砂塵…打猟組的香港大作戦

(チーム・ハンティングの香港大作戦♪)

<7>

「パラシュートで脱出する!総員、俺の指示に添えっ」

叫んだのは、非番で帰省する航空部某小隊の隊長さん。中年のオジサンで、階級は確か少佐だった。乗務員は舵取りに必死なわけで、他にパラシュートの扱いに慣れてるのはいなかった。

「シート下の装備を背負うんだ。ダイブ後15秒程度でパラシュートを開け。ロックは右肩、操舵は両腰位置、非常用パラは装備右のロックを」

彼は言いながら、揺れる船内で、皆に分かりやすく大きな仕種で装備を背負う。もちろんみんなの作業も同時進行さ。とはいえ俺は、一瞬出遅れた。

「コージ、運試しするぞ!」

シートの下に突っ込もうとした手を押さえたのは、ファーダさ。彼は俺を抱きかかえると、腰のベルトにフックを引っかけたんだ!

ここに積んであるパラシュートは作戦降下用じゃなくて非常脱出用だから、定員2名様なんだ。そのための補助ベルトを、奴は俺の腰に回したのだった。

「お前と飛び降り自殺すんのはいやだっ(^^;)」

「SINPAI SIRO♪ ANSIN SINAKUTE IIDESU,YO♪」

「間違ってるっ!その日本語は間違ってるっ!こんなときにうろ覚えの言葉使うなっっ!」

「なんだよ、せっかく励ましてやってるのにぃ。まあいい、心配はしておけよ。俺も自信ないから」

とことんやな奴っ!俺が足元の不安定な高さが苦手なの、知ってるくせにっっっ!

「順に飛び出せっ!」

航空部隊の隊長氏は、傾いた機内でなかなか勇敢だった。入り口をこじ開け、腰の引けている若い軍曹の腕を支えた。そしてコクピットに向かって怒鳴った。

「もう少し高度を上げろ!」

「努力してるっ!」

乗務員の返事とともに、機体は一瞬持ち直した。と、同時に隊長氏は腕を掴んでいた軍曹ともう一人の青年を、外に押し出す。彼は近くにいた者を、順に外に押し出していった。手際いいんだ、ホント。

そして最後が、傭兵の俺達だ。彼はまずサムを押し出し、次に俺達を押し出そうとした。

「2人で行くなら、脱出後10秒でパラシュートを…」

との言葉を彼が言い終わらないうちに、コクピットと客室を隔てる薄い鉄板が、大音響とともに吹っ飛んだ。

「うわっ…」

「行くぞっ!」

機体が揺らぎ、ファーダは吹き飛ばされかけた隊長氏の腕を掴み、空中に飛び出す。と同時に機体は吹っ飛び、火の玉となって落ちていく。そして俺達は、爆風と炎に煽られてくるくると錐揉み状態で落下していく。

飛び出すのはいいけど、こんな不安定な状態でどうしろって言うんだ!とはいえ俺は、マニュアル通り大人しくしていた。言われていた10秒をやや過ぎたところで、ファーダがようやく体勢を立て直す。

「コージ!」

空をきる音に負けないように、ファーダが怒鳴る。俺は、わかってるよ、と怒鳴りかえした。

「右森林の横、赤い光が最良降着ポイント!」

俺は基地の滑走路の、最北端を知らせる赤い光を指した。ああ、俺はパスファインダー(降着誘導員)じゃないんだってば…。自分で言うのも何だけど、結局俺は、見事なまでの方向感覚を持ち合わせているらしい。ファーダが、俺の背中をばんっ、と叩く。

「了解………うわっ、コージ!何か光ったぞっ!」

「え?」

俺がそっちを向いた瞬間、ファーダは強引に降下方向を変えた。

「対空ミサイルじゃねーかっ!(^^;;;;」

パラシュートで降りてる人間に、こんなでかいの、ぶちこむなよっ!

そのでかいミサイルは、俺らの後方に浮いていた奴のパラシュートに突っ込み、そのパラシュートを人ごと絡み付け、非常用のパラシュートを開く余裕も与えないまま海の方へ飛んでいってしまう。

凄まじい空気抵抗を切り裂き、断末魔が響く。

「くっそう!」

ファーダが、ハーネスから赤の発煙筒を外し、栓を抜いて肩越しに投げた。救援を求める赤い煙が、俺達より早く下へ流れていく。

「降下ポイントは赤ランプだっ!」

ファーダと俺の怒鳴り声に、近くの上空にいた何人かがOKをだした。そんな中、うまく宙を泳いでいたサムが俺達に近付いてハーネスを掴む。

「俺が援護するっ!先にパラシュートを開けっ!」

「援護っていったって…」

俺が困惑しても、ファーダは決断早かった。

「開くぞ!」

バシュッと音がして、急上昇がはじまる。俺は、自由落下系と打ち上げ式のマシンが嫌いなんだよっっっっっ!続いて、サムがパラシュートを開く。

俺達の高度は、2000メートルを切っていた。

もちろん、皆より高度は低い。降着誘導をする以上、真っ先に降りなければならない。

だいたいパスファインダーってのは、こんな切羽詰まった仕事をするもんじゃないぞ!普通は、「空挺部隊の着陸ポイントの整備と確保」が仕事なんだ。真っ先におりて安全保障をするってのは、ちょっと違うと、俺はぜったいに思うんだが……(涙)

次々とパラシュートが開いていくと、地上からは断続的な銃撃だ。何人かのパラシュートに穴があいて、彼らは急速に降下していく。彼らは狙撃防止のためぎりぎりの高度まで落下してから予備のパラシュートを開いた。

俺達の少し上にいた隊長氏も撃たれ、穴の空いたパラシュートがしぼみ、きりもみ状態で俺達を追い越していく。

「隊長さんっ!」

呼んだところで、声なんか多分届いていない。サムは俺達の下方にいて、そのパラシュートで地上の様子が見えない。俺を支えるファーダの手に、力が入った。

と、その時基地のほうから救援をしらせる黄色い発煙弾が打ち出された。地上まで、あと1キロない。その瞬間、隊長さんの非常用パラシュートが開いた。

ふと、サムが方向を変え、俺達の地上に対する視界が広くなる。

「コージ!先に降りろ!」

「せめて100切るまで待てぃっっっ!(^^;;;;;」

俺はファーダにキス出来そうな距離で言い返しはしたが、それでもフックに手をかけて切り離しの準備はしていた。実際のところ、100メートル切るまでなんてとても待てない。

「俺は可能な限りサムを追う!コージは後から降りてくる奴等の降着誘導を!」

「了解!南無三!」

俺は、ファーダからベルトを切り離した。俺達を繋ぐのは、俺が服に仕込んでおいた降下用のロープだけだ。そのロープ一本だけで、約200メートルを急降下だ。ファーダのパラシュート操作のおかげで軟着陸(というほどのものではないんだけど)した俺は、 銃を引っ張り出して茂みに向かってぶっ放した。俺達を狙撃したと思われる場所だ。滑走路の脇だが、緑地帯になっていて背の高い茂みが点在してる。早い話、白兵戦の演習場になっている。

手榴弾がないのが、残念だったよ。

広い場所だからね。狙撃される危険性は高いが、自分で指示した降着ポイントだ。死守しなきゃ。滑走路の最先端を示す赤いランプは、けっこう大きいんだ。滑走路の縁に埋め込まれてるんだけど、俺が大の字になって寝そべったくらいかな。

ベトナムの基地とちがって、滑走路は広くて綺麗さ。強固に舗装されるしね。

俺がそこに辿り着くと、昼間だってのにちゃんとランプが点いたんだ。赤の発煙筒と俺達の動きで、管制塔も降着ポイントがここだということを理解してくれたらしい。

地下から、対空ミサイルの発射台が覗きだし、巡視用装甲車が集まってくる。

降下してくる奴等にわかるよう、俺は腰に吊るしてあったグレネードランチャーM79で、例の、赤と白のコージ印の信号弾を撃った。弾は途中で赤と白の煙を吹き出す。

ばばばばばばっっっっと、足元にいきなり銃弾だ。グレネードランチャーってのは、ほんとに不便なんだよ。アンダーバレル式が普及するわけだぜ。俺は果敢に、拳銃で応戦した…その瞬間、俺の後ろから飛んできたロケットが一発、茂みに突っ込んだのだった。すっごい衝撃と同時に爆風が起こり、火柱が立つ。

「ばっ、ばかやろうっっっ!シャツかすって行ったぞっっっ!(^^;;;」

俺は、振り返って怒鳴った。こんなことするのは、あいつだけだ!

「いよ〜う、コージ。救援、間に合ったらしいな♪」

肩撃ち式のロケット砲担いで、装甲車の前でびしっ!とポーズ決めてるのは、ジェシーだったのさ!

ジーパンにポロシャツ姿の奴は、俺に投げkissをする。

「マイ・フレンド♪見事な降着誘導だったぜ♪」

お前は見てたのかっっっっっっっっっ!!!!!ならばとっとと来いっ!(怒)

―――――

パラシュートの面々が、緊張した顔で降りてくる。

あの勇敢な少佐は、腹に4発も食らって重傷だった。

他にも、銃撃食らったのは何人かいたが、かすり傷程度だった。行方不明者1人。

俺達の乗っていた飛行機は、基地の北端に墜落している。あの状況じゃもちろん、乗員たちの生存は絶望的だった。

装甲車に囲まれた安全地帯で、救急隊は俺達の手当てだ。そして警備兵たちが不法侵入者たちを探して走り回っている。

そこに、ファーダとサムが来たのだった。

「あいたたた、腰打っちまった」

と、ファーダが腰をさする。その横でサムが、固い滑走路の上に、担いでいた男の死体を乱暴に投げた。

「こいつと出くわしたのが降下直後だったんでな。手加減できなかった」

サムってばうそつき…(^^;)なんて野暮なことは、俺は言わなかった。だいたい、滑走路に転がされたのはどう見ても、じゃぱにーず・まふぃあ、やーさん…(^^;

さすが、新型ドラッグが絡んでるだけあるぜ。最初はどんな弱小な組織も、薬の元締めになれれば、世界中のマフィアを操れるんだから☆

「あれっ、ジェシー。何でここにいるんだ?」

ファーダが、心の底から驚いたような顔をする。

「え?ファーダが呼んだんじゃなかったの?」

俺の問いにも、ファーダは首を振った。

「ほら、電話でランディに、ジェシーも誘っておけよとは言ったけど…」

「ま、固いことは言うなよ♪な(^^)」

と、ジェシーは、いきなりサムに右手を差し出した。

「久しぶりだな、サム。無事でなにより」

「ジェシー・ラヴェリール…なんでお前が…」

そしてサムも、呆気に取られたようにジェシーを見つめていたのだった。

――――――

「俺は基本的に、身動き軽いもん(^^)」

と、ジェシーはにこにこしながら俺達が飯食うのを眺めていた。

「赤十字は接触してくる、コージがベトナムで何か掘り当てたらしい、おまけにエクストリケイション・ガイドのジャングル撤退。しかもインターポールまで動き出したとなりゃ、でかい仕事を想像するぜ」

そのジェシーを、ファーダは渋い顔で見ている。

「…で、君はその仕事に混ぜてもらおうと、ランディの接触を待っていたのか?」

「そういうことっ♪♪なんか、すげえ面倒そうなんだろ?こんな仕事、めったにねーもん」

「………ったく」

と、ファーダはため息をつく。

「まあ、そう渋い顔すんなよ。先攻のサムに地図読みのコージ。スナイパーの俺に重火器及び指令塔のファーダ。最低人数の一チームが出来上がったってわけじゃん(^^)」

「…………(--;)」

「ファーダ…」

サムが、不安そうな顔をする。

「俺は、君たちをすごく危険な…」

「それはまあ、俺達の趣味だからいいんだ。だけど、わざわざ危険なほうに行きたがる奴が多いんだ。うちのチームは…」

と、ファーダは俺とジェシーをじろりと睨む。

「……(:^^)(^^;)」

俺たちは顔を見合わせるしかなかったよ☆

「ここまで来たら、最後までなんとかするさ」

彼は再びため息をつく。そして、ふっと立ち上がった。

「ジェシー、物資の調達頼む。サムは香港に連絡とれよ。コージはヨハンと常にコンタクト取れるようにしとけ。俺は、手順考えるから」

「いいけど…香港に行く手段は?」
「……もう一回軍用機」

ファーダの野郎は、にや〜〜っっっと笑ったのだった(^^;;;

一体、何考えてるんだ、こいつは…

<8>

俺達は、香港の軍事空港に降り立った。二度目の香港渡航はあっさり成功だった。時計は夕方の5時を差している。

滑走路で出迎えてくれたのは、赤十字の某職員だった。

「本部より、手配を承っています」

と、その中年の男性職員は事務的に喋る。裏仕事専門の、職員ってのはどこの組織にもいるもんだ。彼は赤十字と、非合法組織や傭兵部隊との連絡役なんだ。名前は知らないけど、俺達みたいな人間の間じゃ、彼は有名人だった。どこにでも現れるんだもんな☆あまり若くないとは思うけど、年齢不肖な見かけに、めがね。アングロサクソンだろう。

「じゃ、その手配内容を知らせてもらおうか…」

と、ファーダと職員が何か喋ってる。俺は乗ってきた輸送機を振り返った。給油してる。

「……あの輸送機は、こちらの時間で明日の昼過ぎに、オル・ダール軍事空港に着きますよ」

と、職員。その瞬間、ジェシーが俺の首に腕を回した。

「浸ってるんじゃねーよっ☆」

そ、あの輸送機に俺達と一緒に乗ってたのは、あの事件で死んだ奴等だった。みんな、特進するということだった。

あの事件は、犯人こそ不定だったが、全世界に配信されていた。

「んな湿っぽい顔してりゃ、ゲームで負けるぞ。あのウェリーに負けるってのは、絶対に恥だな。お前、ゲーセンに行かれなくなるぜ☆」

「う…(^^;;;」

ジェシー…お前の慰め方も荒いよな☆まあいいさ。やることはいっぱいあるんだから…

「行こうぜ。赤十字の必要経費でコーヒーでも飲みながら、ゆっくりと話聞こう」

ファーダは、俺達に来い来い♪と手招きをして見せた。

―――

「しっかし、何でこんな遠回りせにゃならんのかね」

と、ジェシーがため息をつく。俺達はビジネス街の洒落たカフェテラスでお茶していた。香港に来て、もう一日過ぎている。ランディたちとの待ち合わせは、香港時間の今日夕方だ。それまでに計寸婆婆のところへ行けば、会える手はずだった。

「ベトナムから、香港を通り過ぎてオキナワ…んでもって別便で香港か」

「欧州に帰るついでに寄るんなら、チェックの厳しい香港空港より、リゾートのオキナワが好まれるんだよ。確かに遠いけどね」

と、俺。本当にそういう理由なんだ。オキナワからベトナムやカンボジア、新ビルマ方面に行く軍用機にだけ、たまに香港経由があるんだけどね。香港に寄るのは、軍事上の理由さ。チェックの厳しい中共軍を仲間はずれにしたりしませんよっていう意思表示だろう。行きのが、チェックに引っかかりにくいってのもあるんだが☆

ともかく俺達は、それを利用してようやく香港に来たわけだ。

「いいけどよ〜。俺はオキナワで泳いでないぜ」

と、ジェシーはぶつぶつとうるさいんだ(^^;)

「…お前、どこからオキナワに来たんだよ?」

ジェシーはちょっと沈黙したのち、ぼそっとつぶやいたのだった。

「……東京」

「東京だあ?なんでそんなところにいるんだよ?」

「競馬だよっ!日本のG1観戦に来たんだ。俺の秋の恒例行事だよっっ!」

「…………」

ファーダが、聞こえよがしの大きなため息をつく。その隣りで、サムがにやにやする。

「………サムは、ジェシーと知り合いなんだろ?(--;)」

俺の問いに、サムはまたニヤッと笑う。

「香港の競馬場で、一緒に仕事した事があるんだ」

「レーザー銃でも撃って、八百長か?」

と、聞くのはファーダ。ジェシーは口を尖らせた。

「俺は、公明正大・正々堂々・清廉潔白をモットーにしてギャンブルしてるんだよっ」

「少し、八百長もしたほうがいいぞ。じゃなきゃ、破産するんだろ」

「ううっ……(--;;;」

ファーダのシビアな言葉に、ジェシーは落ち込んだ。

「聖職者が、んなこと勧めんな☆それより、そのままで表情変えるなよ」

ジェシーは、すねた様子で肘をついて、うまい具合に口元を隠している。

「見張られてるぜ。この気配は九龍の人間じゃねえな。殺る気満々だぜ」

「ロケット弾と手榴弾、賭けるか?」

と、ファーダがコーヒーを飲む。

「いいぜ」

と言いながら、俺とサムはロケット弾、ジェシーは手榴弾のほうに10ドルだ。

「俺は絶対、ロケット弾にするけどな…逃げるぞっ!」

ファーダが真っ先に立ち上がりそれに俺達も続く。ほとんど瞬間芸だ。

ガラス窓が割れて悲鳴が上がる。その時には俺達は、カフェのレジ付近まで逃げていた。窓ガラスを破って、砲弾が飛び込む…とその後ろから手榴弾がころん…(^^;;;

「嘘だろっ!?」

「きつすぎるっ!(^^;)」

俺達が店の外にある瀟洒な柱の裏側に飛び込むと同時に、店の入り口から爆風と凄まじい音が吹き出したのだった。

柱の影で俺達は、埃を払いながらため息をつく。

「こりゃ、死人がでたに違いない」

と、ファーダは十字を切った。

「ここでひとつ、確認したい」

と、ジェシーは懐に手を突っ込んで、昨日赤十字から手に入れた銃を触っている。

「俺達の最大の目的は、サムの野郎を九龍に送り届けることだよな」

「そ。それが最大の目的。それが一区切り付いてから、ベトナムで例の作戦だな」

「香港での敵は、香港マフィアか?」

「シギィ君じゃねーの?香港マフィアなら、サムのお仲間だろ?」

と、俺。

「マフィアとは全員と顔見知りだが仲間じゃない。信頼関係もないぞ」

「あったら恐いって(^^;;;」

「冗談言ってるほど、余裕はなさそうだぞ」

と、ファーダも懐に手を突っ込んだ。治安維持隊のサイレンが、近づいてくる。

「このまま九龍まで行くぞ。コージ、先頭行けよ。サムとジェシーは援護を。俺は最後尾を行く」

「了解」

ここから九龍まで、200メートルないぜ。だって、この一本裏の通りなんだから…

「んじゃ、行くか!」

俺は先に飛び出した。案の定、いくらも行かないうちに銃撃が始まる。

「この先右のビルから、地下に行く。俺達にとっちゃ一応は安全地帯だが、気ィ抜くなよっ!」

俺は、自分で言ったとおりの廃ビルに飛び込んだ。ビジネス街とこのスラム街。隣り合わせであるだけに、景色が極端に違って感じる。

真っ暗な廃ビルの中、止まったままのエスカレータで地下3階まで駆け下りる。

地下3階には、怪しげな阿片窟だの麻雀窟だのが2.3あるんだよね。その胡散臭い暖簾の垂れた入り口が、裸電球でぽうっと明るい。その前にいた人相の悪い見張り役が、俺達の顔を見て舌を打ち鳴らす。彼は外を映すモニターの電源を切った。

「やっぱりコージか。…おまけにサムまでいやがる。仕方ねえ、入りな」

俺達が駆け込むと、見張り役たちは壁に似せた木戸を閉め、その内側から防弾でレーダー対策の為の分厚い鉛の扉を閉じたのだった。


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