王子様を探せ!
!Look!!Royal prince!!!

<3>

「ここは…」

俺は、着いた場所を見まわした。郊外にある、児童保護施設だ。敵をまくため、用心深くあちこち走ってきたから、着いた時にはどっぷりと日が暮れていた。かなり寒い。

「ここは一体…?」

と、ヨハンも呟く。

「ここは、セント・ダクラン教会併設の児童保護施設だよ。あっちが教会。地下に、ダール国王家の納骨堂があることで、有名なところさ」

そう言いながら現われたのは、まだ若い、妙に綺麗な男だった。ふわふわの金髪を三つ編みにして、黒の修道服を着ている。

「遅かったね。記念公園で銃撃戦があったってニュースが流れていたけど、やっぱりヤーブたちが巻き込まれてたのか」

「コージとヨハンが連れてきた客だよ、あれは」

と、ヤーブは肩を竦める。

「コージ、ヨハン。彼が、今回のチーム編成者で指揮官のファーダだ」

ヤーブは、そう言った。俺は呆気に取られたよ。フリーで凄腕の指揮官。作戦成功率99.9%。 この男と一緒の作戦なら、絶対生きて帰れるという噂の主。

それが、こんな華奢で綺麗な、お耽美を『地』で行くような男だなんて!

「はじめまして… コージ。それからヨハン。二人とも噂はよく聞いてるよ。まあ、中に入るといいよ。自己紹介は、それからにしよう」

彼は、暖かな灯りのともる建物の中に、俺達を手招きした。

呆れついでに、出された夕飯はカレーだった。すごくいい匂いがして、食欲をそそる。

「これなら子供たちでも作れるからね。ルーが輸入物で高かったんだけど、ヤーブからの寄付金があったもんだから。」

と、ファーダは縁の欠けたコップに水を注いで俺達にくれる。テーブルについてるのは、俺を含めて六人。ファーダ以外は、知っている顔だった。

「ここなら、裏の教会に衛兵が大勢いるし、勝手が分かっているから安全だよ。子供たちのほうは、カレーのおかげでいい子にしてるし」

ファーダは、拍子抜けするくらい人の良さそうな笑顔で話すんだぜ。本当にこれが、凄腕の指揮官なのか? しかも、通称がファーダ、神父さんときたもんだ。

「じゃあ食いながら、自己紹介と行こうぜ。名前は知ってても会うのは初めてって顔もあることだし」

と、ヤーブ。

「ヤーブから始めろよ。今回の言い出しっぺなんだから」

と、ファーダ。ヤーブは大人しくそれに従った。

「今回のメンバーは、俺は全員知っているんだけどね、まあ、参考までに」

彼は、もったいをつけて咳払いする。

「俺はヤーブ。医者。衛生担当。今回の仕事を持ち込んだ当人。それについては、後で詳しく説明するよ。次は」

と、ヤーブが隣りの俺を見る。俺は、肩を竦めた。

「俺はコージ・イツキ。地図読み担当。人探しは専門じゃないけど、今回は、面白そうなんで引き受けた。初対面なのは、ファーダだけだな。よろしく」

すると、ファーダは不思議そうに首を傾げた。

「地図読みのコージって… 世界中、知らない道はないって噂を聞いたことある。君が居れば絶対に迷わない、確実に行って、確実に帰れるって… だから、同い年か年上かと思っていたけど…」

彼は、少し躊躇する。

「…立ち入ったことを聞くけど、コージは幾つなんだ?」

「十七、だけど?」

「十七だぁ? 俺より三つも年下じゃないか! しかも未成年!」

ファーダは向かい側から手を伸ばすと、俺の襟首をひっつかんだ。

「懺悔しなさいっ!」

「おっ、俺は仏教徒だっっ! 異教徒迫害反…」

「神への懺悔に宗派はないっ! 未成年者が銃を持つとは言語道断!」

「うげげげ…」

「こらこら、ファーダ。説教なら、教会でやれって言ってるのに…」

と、ファーダの隣りの男がなだめる。こいつは、トラッパー(罠担当)のランディだ。

「こいつ、倫理とか道徳に関しては、やってることと言ってることが違うんだ。了解しておいてくれ」

ランディは苦笑いし、ファーダはまだ不満そうだったが手を放してくれた。なんか、おもしろい奴。見た目と噂と行動が、全然違う。

「ついでだから、ヨハンとアーサーをちょっと飛ばして、俺が自己紹介するな。俺は、ランディ・ドイル。罠とか、セキュリティ関係を担当する。ファーダとは幼なじみだ。俺も、ここにいる奴は全員知ってるよ。ヨハンとも、一回だけ仕事したことあるし」

「ああ、あの時はおかげで助かった」

と、ヨハン。へえ、知り合いだったのか。

ランディは、薄茶の髪を後ろでひとつにまとめていた。俺も何回か一緒に仕事したけど、あっけらかんとしてていい奴。豪胆で豪快でね。今日も、この寒いのに半袖のTシャツ姿だったもん。まあ、袖から覗く腕が筋肉もりもりで、逞しいけどね。

「じゃあ、俺も先に名乗るよ」

と、ファーダ。

「俺は、指揮及び重火器担当のファーダ・アトスン。『ファーダ』はもちろん、通称。本名は、内緒だ。コージとヨハンとは、初顔合わせだな。ひとつ、よろしく頼むよ」

彼は再び、にこにこと微笑む。

「じゃあ、次はヨハンだな」

「…わたしは、ヨハン・フォンベルガーだ。狙撃担当。今回の仕事の件は、少しだけジェシーに聞いている」

やっぱりこいつ、何か知ってるんだ☆ でもここでは、俺は追求しなかった。

で、ジェシーのことは、皆が知っている。顔が広いから、仕事があると、それに適した人材を紹介してくれる。俺とランディは、ジェシーの紹介で知り合っていた。

ジェシーは、人の優れたところは認めたがらない、自己中心的自分至上主義者。だから性格は、ちょっと可愛くない。

だからこそ、奴の紹介してくれる人間は、腕も性格も確かな奴ばかりだといえる。

「君の戦場でのコードネームが『グローツ(公爵様)』だという意味が、今日やっと分かったよ」

と、ファーダが苦笑する。

ヨハンは、ジェシーに負けず劣らず根性が捻じ曲がってるんだ。愛想はないし、キツイし、高飛車だし。それでも俺だけには、頻繁に優しい笑顔を見せたりする。

「トリは、アーサーだな」

ファーダは、そう言ってヨハンの隣りに視線を向ける。アーサーというのは、身長二メートル、褐色の肌に銀色の髪という、国籍不明の大男。けっこうイイ男なんだよ。

「アーサー・クレセントだ。運び屋のアーサー。まあ、この図体だから、担当は運搬と重火器」

彼は、イタリアの出身らしい。彼も、顔が広いよ。武器の手配もしてくれるし、人間でも物品でも、たいていの物は指定した場所まで… まあ、そこがジャングルだろうが砂漠だろうが、運んでくれる。

そんなわけで、彼のナビゲーターとして、俺はよく一緒に仕事している。戦闘に参加していなくても、行き帰りだけは一緒というのもよくあることだし。

「今回も、担当は運搬だな。俺も全員のこと知ってるけど… グローツとだけは、一緒に仕事したくないと常に思っているんだよ」

「ほほう、それはわたしも同じだ。君とはよくよく、気が合うらしいな」

と、ヨハン。二人の間に火花が散る。

「変な友好関係だね」

と、ファーダがため息をついた。

「とりあえず、食べながら話そうよ。子供たちが作ったから、野菜の切り方が雑だけどね。日本製品使ったから、美味しいと思うよ」

彼の言葉で、中途半端になった食事が再開される。うーん、けっこう美味い。

「で、仕事の詳細を教えろよ」

と、アーサー。ヤーブは、水を少し飲む。

「ああ、誘った時に言ったとおり、人探しと護衛。ターゲットは、王子様さ。現国王レバスト一世の甥で、皇太子のアルベルト王子」

ヤーブはここで、ちょっと言葉を切った。

「奴の素性が知りたいって奴、いる?」

「はい、俺」

軽く手を上げたのは、アーサー。

「この国に住んでまだ二年くらいだから、王家のことなんか知らねえよ。なんだって甥が、皇太子なんだ? 今のレバスト王には、子供いないんだっけ?」

「いるよ。王子様がちゃんと。じゃあ、順序立てて、最初から話すよ。みんなの知識とダブっていても、勘弁してくれよ」

と、ヤーブは少し考えを整理するためか、こめかみを押さえた。

<4>

この国に来た当時、俺は10歳になってなくて、言葉もまだ、よく憶えてなかった。で、テレビを一生懸命見たりしてたんだ。

世間が夏休みに入り、子供向けの語学番組を見ていたら、突然臨時ニュースに切り替わった。

ダール二世国王御一家…つまり、王と王妃と1人息子・アルベルト王子が避暑に向かおうと乗った王室専用機が、離陸直後に爆破されたというニュースさ。

ダール初代国王には、3人の息子と数人の娘がいて、王位を継いだのが、長男のダール二世だった。けっこう普通の人っぽくって、人気あったんだ。俺も近所の公園で、サッカーボールを蹴りあっている二世国王の親子を見たことがある。

もちろん護衛とお付きがいたけど、それでも、開かれた王室ってのを実感した。

何故、わざわざ公園でサッカーなのかという謎も、夕方のニュースで解明した。王子の蹴ったボールが王宮の窓ガラスを派手に割って(しかも初めてのことではなかった)、王妃がとうとう、庭でのサッカーを全面禁止にしたというのが真相だった。

うーん、極めて普通の家庭(^^;)。ま、似たような経験は俺にもあるんで、栗色の髪の、ほっそりして頼りなさそうな王子様に、俺は親近感感じたわけさ☆

そんなんで、王家は3人揃って人気があった。

それが飛行機爆破で、王夫妻が死亡。助け出された王子様も、重態だったけど命は取り留めた。

問題は、ここからさ。

誰が暗殺を実行したのか、というのは、二の次だった。人気者の王子様の容態のが話題だったし、11だか12歳の彼が王位を継ぐのかというのも、関心を集めた。

だけど、ダール二世の弟、ジークリット氏から「アルベルトは王としての職務に支障をきたす後遺症が残った」と発表があり、彼が王になってしまった。

でも彼は、なりたくてなりたくて王になったという感じで、あまり人気もなかった。新王は女にだらしなかったし、新王妃は病気がちで、あまり人前に出てこない。

ところが、だ。王位就任1周年の記念式典で、挨拶のために久々に姿を現した王妃が、すごいことを言い出した。

「義兄王夫妻を暗殺したのは夫・ジークリットで、アルベルト王子は元気に快復しましたが、幽閉されています…」

全国ネットの生放送だぜ。俺もテレビ見てたけど、びっくりさ。激昂した王は、テレビカメラがあるのも忘れて王妃を殴り倒し、大騒ぎ。

式典は中止され、王は王妃の妄想だと発表したけど、だめだった。皆の前で、奥さんを殴り倒したわけだし。

結局側近からも同じ告発が相次ぎ、式典から1ヶ月後、王は1人亡命し、王宮の窓の無い部屋からアルベルト王子が助け出された。

亡命を希望した国から強制送還された王は、その後自殺した。二世王暗殺の証拠は、自殺したジークリット氏とその側近と愛人たちを示唆していたらしい。

王妃はその後、2人の娘とともに実家の北欧に戻ったけど、どうなったんだか。

アルベルト王子は、今度は自分の口で、王位を継がないと言い出した。この時、彼の後見人兼良きアドバイザーとして活躍を見せたのが、現国王で3兄弟の末っ子・ダール三世さ。

ダール三世は、謙虚だった。アルベルトが21歳になって王位を継ぐまでの『つなぎ』ということを条件にして、自分が王になったわけだ。

その後アルベルト王子は他国に留学し、新国王のダール三世は人気も高くていい感じだった。

―――

というのが、7年前のダール二世暗殺事件の内容だ。

「そして今年6月、王子は21歳になる」

と、説明していたヤーブは一息つき、カレーをほおばった。

「で、今回の仕事なんだが… その王子を無事に保護し、王宮まで連れて行くことなんだ」

「その王子様、行方不明になっちゃったとか言ってなかったっけ?」

「そうなんだよ」

と、ヤーブは話を振ってきたファーダを困ったように見返した。

「実を言うと彼、留学直後から、数人の腹心とともに行方をくらましていたらしい。といっても、年に何回かは戻ってきていたし、なにしろ側近は、ダール家の熱烈な信奉者ばかり。心配はないだろうっていうわけで、軍もとくには口出ししなかった」

ヤーブは、ふっと息をついてスプーンを置く。

「ところが今月(4月)始め、王子がいつも通りの放浪から戻ってくると、待っていたかのように事件が起き始めた。部屋中にガスが漏れたり、チョコレートの缶が爆発したり」

「そんな近いところでの事件じゃ、仕掛けたのは身内じゃねーか」

と、アーサー。

「そ。多分、現国王のレジスト氏の仕業だ」

食卓は、しーんと静まった☆

「確か、息子がいたよな。まだガキだけど」

と、ランディ。

「そう。多分その子を、次の王にしたくなったんだろう。それに」

と、ヤーブ。

「7年前の飛行機爆破の件に、レジスト氏も、本当は荷担していたんじゃないかってさ」

「ひどい話だなあ。この国、王様になると、そんなにメリットあるの?」

と、アーサー。

「伝統的かつ国家最高位という名誉職っていうだけじゃないのかと思うけど、金はありそうだよね」

ヤーブは、ふふっと、笑った。

「海外とか、行くわけだし。まあ、俺ら庶民にはよくわからないよ」

「同感」

確かに、賛成するよ。なんか、ドロドロしてそうだものね。

「調達資金は、出るのか?」

「必要経費として、百万くらいまでならいけると思う。まあ、戦争じゃないからね」

「だから、武器は個人の愛用品でいいんじゃないか?」

と、ヤーブの言葉をファーダが引き継ぐ。

「大物も、いらないと思う。って、俺がRPG持ってるから、それは俺が常備しておくよ。あとも俺が適当に、割り振っていいか?」

誰も異論はない。

「ええと、ヤーブはランディと一緒に、王子様の過去について調べてくれないか? コージは、王子様の行方を頼む。アーサーとヨハンは、王子様の命を狙う奴等の身元を調べて欲しい」

「何で俺とヨハン・グローツを組ませるんだよ」

と、アーサーが異論を唱える。ヨハンは、ニヤリと笑って黙っている。

「だって、二人とも意外とうまくやっていけそうだよ。武器の調達も平行してやってもらってもいいだろう?」

ファーダは、これまた罪の無い笑顔でそう答えた。まあ、ヨハンとアーサーは、けっこう古い知り合いだからな。やだやだ言いながら、よく一緒に仕事してるんだよ。

「…それで、ファーダはなにをするんだ?」

ランディの質問に、ファーダは皆を見回し、それから、テーブルの中央あたりに視線を落とす。

「俺は、王子様のことを調べるよ」

「それって、俺とランディに頼んだ王子様の過去とは、違うのか?」

と、ヤーブ。

「俺が調べたいのは、王子様の現在さ。ヤーブのくれた情報を裏付ける証拠に、ちょっとだけ心当たりがあるんだ。」

ファーダは、視線を落としたまま微笑む。その表情に、ぞくっとしたよ。こいつ、タダモノじゃない。

俺は、「凄腕指揮官」としての奴の顔を、見たような気がした。


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