「変だと思わないか?」あタロウがふと手をとめて言った。
「なにが?」ミクは鼻の頭についた土を落としながら問い返した。
「もう3日になるのに、モンスターに一匹も出会わない。」
「そうね。なんだか気が抜けちゃうわね。」
「本当にこの森にモンスターなんているんだろうか?」
「なんや! ワイが嘘ゆうた言うんか!」
「いや、そうじゃないけど、森はいつものままだ。」
3匹は鼻をヒクヒクさせて辺りの匂いを嗅いだ。爽やかな森の匂いがするだけだった。
「とにかく穴を掘ろう。眠くなってきた。」
あタロウのその声で、3匹はまた穴を掘り始めた。
マロンは傷の痛みに耐えていた。穴掘りのような重労働は特に傷に響いた。
森に入った最初の夜、あタロウはマロンの穴を代わりに掘ることを申し出た。しかし、マロンは自分の尻は自分で拭くと断った。みんな疲れているのに自分だけ楽をするようなことは、マロンにはできなかった。
「ちくしょう。」マロンは火照った体を冷やそうとキルトの鎧を脱いだ。
その途端、森は邪悪な気配に満ち、どこからか黒い影が猛烈なスピードで走り寄り、マロンを押さえつけた。モンスターのロイスだった。
口からヨダレを垂らしたロイスは、その黄色い牙をマロンに食い込ませようとしていた。
「シャー!」
ミクは悲鳴をあげた。あタロウはロイスの後頭部を噛もうと飛びついたが、ロイスの尻尾の一撃を受けて弾かれた。
「あタロウ!」
「大丈夫。殴られるのは慣れているよ。」
あタロウは再度アタックしたが、結果は同じだった。ミクは足がすくんでしまい、ただ「シャー!シャー!」叫ぶだけだった。
マロンは何とか逃れようと体をウナギのようにくねらすが、ロイスの牙はマロンをがっちりとつかんで離さなかった。
マロンの体の動きが緩やかになり、やがて止まった。ロイスはやっとマロンを口から離した。
「イヤー!!」
ミクが叫んだその時、ロイスの体が大きく宙を舞い、地面に叩きつけられた。ロイスは逃げ去った。
パーカーを着た黄色のクマが、手に持った壷でロイスに一撃を食らわせたのだった。
「なんだ!? あいつは!」
ポカンと口を開けるあタロウの横をミクは走りぬけ、マロンに駆け寄った。
「ミク、危ない!」
我に返ったあタロウは叫んだ。
クマは壷からハチミツをすくうと、マロンの口に塗り付けた。
「なんやこれ。ワテ甘いのよう食べん!」
「よかった。。。よかった。。。マロンのバカ。。。」
ミクは泣きながらマロンを抱き締めた。
「爪、たてんといてくださいな。」
クマの着ていたパーカーのフードがモゾモゾ動き、2匹のフェレが顔を出した。
「危ないところだったね。」ごえもんだった。
「この子の名前はプーさんっていうのよ。」
ピエロはクマの頭をペチペチ叩きながら言った。
「オレ達、ヘレヘスの街で仲良くなったんだ。」
ごえもんはピエロの肩に手を回した。
「そんなことよりも、マロンを医者に診せないと!」
あタロウは叫んだ。
「プーさんに乗りな。オレ達の村へ行こう!」
マロンをフードの中に寝かせ、残りの4匹はプーさんの頭と肩に乗った。
「さあプーさん。出発だ!」
プーさんはクレイシーファージィの村に向かって歩き始めた。
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