王子様を探せ!
!Look!!Royal prince!!!

<11>

装甲車のタイヤって、意外なことに良くはずむんだ。

ドスンッと重い音を立てて、二回ほどはずむとコロコロっと廊下を転がっていく。

警備兵の一団に装甲車をぶちかました俺たちは、ひたすら走って逃げたあと、物陰に身を潜めていた。

「みんな、血が出てるよ♪」

「嬉しそうに言うなって…」

ヤーブの言葉に、アーサーが呆れる。

「で、どっち行くんだ?」

と、ファーダ。

「奥の居住区域で陛下と謁見するのと、玉座に座りに行くのとでは、ルート違うけど?」

と、俺。

「とりあえずは陛下に謁見、でいいんだろ?」

「ああ。王子様をそこまで連れてかないと、終わらないだろうから…」

「ちょっと、基本的なことを聞いてもいいか?」

ランディが、ファーダの言葉を遮る。

「何?」

「今、ふうっと疑問に思ったんだけどよ。なんで俺たち、いちいちこうして乗り込んで来たわけ? よーく考えて見りゃ、王室事務局に出頭するとか、軍部に保護を求めるとか、安全で確実な方法が他にいっぱいあったと思うんだよね」

ランディとファーダは顔を見合わせた。

「…君の言う事はもっともだ、ランディ。しかし、利己主義的かつ権力崇拝に明け暮れる堕落しきった王に、そんな正攻法が通じると思うかい? 事務局にも軍部にも、王家の息のかかった者が沢山居るだろう。そんな所に次期国王陛下を預けてはい終わり、なんて無責任なことは、僕には出来ないんだよ」

「それ、今考えた理由だろ」

「……せっかく作ったチームなんだから、試してみたいじゃないかよ☆」

「理由はそれかい。俺はまた、泣き寝入りは嫌だって言うと思った」

ランディは、やれやれと言いたげな顔をして、サスペンダーから手榴弾を一個外した。

「痛いので一発、いってみようか」

「…痛いのしか、ぶら下がってないようだが?」

ヨハンが、冷めた口調で突っ込みを入れる。

「…俺の趣味なのよ」

「えっ? 痛いのが趣味?」

と、ヤーブ。

「催涙弾が好きなんだよっ! てめーはどういう精神構造してやがる…」

「いたぞっ!」

照明が、ぱあっと光る。

「うわ、やべっ!」

地響きがして、アーサーの撃った砲が天井のシャンデリアを揺らし、ランディの催涙弾が炸裂する。

「ほら、いいチームじゃん♪」

俺の隣りを走るファーダが、そう言ってくすくす笑った。

その意見には賛成するけど、こんな、ギャグみたいな逃走劇は、こっちだって初めてだ。

「ヤーブ、ブレストンに連絡してあるんだろうな?!」

「したよ! 間に合うかどうかはわからないって言ってたけど!」

「嘘だろっ?! 間に合ってくれないと、すごく困るっ…」

と、俺たちの前に壁が、立ちはだかる。

「コージ、行き止まりだぞっ!」

「こういうの、好きかなと思って」

俺は、ファーダとヤーブを引っ張って、ランディとヨハン、アーサーを壁と自分たちの間に挟むような位置に立った。

「この壁は、知られてないけどすごく薄いんだ。20年前の改築で、応急処置的に作られた仕切りでさ。中は、レンガ一重だよ」

と、俺は振り返らないでランディに言った。

「2個か3個で、吹っ飛ぶと思う」

「確かにこういうの好きだけど、コージ、冗談きついぞ☆」

ランディとアーサーが、同じような事を呟きながら、チキチキと音を立てる。

衛兵たちが追いついてきて、俺たちから10メートルほど離れた地点で止まり、銃を向ける。

「銃を捨てて、投降せよ」

「…」

「抵抗すれば撃つ。大人しく投降せよ」

「4、3」

ヨハンが、カウントする。

「銃を捨て…」

俺たちは、左右に分かれて横に飛びのいた。ドウッと凄い音がして、壁が吹き飛び埃が舞う。

ヨハンのM16が軽快に乱射されて、不意を突かれた兵士たちがバタバタっと倒れていく。

「行くぞっ!」

俺たちは、反復横飛びのように、避けたところまで一歩で戻り、大きく開いた穴の中に跳び込んだ。

そこは、一般人立ち入り禁止の、神聖な王族居住区域の端っこだった。

兵士たちが、何か叫んでいる。ここから先は、親衛隊と呼ばれる奴等しか入れない。こんな一大事でも、だ。

俺たちは走る速度を落とし、そして立ち止まった。

「広いぜ。目的地まで、歩いて10分走って5分」

と、俺。

「抜け道は、いくらでもあったよ。昔はね。今も残っているとは思わないが」

ヨハンはそう言ってあたりを見回す。

「ふうん…意外と、懐かしいとは思わないものだな」

「そんなモノかあ?」

と、アーサーが呆れる。

「…どっちかっていうと、コージのボロアパートに泊った時のが、懐かしい感じがするんだが」

「ボロで悪かったなあ(^^;;;)学生が住むには高級なんだぞ、あれでも」

俺たちは、国王陛下にお会いするため、廊下を突き抜け書斎のほうへと向かっていった。

何かあると、御一家はそこへ避難する。

遠くで少し、騒がしい。親衛隊が動き出したようだ。

「どうするよ、ファーダ。親衛隊、まとめて相手しちゃう?」

と、ランディ。

「面倒なのは、嫌だな。それに、余分な弾あったっけ?」

「そういや、無かったな」

ランディは、そう答えて新しいマガジンを取り出した。

「俺、一発必中って苦手」

メインの、近衛兵たちがやってくる。さながら、マンガに出てきそうな甲殻奇兵ってところ。格好はいいけど、実用性には問題ありそうな感じの兵士が、沸いて出てくる。

「あれ、意外とよく出来てるんだぜ」

と、アーサーが反撃しながら言う。

「盾になるよう、徹したデザインだからね。護衛には向くけど、白兵戦にはどうだろう」

「どっちにも向いてるとは思わないね。俺たちみたいな、白兵戦専門歩兵集団の敵じゃないよ、あんなの」

ファーダが、頼もしい事を言って手榴弾を投げる。

どううっ、と音がして、爆発したところに一番近かった3人ほどが吹き飛んだけど、残りはそのままだった。煙りが薄くなっていく中、装甲奇兵たちの姿がゆらりと浮かぶ。

これこそ、アニメか近未来戦争SF映画の一シーンって感じ。

「機動力は低いみたいだけど、丈夫なんだなあ…」

それが、ファーダの感想だった。

「どうする? ゴールは近いから、一気に行っちゃう?」

と、俺。

「こっちの機動力、試してみようか」

ファーダは、そう言いながら機関銃のスリングを肩から外して手首に巻いた。

「ランディとコージで先頭行きな。アーサーはヤーブと一緒に後方。ヨハン、ぎりぎりまで撃ちまくれ」

「了解」

俺たちは、腰を屈めた格好で、一斉に飛び出した。

ランディが、機関銃を盾にして前列の装甲兵たちに突っ込む。さすが、俺たちみたいな集団が捨て身で突っ込んでいく事を考慮された仕様ではないらしい。ボーリングのピンのように、転がったら起きれない。

ヨハンのマグナムが、装甲の一番薄いゴーグルを、至近距離からぶち抜いていくだけでも相手を混乱させるには充分だった。

4重ほどになった装甲兵を突破すると、ドオンとすごい音がして、背中が爆風で押された。

その勢いで俺は、最終目的地・書斎に突っ込んだのだった。

<12>

正面には、テレビでお馴染みの、国王陛下と王妃がいた。けっこう冷静で、黒サングラスに黒スーツという格好のSP10人に囲まれている。

パレードやら何やらを見に行くほど酔狂じゃないんで、テレビでしか見たこと無い二人だったけど、うーん。この二人、どっちかっていうと、テレビ映りが良いようだ。

「ども、陛下」

俺は、敬礼した。その頃には全員が揃って、後ろの扉が閉められる。

「これというのも、軍部の依頼なんだ。承知してると思うけど」

と、俺はいつもの調子で来た理由を説明した…説明にはなってないけど。

「何のことか、わからないな。テロリスト君。こんなことして、タダで済むと思うかね?」

「タダで済まないのは、お互い様ってカンジかな。…なあ、ヨハン」

返事の代わりにあがったのは、声じゃなくて銃声だった。

SPたちが倒れて、彼らが慌てて撃った弾が天井に何発か当る。全員があっという間に倒れて…多分、ヨハンとアーサーの共同作業だ。

ようやく王妃が、小さいながらも悲鳴を上げた。

「どうもお久しぶり、叔父上」

前に進み出たヨハンは、歩きながらゴーグルとマスクを外して床に捨て、俺たちと国王のちょうど真ん中で立ち止まった。

「お前…アルベルト… まさか、こんな…」

「意外なことはないと思いますよ。血縁や遺伝をとやかく言うのは好きじゃないけど、それでも、わたしが一番、初代国王陛下に似ているそうですから」

初代国王…(^^;) もともと高貴な御身分だったとはいえ、第3次大戦に一兵士として参加して生き抜いて、ついには国を興した、冗談も誇張も抜きの最強戦士だ。

「誰が、お前をそんなふうに育てた?! 一体、いつのまにこんな…」

「誰が、なんて…」

ヨハンは、低く笑った。予想通りというか、意外というか、そんな微妙な展開に、俺たちは凍り付いていた。

俺たちの後ろの扉が、いきなりノックされ、俺たちはギョッとして振り返った。ヨハンは振り返らずに、肩を竦める。

「開けて平気だよ。反国王派の到着だ」

ヤーブが、用心深く扉を開ける。

用心深く入ってきたのは、俺らも知っている軍部の偉いのと、戦闘服を着た一群だった。

国王の顔が歪む。このリアクション、来てくれたのは、本当に陛下の味方ではなかったらしい。

「内部に、こんなに味方が居たのか?」

と、ファーダが呆れる。

「申し訳なかったとは思うよ。でも、内部の味方より、自分の選択眼を信じたのさ」

ヨハンはそう言って横にずれた。

「残念ですが、陛下、逮捕します」

彼らは前に進み、国王夫妻に丁重に礼をした。

「アルベルト殿下が城で暴れた事よりも、陛下が民間人を巻込んだ騒動を起こした事のほうが、重大な問題として受け止められるべきでしょう」

「そんな馬鹿な!」

と、妃殿下が金切り声をあげる。うん、気持ちは分かるよ☆これだけ城の中荒らしまわって、お咎め無しっていうのは、やった俺たちだってびっくりだもの。

でも、彼らは容赦なく、国王を取り囲む。

人が堕落する瞬間。

見ていて、あまり気分の良いものじゃない。部屋から連れ出されようとした二人に、ヨハンが声をかける。

「叔父上」

部屋が、しーんと凍り付く。陛下は、険しい顔で振り返った。

「…殺しておけば良かったんですよ。あの時に、私の事を」

「私が、国民に支持されて王になるには、お前を生かしておく必要があった。生かしておいたのは、王になった私の、お前に対する情けだ」

「そんなこと言ってるから、追い落とされるんですよ。生きたいと思ったら、親も兄弟も見捨てなきゃ」

「親…?」

ギョッとしたのは、陛下だけじゃない。部屋に居る全員が、息を呑んだ。

「あの墜落事故で、生存者が私一人だけなんて、不自然だと思わなかったんですか?」

「何…」

「実際の生存者は、私も含めて26人いるんですよ。45人乗っていて、26も人助かった。私と、護衛兵士全員が助かったんです。その数が26」

「…」

「そうまでして建国の理念を取り戻そうとする過激な兵士たちの考えに、今は私も、染まってしまった。つまり、叔父上が王になれたのは、生き残った私の情けですよ」

「…アルベルト…」

だけど回りは、国王にそれ以上喋らせなかった。二人は連れて行かれてしまう。

「じゃ、お役目ご苦労様。あとは軍から、連絡があると思うよ」

そしてヨハンもそう言って、あっさりと部屋から出ていってしまう。

「これ、俺たちってどういう役回りなんだよ?道化じゃないとは思うけど」

ファーダが、困惑したように呟いた。


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