聞楽繕修(200X)                                                                                                             トップページへ戻る  

余 聞 録      浜 耕

身近に面白い話を聞くことは楽しい 、 忘れる前に収載した。

 

温い(ぬくい)地から寒冷地へ移動の編

 四日極寒三日緩寒の青森の冬、「ある企業の仕事に参加しているのですが、朝礼で、『半袖で作業をしないこと』という、安全日めくり標語を唱和するなんて、強風で地吹雪のため前が見えなく、ヒュウヒュウとうなるこの地で は、半袖になる者などいないでしょう。マンネリなんですよね。ナンセンスな企業とおもいます。」と、仕事で青森県弘前市近郊に行っている〝いわき人〟から電話があった。

「そうだね。その企業は、大企業病に罹患しているということでしょう。」と返事をした。

十日位過ぎて、「驚きました! 地吹雪の中で、〝半袖〟で、腕を寒風に晒して出勤する人がいました。流石に〝青森人〟は、凄いとおもいました。」と電話で興奮の報告があった。

「恐山に近いから、人種が違うと思うほかないね。寒気の方で恐れているのかも。ですよね。」と答えた。遠く青い州の便りを聞いて、此方側も恐れ入る話であった。


温い(ぬくい)地から亜熱帯へ移動の編

冬の沖縄に、スキンダイビングに行った〝いわき人〟が、暑かったので、「こんなに、暑いのでは、〝フリース〟は、いらなかったね。」と沖縄人のダイバーに言うと、「〝フリース〟って、なんですか?」と真面目になって聞き返され、〝フリース〟の存在を知らないことに戸惑ったという。
 しかし、「〝ロングブーツ〟を履きたくて、大阪に引っ越した。」という沖縄人が居たという話題に発展したそうである。
 「福島県の二人の若衆が、冬に、一人は、Tシャツの姿、もう一方の一人は、皮ジャンバーを着て、ハワイに向けて成田を出発した そうです。」という話を聞いた。
 日本の冬に、〝Tシャツ姿〟で、ハワイに向けて成田を出発した人。
 日本の冬に、〝皮ジャンバーを着て〟、ハワイに向けて成田を出発した人。
 この両人、旅行者としては、〝皮ジャンバーを着て〟、ハワイに向けて成田を出発した人に軍配をあげる。
 ハワイに永住のつもりの出発ならば、〝Tシャツ姿〟で、OK! 永住を断念した場合には、日本の夏に帰国したほうが良い。ですよね。


マゾな佐渡の人の編

「日本海の佐渡人だからか、〝いわき人〟は、スキーができないと思っているの.か、『おれのスキーの腕前は、〝トニーザイラー級〟だ。』と豪語している人が、今度、いっしょに行って、スキーを教えてくれるそうです。」と話があった。
   幾度か、その類のスキー天狗と同行し、なんのことなく、帰り道には、言葉少なく、静かに分かれたスキーヤーは多い。
 しかし、〝佐渡の浜ちゃん〟とは、三度ほどスキーを同行をした。
一度目、二度目、三度目とゲレンデで出会い、衝撃的な場面を目の当りにし、比類のないスキーヤーであることを知った。
 栗子国際スキー場の平均斜度三十三度の斜面をいっきに、裾まで転がるのだ。
 一般のスキーヤーは、速さはそれぞれだが、斜面の雪面を右に左にと曲線を描いて滑降する。
 蔵王の横倉のかべで、滑降に失敗し、途中から空を見て、雪面を背中で滑落するスキーヤーをみることがある、これは同情に値する。
 栗子国際スキー場の平均斜度三十三度斜面での〝佐渡の浜ちゃん〟は、滑り出すとまもなく、転倒、スキーの板がはずれ、雪面と空中を交互に見るように、体を縦に横にと回転させて、転がり降り、斜面の裾で停まる。
 主のないスキーの板だけが、無人で斜面を滑降する。
 何度も何度も、めげずに、挑戦する。素晴らしいファイトである。
ある時、〝佐渡の浜ちゃん〟が、なかなか転がってこない、リフトに乗り、頂上に向かっていて、斜面を見おろすと、転倒した後の〝佐渡の浜ちゃん〟が、運良く、スタートの頂上付近で、うまい具合に停まったのか、はずれたスキーの板を装着している姿を見た。
 そこは、斜面の幅の中央部、他のスキーヤーが必ず通過するど真ん中である。
 何度も何度も、ビンディングにブーツを装着しようとするが納まらない。
 スキーの板が、雪面と平行になって、ブーツがビンディングには納まらない状況で、相当なガニマタでなければ、ブーツはビンディングに納まらない。
 アイスバーン傾向の雪面なので、上手くいかないのかなと思い、「大丈夫?」と声をかけると「大丈夫!」というプライド力の強い声が返ってくる。
 斜面の幅の中央部で転倒したなら、他のスキーヤーの滑走の支障にならない、斜面の端に避難してからスキーを装着するのが一般のスキーヤーだ。
 スキーヤーが滑走して、通過するど真ん中、それもアイスバーンの状況の場で、はずれたスキーの板を装着する人は稀である。
 そのうち、アイスバーンの中から雪を手で集め始めた、そして、な、なんと、スキーの滑走面と雪面の間に、雪を詰め始め、スキーの板を地球の中心に対して直角になるようにした。
 それから、ビンディングにブーツを装着しようとするが、雪がつぶれたか、雪が逃げるので、スキーの板は、再び雪面と平行になり、脚の方向にそっぽを向いて、ブーツはビンディングに納まらない。
 雪を手でかき集め、スキーの滑走面と雪面の間に、雪を詰め、スキーの板を水平にする、
ビンディングにブーツを装着しようとする、雪がつぶれるか、雪が逃げ、スキーの板は、斜めになり、脚の方向と角度がつき、ブーツがビンディングにハマらない。
 何度も何度も繰り返す。
ハマらない。諦めない。
 こんなスキーヤーは、かつて出会ったことがない。
 〝佐渡の浜ちゃん〟は、比類のない異人である。
 

普通人がスキーでこれほど転倒し、転がり続ければ、翌朝には、体にあざができるとか、痛いとか、何か後遺症があるはずだが、物理的にも精神的にも。
 しかし、屁の河童の様子、年齢を加味して超人的耐久性には驚きである。
 河童ならず雪童(セッパ)か、まさしく比類のない異人である。

この話は聞いたものでなく、実際に見た光景である。

 

追録

このスキー行は、いわき市から早朝出発のために、横浜市から参加のスキィヤーは、客人として、〝佐渡の浜ちゃん〟の小名浜賃貸宿舎に客人で宿泊の提供を受けた。

風呂の際に、石鹸が見当たらなくて,洗い場にプラスチックボトルがあった。

〝トニックシャンプー〟があったので,それで体を洗いだした。

それを使用するとスウスウとさわやかな感じがした。

小名浜の人は,石鹸の代用に〝トニックシャンプー〟で、スウスウとボディシャンプーするものかとおもいつつ使用したという。

しかし、やがて、スウスウからスースーとなって肌寒くなり、あわてて、洗い落として浴槽に入ったという。

浴槽に入っても、温まることがないので、目に入った〝バスクリン〟を入れたが、体がスースーして冷える感じがするので、〝バスクリン〟をどんどん追加し、浴槽の湯は、濃い緑になっていた。

それでも体が温まららないので諦めて風呂を終え、即ちに布団に入ったが、体がスースーし、寒くて寒くて、朝まで寝られなかったという。

その後、〝佐渡の浜ちゃん〟が、入浴しようとして浴槽の色を見てびっくり。

横浜の客人に、大切な〝抹茶〟を風呂に使われたと早合点し、「〝抹茶〟を風呂へ入れたのか?」と言われ、客の横浜の人は、呆然としたそうである。

「どうりで! あたたまららかったのは、それでか!」と横浜の人はおもった。

〝抹茶〟は、飲むもので、〝抹茶〟の風呂には石川五右衛門でも入浴したという話は聞いていない。

「〝抹茶〟を浴室におくなんて、考えてもいなかった!」と言った横浜の人。

〝抹茶〟の缶が、空っぽになってしまったと思い違いの〝佐渡の浜ちゃん〟。

「あの〝抹茶〟は高いんだぞ!、分かりそうなもんだ!」と、外国の歌(のばら等)を原語でも歌う〝佐渡の浜ちゃん〟は怒った。

〝抹茶〟のラベルは、日本語で書いてあるだろうが、入浴剤がメイドインニューヨークか、トニックシャンプーがメイドインジャパンかメイドインアメリカか、メイドインフランスか、メイドインドイツだったかは知らない。

一宿一飯の恩義とはよくいうが、横浜の人は、小名浜にいる〝佐渡の浜ちゃん〟にはかなわない。

〝佐渡の浜ちゃん〟は、「佐渡を独立させる」と言ってはばからず、〝佐渡独立国家〟が生涯の目標ということも聞いた。

初代大統領は〝佐渡の浜ちゃん〟しかいない。

太刀打ちできる候補を探すことは困難である。

 

〝佐渡の浜ちゃん〟は、比類のない異人である。 

 

この話は、見たものでなく、ホテルでの夕食時にそばにいて、当事者から実際に聞いたものである。

 

酒風呂は体に良いというので、ビール風呂として試しに入浴したことがあるが、寒くなってしまった体験があるので、横浜人の寒さを観じたことは、いくらかを理解ができる。

ビール風呂は、体の汚れが良く落ちて洗剤無用のような気がしたが、トニックシャンプーを石鹸代りボディシャンプーには向かないようである。

しかし、いずれも冬季にトライすることは避けるべきである。

抹茶を風呂に使うなどは勿体ないので絶対におすすめは出来ません。(人畜無害とは思うが)

トニックシャンプーはヘアに、ビールは口から飲んで咽喉から胃へと平常な用途にすべきである。

 

巻尾

ところかわれば。

挿話聞録  2003年10月22日

 記    浜   耕

発行  百 囀 舎

浜耕(はまこう):自称、分楽者。

関心、疑問、探求。砂浜は、掘っても、穿っても、何も実らない。にもかかわらず、分けては楽しんで、分かった事で楽しみ、分からなかった事が分かるまでも楽しみ。


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