8章 誕生


感謝祭の夜、空から一筋の光が診療所に降り注いで消えた。

「先生、ウランが破水しました。」看護婦のクックが報告した。
その声に驚いて鈴は手に持っていたノートパソコンを床に落としてしまった。これで3台目をダメにしたことになる。
「すぐに行くわ。ところで琴は?」
「先ほど気晴らしに障子を破りに出かけていきましたが。」クックは答えた。
「すぐに呼び戻してちょうだい。」そう言い残すと、鈴はウランの病室へ急いだ。

病室ではウランが落ち着かない様子で尻を舐めていた。
「ちょっと診ましょう。」鈴は診察し、もう出産が間近であることを知った。
「ご主人に電話しておきましょう。」鈴は言った。
「ムダです。間違えてナゴヤまで行きましたので、連絡がつかないんです。」

夜が明ける頃、ウランは12匹のベビー達に囲まれていた。そのうちの1匹の毛色が、金色に輝いていることにウランは気がついた。
「先生。この子は変わった毛色をしていますが、病気じゃないでしょうね。」ウランは心配そうに琴に聞いた。
琴は鈴の顔を見たが、鈴にも答えられなかった。
「健康チェックをしましたが、何も問題は見つかりませんよ。大丈夫です。」鈴と琴は声をそろえて言った。

戸口にぷりんとCooバイトを持って現われた。
「生まれたみたいですね。飛んできました。」Cooはベビー達を覗きこんだ途端、驚きの声をあげた。
「金色のフェレ。。。。伝説のフェレ。。。」
「何なんですか? どうしたんですか?」ウランは心配になってきた。
「オレは昔、あちこちと放浪の旅をしていた。その旅で見つけた遺跡の壁に金のフェレが描かれていた。」
Cooは遠い目をしながら話始めた。
「そして、その絵の下にはこう書かれていた。」

< その者 金色の衣に包まれ 災い訪れる世に帰らん >

言葉を失ったみんなが見守る中、金色のフェレは無邪気な顔でウラン乳を吸い続けていた。
遠くからマロンの寝言が聞こえてきた。
「赤勝て! 白勝て!」


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解説

ウラン 現在、小島宅で生活しているノーマルフェレット。♀。
ノーマルフェレットとは、通常市販されている臭腺除去、去勢、避妊などの処置を行っていない素のままのフェレットのことである。毛色がセーブルであるフェレットを「ノーマル」と呼ぶこともあるらしい。
クック 現在、羽田宅で生活している。
3台目をダメにした 鈴ちゃんのオーナーであるSHOKOさんは、ノートパソコンを壊すことで有名。既に2台のノートパソコンを破壊している。
障子を破りに フェレは、障子や襖を破るのが好きである。濡れた鼻先を障子に押し当てることで穴を開ける、障子に体当たりして突き破る、といった行動がFMLで報告された。
我が家の場合は、襖をメタメタにされた。かなりきつく叱る(ペチンする)ことで、この悪癖はなおったかのように思えたが、人のいない隙を狙ってコソコソ破るようになった。まあ、一応本人も悪いと思っているようなので、人間側が譲歩して破れにくいビニールコーティングの襖紙に貼り替えた。とりあえず、人間とフェレの襖戦争を終結している。
ナゴヤまで行きました ウランのオーナーである小島氏は、銀座の松坂屋で開催されたフェレットフェスティバルに熱海から参加した。その帰りの新幹線で爆睡してしまい、気付いた時には名古屋だったという事件が発生した。
12匹のベビー達 フェレの平均出産頭数は8頭であるとされる。ここで12匹と書いたのは、1ダースのベビーがウニウニ動いている姿を見てみたいからである。それだけのこと。
Coo 本名「Cookie」。ぷりんちゃん同様に、現在、Andy宅で生活している。♂。Andyさんが引き取るまで、数々のつらい思いをしてきたようだ。病気の治療と体力を取り戻すためのリハビリのおかげて、元気にお散歩できるようになった。
バイト 正式には「FERRETVITE」。8in1社の製品で、こげ茶色で粘度の高いゲル状の栄養強化食品である。歯磨きのチューブのような容器に入っていて、1cm〜2cm程度を絞り出してフェレに舐めさせる。病気や出産などで体力が落ちたときに与えるとよいとされている。しかし、週に1回程度の割合でおやつとして与えているオーナーも多い。
放浪の旅 AndyさんがCooちゃんと出会ったのは、熱帯魚を売るショップの直射日光に照らされる店先だった。狭いケージに閉じ込められたCooちゃんは弱っていた。ついに見かねたAndyさんは、水槽まで準備して心待ちにしていた「ミドリフグ」の購入を断念し、Cooちゃんを引き取ることにした。Cooちゃんが正確には何歳なのか、今までどんな飼われ方をされてきたのか、など未知の事は多い。それがとてもミステリアスで魅力的である。
ウラン乳 FMLでは、フェレとオーナーの名前が一致しやすいように、例えば「佐藤洋一@ミクぱぱ」みたいに、「オーナー名@フェレ名」で名乗ることが定着している。ある日、小島氏は、「小島@ウラン父」とかな漢字変換したかったのだが、「小島@ウラン乳」と変換されてしまった。ちょうど、ウランちゃんの妊娠の話、ウランちゃんのお乳の周りがハゲてしまったこと、などのタイミングが重なり、私は異常にウケてしまった。それだけのこと。
寝言 フェレだって夢を見る。どんな夢かはわからないが、手足をピクピクしたり、鼻をヒクヒクさせたりしている。もちろん寝言も言う。私達の確認した寝言は「クウ」といった可愛い声だった。
フェレの睡眠はとっても深い。熟睡している時は、つついても起きない。不安になって抱き上げても、襟巻きのようにグッタリしている。それで、「おい! 大丈夫か!」と振ると、めんどくさそうに目を開けて呑気に大あくびなんかする。そんな調子なので、本当に具合が悪いときでも発見が遅れてしまいそうで怖い。