2匹は、どちらからともなく湖の向こうの森に目を向け、長い時間黙っていた。
沈黙を破ったのはミクだった。
「どうして旅に出たの?」
「奴らにワイの村をやられたんや。真ん中に指令塔があって、四方にトンネルのある、いい村やった。それを奴らが・・・」
「ごめんなさい。」
「なんで謝るねん? それで、ワイは仕返ししたろ思うたんや。で、ヤツらの後をつけとったら、あそこの森でヤツらに見つかったや。そして、このざまや。」
マロンは腹の包帯をいまいましい目で見た。傷はやっと塞がったが、痛みは相変わらずだった。
「この傷が治ったら、また奴らに仕返しをやるつもりや。」
「どうせ敵わないのよ。」
「なんで、そう決めつけるんや。」
「わかっているじゃない。みんなもそう思ってる。」
マロンは大きくため息をついた。
「この村のフェレは、みんな意気地なしやな。」
「意気地なしじゃないフェレもいるよ」
あタロウがいつの間にか2匹の後ろにいた。
「ただボク達は戦い方を知らないだけなんだ。意気地なしなんかじゃない。」
あタロウの瞳は真剣だった。
「わかった。悪かった。かんにんや。」
「戦い方を教えてくれ。ボクたちにできる戦い方を。」
「あタロウやめて!」
ミクはそう言ったものの、体の底から沸き上がる熱いものを感じて
尻尾が膨らんでいた。
「武器はいらん。ワイらの顎と指先にりっぱな武器がついてるさかいに。」
「マロンもやめて!」
「だから、戦い方を教えてくれって言ってるんだよ。」
「そんなものは気にせんでええ。戦いが始まれば自然と体が跳ねるから、それに身をまかせればええんや。自分の力を信じればええんや。」
「2匹とも勝手にすれば!!」
ミクは、背中を丸めて走り去った。
丘の上まで一気に駆け上がったミクは、初めて自分の尻尾は膨らんだままであることに気がついた。
湖を見下ろすと、大きな夕陽に包まれたマロンとあタロウのシルエットがそこにあった。
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