王子様を探せ!
!Look!!Royal prince!!!

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「結果を知ると、ちょっとがっかりなんだけどさ」

と、ファーダは俺たちに、何枚かの写真を見せた。ここはファーダとランディのアルバイト先である教会の一室。

「事を起こしたのは、国王の親衛隊。傭兵上がりが多いから、みんなの顔見知りもいるかもね」

俺の知ってる顔は居なかったけど、アーサーとヤーブはうなずきながら写真を見ている。

「ポイントY(屋上)に来たのは、全員が射殺されてる。Rの・・・ランディとコージが片付けたほう、こっちは15人中3人が生きたままつかまったけど、そう簡単に口を割るとは思えないな」

ファーダはそう言いながら書類をめくる。

「それから、俺たちが追いかけたほうは半分くらい逃げられちまったよ。顔見られてるし、報復があるかも」

「こいつら、右よりだからな。ま、親衛隊するくらいだから当然だろうけど」

と、ヤーブ。彼は写真をテーブルに投げた。

「顔見られてるのは、今に始まったことじゃないよ。俺たちってばほぼ毎回、事件現場に居るもん。王制をつぶそうとする政府の犬・・・くらいに見られてるんじゃないかなあ?」

「誤解で命狙われるのは嫌だよな。俺はポリシーないしさ」

と、アーサー。

「どっちにしろ、王子様は無事だったんだろ?」

「無事は無事だったんだけどさ。。。軍の一部、200人ほどなんだけど、アルベルト王子を守らなかったんだ」

ファーダは、そう言って俺たちをくるりと見回した。

「王制廃止についてどの程度国民の指示が得られるものなのか、様子を見ていたんだと思う」

そして新聞を指差す。一面には、世論調査の結果が載っている。

「・・・王制廃止を唱えたアルベルト王子を支持するものが5割。現国王以外の王による王制存続を希望するものが2割。現国王を支持するのが2割・・・。その他1割だけど、王制支持が予想以上に多い」

「現国王の支持も、2割か。けっこういるな」

と、ランディ。

「今後の情勢によっては、巻き返しがあるかもしれないってことだよな・・・」

その危険はありそうだった。昨日の狙撃事件以降、首都には戒厳令がでていて、俺たちも教会に缶詰になっている。

「そうだよな。いきなり現れたアルベルト王子が、王宮内や一族全てを掌握してるとは思えないもんなあ」

と、ヤーブが肩をすくめる。

「でもあのヨハンが、負ける賭けをするとは思えないんだよな」

と、ファーダは溜息をついた。

「確かに、王制をつぶすことが彼の目的の一つであることは間違いないだろうな。でも、あのヨハンがこの支持率を予想してないわけがないと思うんだ。なんだかんだ言ったって、軍にも政府にも協力者がいる、正真正銘の王子様だし・・・
俺たちより、事態は正確に把握してるだろうし。もしかしたら、王制廃止以外の目的があるのかもしれない」

「うーん・・・」

ファーダの言葉に、俺は一応考えてみた。

ヨハンとの付き合いは長い。でも、素性にかかわるようなプライベートは話したことが無かった。

「王制廃止以外の目的ったらもう、現国王の暗殺くらいしか考えられないよ」

と、俺は言ってみた。ランディが、そうだろうな、と呟く。

「単純明快に、案外、そうなのかもしれないぜ。あいつ、けっこう執念深いから」

と、アーサーも頷く。ま、一度でもヨハンと仕事したヤツは、誰だってそう思うだろう。

「といっても、この状況で暗殺することが、いいことだとは思えないな」

ファーダはそう言って、俺たちの噂話レベルの憶測を締めくくり、新聞を畳み始めた。

「ヨハンの目的が何にしろ、俺たちはもう、打つ手ナシ。この事件にかかわる取っ付きみたいなのが、もう一つも無いぜ」

そして彼は、新聞をテーブルの上に置いた。

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確かに打つ手もなけりゃ、やることも無い。が、俺たちには、報復される可能性が残っている。親衛隊相手に爆竹投げちゃったもんな。

そういうわけで、夜、俺とファーダは見張り当番で起きていた。他の奴らは、床でごろごろ、仮眠中。

薄明かりの中、テレビがくだらない大人の番組を流している。日付はもう変わっていた。

「コージって、留学生だろう? こっちきて、こんな仕事していいのか?立ち入ったこと、聞くようだけど」

と、ファーダが唐突に話し掛けてきた。俺は、気にしないよと言う代わりに、肩をすくめて質問に答えた。

「・・・俺が留学生なのは、親が生きてるから。俺って、兄貴二人、姉貴一人の末っ子でさ。一番上のヤツとは、25も離れてる。母親が、50のときの子供。その母親も去年死んで、父親は今年で78・・・くらいかな」

「・・・」

「年齢差以外は、きわめて普通の家庭だけど、人の噂になるのを嫌って、親は俺を、5歳のときから海外に送り出してさ。・・・オヤジが死んだら、留学生やめて、永住資格取ろうかと思ってる。・・・傭兵になったのは、こっちで俺を引き受けてくれた従姉が、傭兵だったから。地図読みの才能を伸ばしてくれた」

「俺は、金を稼ぐためにこの世界に入ったよ。至極まっとうな理由だろ」

俺の話を聞いた後、ファーダはそう言って笑った。

「俺の父親は傭兵だった。っても、俺が生まれる前にどこかの戦場で死んで、ショックを受けた母親は、俺を生んですぐに死んだ。二人とも、戦災孤児でさ。二人が育った施設で、俺も育った。この国の、典型的悪循環」

今度は俺が、無言でいる番だった。

「でもまあ、親の名前を知ってて、しかも写真を持ってるってのは、かなり恵まれてるほうだな」

と、ファーダはまた笑った。

「辛気臭い話だ」

「辛気臭くはないよ」

俺はそう答え、椅子の背から体を起こした。そして、ファーダの顔をちらっとうかがった。ファーダは、ぼんやりとテレビを眺めている。

「俺さ、ヨハンの過去の話は、聞いたことが無かった。聞かないことや知らないことは、本当に、親切だったのかな? 適度な距離を保つのが、大人の付き合い方だと思ってた。深入りしないのがルールだと思ってた。でも、本当にそれで良かったのかな・・・」

「そりゃ、それで良かったんだと思うよ。だから、5年もコンビ組めたんだろ?」

答えて、ファーダは片目をつぶった。

「話してたら、こんな事件が起きなかったかというと…そうでもないと思うよ。誰だって、自分の何かにケリつけなきゃならない時って、来るだろうからさ。ヨハンだけじゃなく、俺にも、コージにも…
だから、それはそれ。良かったんじゃないかな」

「…うん。そうだよな。そう思うしか、ないもんな・・・」

「そんなにクヨクヨしなさんな。確かに手詰まりだけどさ、王子様を納得いく結果がでるまで守ってこそ、依頼完遂ってもんだ。きっとうまくいく。神様のご加護があるよ」

神様のご加護かご意向かは、分からない。でも、ファーダがそう言ったその時、俺の携帯電話が鳴った。

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表示されてる名前は、シータだった。

「もしもし?」

『コージ、大変!例のあの宝石!』

やっぱりシータの声だったけど、ひどく興奮している。

「どうしたんだよ、宝石って、この前盗り損ねた。。。」

俺の会話に、床に転がってたやつらが一斉に起き上がった。

『そう、あれと、もっと沢山よ。コージ、今どこにいるの?』

「どこって、アジトで仮眠中だよ」

『何やってるの!検査にひっかかった航空貨物の中から、見つかったのよ。宝石、金塊、現金、美術品!全部で一兆シバルは軽く超えてるわ。国王は、国宝も何も全部持って亡命する気だったのよ。もう、ブンヤ連中がかぎつけて、集まっている』

「シータ、今どこにいるんだよ?」

『現場の近くなの。この前の宝石のことで、ちょっと情報があったものだから、来ていたんだけど。国王と親衛隊も、空港にいるのよ。国王だけなんだけど。私たち、もう撤退するわ。かなりヤバイ状況だと思う。コージ、ヨハンはどうしたのよ?』

「別行動だよ」

『馬鹿!なんとかしなさいよ!それから、城も火事よ!』

「それを最初に言えっ!」

シータの電話の向こうで、銃声が聞こえる。シータは、じゃっ、と短く言って切ってしまう。

「城が火事だ。国王が一人で、親衛隊と一緒に空港に来たらしい」

俺たちの眠気は、吹っ飛んでいた。 みんな、手に大荷物を持って外に出て、アーサーの車に乗り込む。

エンジンがかかると同時に、軍事無線が何か喚き始めた。

「宝石やらなにやら1兆シバル以上のものが、航空貨物から出てきたって」

俺の言葉に、ヤーブが溜息をつく。「王制、終わったな・・・」

車が、猛スピードで走り始めた。

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「コージ、電話の相手をシータって呼んでたけど、あれ、シェルターのシータ?」

と、アーサーが聞いてくる。

「そうだよ。アーサーは一緒に仕事したこと・・・あるって聞いたけど」

「うん。シェルターの奴らのことは、よく現場に送り迎えするよ。シータも見知ってるけど、彼女、コージのオトモダチだったのか」

「・・・かなり、一方的なオトモダチだけどな」

「ああ、わかるわかる、その感じ。コージって、遊ばれるタイプだもんな」

「おい、アーサー。そんなはっきり言って、地図読みを落ち込ますなよ(^^;;;大仕事前だぜ」

と、後ろからランディが声をかけてくる。

「ランディ、あんまりフォローになってない」

と、ファーダ。まったく、こいつらはっ!

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15分後、俺たちはブレストンたち情報部の面々に紛れて空港にいた。

「離陸を要求して、立てこもってる。国王一人と、親衛隊他、20人程度」

と、ブレストン。王室専用機がライトアップされている。滑走路は、車やなにかで塞がれている為、立ち往生してるらしい。

「で、俺らに出来ること、ないか?それと、ヨ…アルベルト王子は?」

と、俺。

「殿下は、火事のどさくさで、まだ行方不明。お父上の代からの部下っていう、目つきの悪い側近が侍ってたから、無事だと思うけどね。もしかしたら、意図的に隠れてるのかもしれないし」

と、ブレストンが溜息をつく。

「それで、だ。コージ達にやってもらいたいのは、飛行機の急襲」

ええっ?

俺たちは全員、ブレストンを見つめ返した。

「何だって?」

「急襲。できれば国王陛下は、生け捕りで頼む」

「そんなの、軍の仕事だろっ!」

「…今日の軍のテイタラク、知ってるだろ。アルベルト王子を支持しきれない…現王制支持者が、軍にはけっこういる。王族出身者が多いからね。だから、軍上層は、今夜の件に部隊を出さないことにした。陛下が逃げる以上、支持者は減るだろうけど、軍として、余計なことはしないほうが、今後のためだ」

「…」

「だけど、我々情報部他、多くは亡命を許すわけにはいかないと思っている。しかも陛下一人…。この事態で、家族を残し、一人で。状況によっては、王子が望む、現体制崩壊のきっかけになる。行って来てくれないか?」

「情報部は、どっちを望んでるのさ?」

「やりやすいほう」

俺たちは、顔を見合わせた。それは多分、体制崩壊を望んでいると言う事だろう。

「正式な依頼なら、料金とるぜ」

と、ファーダ。

「…アルベルト王子の過去しか、支払えない」

そう答えたブレストンとファーダは、しばらく見詰め合っていた。

「信用するしかなさそうだな。方法は?」

「うまくいけば、どうでも」

ブレストンは、そう言いながら、俺に王室専用機の見取り図を渡した。


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