオイルの甘い匂いを嗅ぎ、自分がまたここに戻ってきたことを実感した。
あタロウは、ブラックバナナのコンピュータであるキョンピュータのスイッチを入れた。ブーンという音と共に、音声インターフェースがアクティブになった。
「あ! おデコに星のマークがあるけどあタロウさんなんだわ。なつかしいんだわ。」
「目標地点までの距離は?」
「ちょっと緊張するんだわ。調べるんだわ。分かったんだわ。4096ペットボトルなんだわ。」
「防衛レーダーの動作状況は?」
「情報不足なんだわ。あ、マロンさんから通信が入ったんだわ。切り替えるんだわ。またねだわ。」

「あタロウ。騒がしいパーティと静かなパーティ、どっちが好きか?」マロンの声に切り替わった。
「今夜は騒ぎたいな。」
「ワシも同じや。よし正面突破といこうやないか。」
「いいね。」
「8時の方向から侵入する。侵入後に、2時の方向に燃料貯蔵庫があるはずや。あタロウはそいつを攻撃してくれ。その混乱に乗じて強行着陸しよう。」
「どこで落ち合う?」
「滑走路の管制塔や。ベベ!」
「はい!」
「リブラットはちゃんと持ってきたやろな?」
「あります。CPUをクロックアップしてハードディスクも大容量なタイプに交換してあります。」
「よし。ベベは管制塔を制圧した後で、ジパン軍のホストコンピュータをハックしろ! ゼンジの居場所を調べるんや。ついでにその他のあらゆるデータを収集しろ。」
「了解。」
「アカメ!」
「ほいな。」
「アカメは、上空を旋回して誰もブラックバナナに近づけないように威嚇と援護を頼む。」
「無茶苦茶危険でんがな。」
「大丈夫や。相手の戦闘機はすっかり出払ってるはずや。」
「賭けます?」
「やめとこ。」
「目標地点まで残り200ペットボトルなんだわ。レーダー網を突破したんだわ。」キョンピュータが告げた。
「よし、突っ込むぞ!」
4機のブラックバナナは、互いに翼を左右に振って合図を送り、一糸乱れずに侵入体制を整えた。

監獄の前の長い廊下を歩く足音が聞こえてきた。その足音は、ミク達の監獄前でピタリと止まった。
「ほれ、嘘つきさんを叱りにきたぞ。」ムウは茶化した。
「ムウ!」ミクはムウを叱った。
ロックを解除する音が聞こえた。
ゼンジは、飛び跳ねて部屋の隅でシャーシャーと唸った。
ドアが開いた。入り口に立っていたのは、マユだった。


前頁へ 目次へ 次頁へ