2、3歩よろめくと、レイヴァールは俺達に向かって薄気味悪い笑みを見せた。 、
「……我々ヴァイシャが死なないって、知っているだろう…」
バシュッと何発もの音がして、その度にレイの体が大きく揺れて、胸や肩に血が滲む。
「だ…れ…」
その瞬間俺達は、各自やらなきゃならないことを思い出したんだ。
「伏せろっ!」
アーサーが怒鳴り、サムとヤーブと共に、司令官らお偉方と情報部の面々を抱え込んで部屋の端や機器の陰に飛び込む。と、同時に入り口からは無数の銃弾がぶち込まれたのだった。居たのは、ヴァイシャ御一行様…
俺とヨハンは、間一髪でメインらしい一番立派なCPの前に飛びついた。
「サム!アーサー!!」
ファーダが、アーサーたちと一緒に、銃弾の雨の中、ヴァイシャ御一行様の方へ走っていく。
「ジェシー!援護しろっ!」
「してるだろーがよっ!」
ジェシーの声は、上のほうから聞こえてきた。どこにいるんだ?
「ヨハンっ、これ、どーすんだよっ」
それはともかく俺が、腰に取り付けたナビシステムから細い線を何本か引っ張り出し、端末のソケットに差し込んで振り替えると、ヨハンは呑気にあのケースを開けて眺めていた。
「何やってんだよっ!」
「確認したんだ。間違い無い」
「何が?」
俺達の後ろじゃ、激しい銃撃が続いている。リーヴァの棲む巨大水槽は、もちろん防弾になってるようだけど、何発も当たってヒビが入り始めている。。水槽の水が、光の加減で赤く染まって見える。
ヨハンはいきなり、カードを俺の耳に当てた。
「オルゴール、聞こえるだろ?」
確かに聞こえた。でも、何だか変な曲だったぜ。以前に聞いた、‘メモリー’じゃない。なんだか壊れているようで、同じ音を単調に繰り返している。
「なんだ?壊れてるじゃん」
「…これが、暗号の謎だったんだがね。まあいいさ。ほら、出たぞ!」
ヨハンは俺に、渡した。
「何これ…」
レイヴァールとタシェリの写真があったところは、真っ黒になっていて、白く光る何かのプログラムが、すっごい速さで流れていたんだ。
「とっとと解析して、リーバの崩壊を止めたまえっ!」
「プログラムは、俺の専門じゃないってのにっ!」
俺は文句を言いながら、ハンドタイプのスキャナまで引っ張り出し、その画面にあてたのだった。もともと、作戦中に書類やら地図やらを読み込むために使っているんだが、こういう、データーを引っ張り出しようがないものを読み込んだりもしている。
図書館とか本屋でも、重宝するんだよな、これ(^^)特に値段の張る本♪
その間に、いつのまにかランディが来て俺達を援護してくれる。
「ったく、そんなの俺の専門でもないってのに!」
と、彼は愚痴りながら俺達と背中を合わせた。
彼は銃が持てて嬉しいらしい。M16を撃ちまくりだった(^^;)
「先回りして、精一杯の努力はしたんだ」
ランディは、俺達に言った。
「数匹の、プログラム検索用ワームをぶち込んである。システムのセキュリティを潜り抜けててくれりゃあ、今頃リーヴァの、自己崩壊プログラムを探し当ててるはずなんだが…」
「ランディ、‘珍しく’気が利くなあ(^^)」
と、純粋に、心からランディのことを誉めているつもりのヨハンは、システム上に侵入したワームの追跡をし始めた。俺は、その自己崩壊プログラムを書き換えるためのプログラムを、必死になってカードから引き出した。と、ヤーブが銃弾を潜り抜けて、俺達のところへ飛び込んでくる。
「出たか?!」
「出たけど…なんだ、これは―――――――」
ヨハンの声に、俺とランディも振り返った。
t(15;17),t(8;21),t(9;22),t(1;19),t(4;11),t(9q;22q-)…………
なんてのが、延々と並んでるんだ。
「こんなの、見たことないぞ。こんなの解読する時間は…」
「これでいい」
ヤーブは、俺達を遮った。
「これにコージがカードから引っ張り出したデータを、入れればいいはずだ。自動的に、修正してくれる。それが、遺伝子の組み替えだからな…」
「なぜ…、それを…」
俺達4人は、ぎょっっっっとして振り返った。血に染まった胸を押さえ、レイヴァールがふらふらと歩いてくる。
「レイが…何故それを知って……」
「このっ…」
ヨハンが銃口を向けた途端、向こう側から、司令官殿が飛び出し、レイヴァールにタックルしたんだ(^^;)さすが、冗談抜きで全然鈍ってない…。今でも戦線に行かれるんじゃないか?この司令官…
「早く、早く止めてくれ!」
司令官殿にそう言われちゃ、やらないわけにはいかねーな(^^)
俺とヨハンが再び端末のほうを向いた時だった。いきなり俺に、抱き付いた奴がいたんだ!
「うわっ…」
「カードを渡すのよっ!」
抱き付いたのはセイナネ教授だった。一瞬、強い香水の匂いを感じた。これって、何の匂いだ?けっこう艶めかしい…
「コージ!」
ヨハンとランディが、セイナネを引き剥がしてくれる。彼女は床に叩き付けられた。が、すぐに起き上がって向かってくる。
「カードに、わたしの探していたものが入っているのよっ!」
ヨハンとランディも一応、相手が女ということで手加減(躊躇?)したらしい(^^;;;)
「気絶させてやるっ…」
ヨハンが力んだ瞬間、彼女は思いっきりこけたんだ。
笑い事じゃないぜ。彼女の足を掴んでいたのは、頭も顔も銃弾でぐちゃぐちゃに崩れた、凄絶なイシス大佐……
「レイヴァールと俺たちが探していたものを、貴様が壊したんだ…」
「いやあぁぁぁぁ――――――――――――――――――っっ」
部屋いっぱいに、セイナネ教授の悲鳴が響き渡る。
CPの大きな画面には、「遺伝情報書換完了」の文字が、白く光った。
「レイヴァール!」
司令官の呼びかけに、倒れていたレイヴァールは目を開けた。
「レイ、どうして再生しない?!いつものように、自分の体を再生するんだ!」
「あれは、自分の意志によるものなので…」
と、彼は息をついた。
「イシスたちを含めて、研究の全てを消そうとしたのに…レイが、あんなものを造っていたなんて……わたしだけにしか、分からないと思っていたのに…」
彼の視線が、カードを持つ俺のほうに向けられる。
「どちらにしろ、もう時間がない…。あのカードがあれば、レイも私も、存在する必要はなくなるだろうから …あまり、悔やまないで下さい。わたしが望んだ結果ですから…」
レイヴァールは、にやっと笑った。
「あの研究は、軍事利用されない時代が来るまで、封印しておきたかっただけです。もちろん、今すぐ役に立てばと思うけど……」
「じゃあ、お前が役立てればいい」
司令官の言葉に、彼は目を伏せた。
「それは無理です。…なにしろ今のわたしは、約一週間だけ再生されるようにセットされた、レイヴァールの「記憶」なので…。あなたをがっかりさせてしまうけど、生き返ったわけじゃない。今日の出来事をある程度予想して造られたプログラム…。特殊部隊の投入は、予想していたが…傭兵隊なんて、考えもしなかった………」
軍の医療チームが到着し、ファーダたちが派手に倒したヴァイシャや、人間の怪我人を要領よく担架に乗せて運んでいく。
「コージ…怪我をさせて、済まなかった。イシスを許してやって欲しい…。君に会えたら彼はきっと、謝ると思うよ…」
医療チームはレイの所にも来て、無言のままレイを運んでいく。俺達は、それをぼ゛―っと見送った。カードからは、まだ怪しい壊れたような曲が聞こえてくる。
「コージ、そのカード」
と、ブレストンが言いながら、手を出す。俺は、元の写真に戻った中身から視線を上げた。司令官がファーダに何か声をかけ、俺達に敬礼する。
「……おーい、司令官殿〜、これ、あげまーす(^^)/」
俺は司令官殿に、カードを投げ渡したのだった。
「こ…コージっっっどうしてだよ〜」
「ブレストン、あんまり野暮すんなよ♪」
俺が答えるより先に、ヨハンは俺の肩を叩いた上にしっかり抱いて、その場から歩き出した。ファーダたち特攻隊も、多少のかすり傷を負ったみたいだった。レイが運ばれていった後、奴等は医療チームからバンドエイドやら消毒液やらをせびっている(^^;)
「おう、ご苦労さん(^^)」
ファーダは俺に、バンドエイドを一枚差し出してそう言った。そういえば、顔に怪我していたっけ。ところで、ファーダ、俺の頬の銃弾のかすり傷はさ、このバンドエイドじゃ納まらないと思うぞ(^^;)
「サンキュー。ところで一つ聞きたいんだが…」
と、俺はファーダとヨハンを見上げた。
「何?」
「あのカードにいろんなデーターが入ってるって気付いたの、どうしてだ?」
「だって、遺伝情報は、ATCGの組み合わせって言ってたじゃん」
答えたのは、ファーダだった。
「ファーダ、分かってくれたのか。わたしはてっきり、分からないと思って心配したよ」
と、ヨハン。
「あ、やな奴〜。…と言っても、わかったのは「ヨハンがオルゴールの謎を解いたらしい」って背中突つかれた後だけどな」
「あ、俺も分かったぞ。確信したのは、ヨハンとコージがカードの情報引っ張り出したのを見てだけど」
と、ランディがやってくる。俺とサム、それからジェシーとアーサーは顔を見合わせた。
「俺も、気付いたのは「ヨハンが」謎を解いたと知った後だよ」
と、ヤーブは、くすくす笑った。
「この程度なら、教養範囲だな」
ヨハンもそう言って、にやっと笑った。
「かなり初級レベルの暗号だよ。Tを抜かしたAGCは、音なんだ。コージだって、音階くらいは知ってるだろう?」
「音階?ドレミファソラシドってやつだろ?」
答えた時のヨハンの顔といったら…彼はかなり軽蔑した顔で、俺をまじまじと見つめたのだった。
「コージ、君は何年こっちに住んでいるんだ?どうりで音楽の成績が悪かったわけだ。ド、レ、ミってのは、日本語だろう。普通は、CDEFGAHCと言うんだ」
俺はようやく、あの不規則で、壊れたようで、単調な音の繰り返しを思い出したのだった。あれ、塩基配列の音楽だったのか(^^;)
「でも、ウェブスター辞典40冊を音にするのは難しいし、あのカードの容量で足りるかな?それに、音階にはTがないじゃん」
俺の問いに、ヨハンは肩を竦めた。
「聞いた限りでは、他の音が当てはまってたようだ。それに、セイナネ教授が欲しがっていたイントロン解析表ばかりじゃなく、リーバの自己崩壊阻止のプログラムやら何やら、いっぱい入っていたようだし…相当な容量があったことは確かだな」
ファーダが肯き、リーバの巨大水槽を見上げる。
「それに、コージにあんなに渡したがっていたんだもの。何かあると思うさ」
ということは、ピザ屋の前で落としたのも、わざとだったんだろうか?ファーダは、俺の背を、ぽん♪と叩いた。
「どっちにしろ情報部が、明日あたりから一週間くらい徹夜して、解読するさ。…仕事が終わった俺達には、もう関係のないことだ」
巨大水槽の中では、危うく難を逃れた3匹のリーヴァが、相変わらず軋み、時々泡を吹き出していた。
<20>
数日して、ブレストンが経過報告に来た。
あのカードには、レイを含むヴァイシャ23人の遺伝情報が入っていたこと。ただしそれは、一番大切な部分が抜けているらしいという。
そんなことを教えてくれた。
ヨハンたちの推理は、部分的に合っていたらしい。塩基配列は確かにAGTCの組み合わせだが、実際にはDNAとRNAとでは微妙に違い、音階では全然表現しきれないそうだ。しかも、RNAに至っては、tとかmとか、いくつかの種類があるとか…。俺なんか、DNAとRNAの違いもわかんねーけどな(^^;)
それでもレイは、遺伝情報を織り込んだ曲を、20近く作ってたらしい。ちなみに俺達が聞いていたあの不規則な旋律は、リーヴァの遺伝情報の一部だった。
肝心の遺伝情報の解析は、素人のブレストンたちじゃ、どうにもならなかったらしい。なにしろ塩基配列事体が、暗号なんだってさ。
たとえば、AAGでフェニルアラニン、CAAでバリン、AGGでセリンというアミノ酸を意味するのだとか。しかもCGUでアラニンだという。
「Uって、何だよ?塩基配列は、ATCGの組み合わせじゃないのかよ?」
俺の問いに、ヤーブはため息をつき、ブレストンは両手を広げた。
「僕に分かると思うのかい?僕に分かるくらいなら、ヴァイシャの一個師団が、とっくの昔に出来上がってるよ」
もっともだな。ヤーブも、くすくす笑っていたけど説明はしなかった。
カードには、あの3匹のリーヴァについての情報も、色々入っていて、リーバ関係の研究者を、狂喜乱舞させた。
そして、レイヴァール・ヴァイシャル少将の業績については、あまりの偉大さに、見直しが進められるらしい。正式な記録として残されると、ブレストンは言った。
アミノ酸から造る人工臓器については、民間の大学や研究所に委託して、研究が続くことになった。これは、新聞にも出ていたよ。これほど重要な研究を、20年も隠していた軍を非難する論調も多かったけど、ゴシップ系の新聞やテレビは、謎の天才研究者ヴァイシャル少将のことでもちきりになっていた。
それからイシス大佐たちヴァイシャが、司令部から研究部に移ったらしい。遺伝子研究室は、今回の件に関わりの薄かった若手の室員数人を中心に、再構築されるそうだ。イシス大佐たちは、その補佐にあたるという話だった。
あの時一緒にいた遺伝子研究室の室員の処遇について、ブレストンは言わなかった。ただ黙って、首を振りはしたけれど。
セイナネ教授は、カードに託されていたデータの写しを見せてもらった翌日、軍の拘置所で自殺したそうだ。
スパイの話だけど、あれは、張ったりとか嘘とかではなかったんだってさ。
セイナネたちは、戦績の上がらないヴァイシャたちの改造を重ねていたらしい。彼らの血液を特殊な赤いオイルに代えたのも、セイナネたちだった。
これこそ倫理規定に引っ掛かるっていうんで、ブレストンたち情報部と内務査察部が、遺伝子研究室を調べていたんだ。それに気付いた彼女たちは、情報だけでなく、自分たち研究メンバー全員の買い取りと亡命を、アジアの企業に求めていたというのが真相だった。
イシス大佐たちの存在は相変わらず極秘扱いのままらしいが、今までのレイのように、もっと自由になるそうだ。そのうち、街中で会う事もあるんだろうか?
最後に、あの司令官が辞任したと聞いた。
少将の両親も軍人で、能力が高かった故に施設に収容された彼を連れて亡命しようとして失敗し、少将の眼前で殺されたんだそうだ。以来彼には、死ぬまで、基地からの外出許可は出なかった。
その後、あの司令官が少将の身元保証人になっていた。20年前、死の手術の同意書にサインしたのも、司令官だったそうだ。
騒ぎを起こしたレイの処遇は、ブレストンも知らないと言う。
「彼の身柄、内務査察部のほうに移されちゃったんだよ」
リーヴァの無事はともかくとして、軍にとっては、あまり後味の良くない結末だったようだ。
俺達にはまあ、かんけーないけどな。
そしてこの事件は、解決してくれたカードにちなんで、“オルゴール”というファイル名がついた。データを抜いたカードは、司令官の手に戻ったそうだ。
ちなみに俺は、最悪。手首はかなり腫れ上がり、箸も持てない。ひびだってのに、しっかり固定されちゃった。
盛夏の頃には、治るといいんだけどな……
翌日俺は、用事があって朝から大学に行く羽目になった。教授が、フロッピーに必要なデータが入ってない、と電話してきたんだ。もちろんそんなはずはない。電話で、いくら説明しても、結局だめだった。しゃーない。行って、印字してくるか(^^;)
「あれっ、コージ。出かけるのか?」
門の前で、花の手入れをしていたファーダが、驚いたような顔をする。今日は朝からいい天気。セミもガンガン鳴いていて、暑くなりそうだぜ。
「おう、ちょっとな」
俺の返事に、ファーダは軍手を外して前髪をかきあげた。
手入れの行き届いた植木鉢は、涼しげな白い花を咲かしている。
「報酬の振込み、今日だよ。それから、打ち上げパーティーも、今日だぜ」
打ち上げは、屋敷のリフォーム完了のお祝いも含まれている。結局ヨハンは、全額プラスアルファを軍に支払わせることに成功したんだ。
「なんか、買ってこようか?」
「ああ。ピザ頼む。16インチの、3つ4つ買ってきてよ。料金は、レシートと引き換えるから。それから…、帰りは何時ごろになる?」
俺は、時計を見た。手首には、もう汗が浮いている。
「そうだな。昼頃かな。12時過ぎには帰るけど?」
「じゃあ帰りに、そこの停留所に寄ってよ。12時にね。俺と、待ち合わそう」
ファーダは、にこにこしながらそう言った。そこの路面電車の停留所だあ?歩いて10分くらいじゃねーか。何でだ?
「まあいいから、付き合えよ(^^)」
「…わかった」
と、俺は自転車にまたがった。庭から、サムとアーサーとランディの、「鍛練」の奇声が聞こえてくる。それにファーダは、肩を竦めた。
「これだから、変人屋敷とか言われちゃうんだよなぁ…」
「なあ、聞こうと思って忘れてたんだが」
と、俺。ファーダは、何?と顔を向けた。
「慰霊祭で俺たちを狙撃したの、誰だったんだよ?あれ、けっきょく分からないままじゃん」
「ああ、あれはジェシーだよ」
「ジェシーだあ?」
俺は、自転車にまたがったままファーダの襟首をつかんだ。
「お前なあ…何でだよ?」
「動力炉への突入準備が出来たら、合図してくれって頼んでおいたんだ。セイナネたちに、亡命がふいになったようだと感じさせるような合図を頼んだんだが」
「……」
俺は、ファーダから手を放した。
「あれで、そんな風に感じるとは思えないな」
「うん。俺もそう思う。ジェシー曰く、ヨハンの居る所に銃弾をぶち込みたかったんだとさ。ところでコージ。時間はいいの?12時に、ちゃんと停留所に来いよ」
「分かってる。そんじゃな!行ってくるぜ!!」
しええ、教授との約束の時間に間に合わねえっっっ!俺は、自転車をかっ飛ばしたのだった。片手運転だから、危なっかしいの何のって…(^^;;)
そして俺は大学行って、FDから資料を引っ張り出して…ああ、こんなに暑いと、何をするのもかったりぃ〜
俺は、レイと会ったおかげで狙撃されたピザ屋で、20インチの特大ピザを4つも買っちゃった。ファーダは16インチでいいって言ったけど、それじゃあどうせ、足りないもんな。
金は戻ってくるんだし、チキンとサラダも、買ってくか…
俺は、広場の慰霊の女神を見た。すっかり奇麗に修復されてたよ(^^)。よかったぜ。けっこう気になってたんだ。俺は、ファーダと約束した停留所に向かった。路面の細い線路を横切って、石畳の坂を登る。
そこでたむろしてたのは…なんと、ファーダとヤーブ以外のみんなだった。
ランディにヨハン、アーサー、サム、それからジェシー…。暑い中、みんな無言だった。ちょうど昼で、人影なんか見当たらない。俺達だけだった。
炎天下だけど、停留所前の家の塀にかかっている色とりどりの花は、ひらひら揺れている。それなのに、狭い日陰に筋肉マンたちがぎっしり…これを見ているほうが、よっぽど暑苦しいぞ(^^;)
「よお、コージ。お前の入る場所はないぞ」
と、ランディ。やつのタンクトップは、汗で色が変わっている。
「そこのが暑そうだから、遠慮しとく…(^^;;;)」
「そお?お前のが暑そうだぜ」
そんな事言ったって、俺は休日登校だからな。半ズボンにタンクトップ、リュックにキャップにサングラスといった格好。んも、典型的な軟派遊び人学生スタイルだ。
「ところで、みんなしてここで、何やってんの?」
「ファーダに呼び出された」
と、ヨハン。
「その様子からすると、君はまだ聞いてないようだな」
「?何を?」
「ファーダとヤーブが来れば、分かる」
さすがのヨハンも暑いらしく、そのまま口を噤んでしまう。俺は、買った食料品だけ日陰に入れてもらい、サムと一緒に炎天下に立っていた。セミの声はうるさいわ、手首の包帯は汗が滲むわ…ああ、冷房の効いた部屋に入りたい…
12時10分になって、定刻通りに2両編成の電車が来る。
そして扉が開いて降りてきたのは、ファーダとヤーブ、そしてレイ…だった。白いポロシャツにジーパン履いて、スーツケース持っている。
「おう、全員そろってたか(^^)」
ファーダは、ご機嫌だった。
「みんなに紹介するよ。新しいメンバー、レイ・ヴァール♪鍛えてやってくれ(^^)」
彼はそう言って、レイの背中をぽんと叩いた。俺以外のみんなは、口々によろしくとかなんとか、言っている。
「俺達はみんな、レイのこと知ってるんだけどな。レイのほうが、ここ数年の記憶が飛び飛びになっちゃってるんだ」
と、ヤーブ。
「よろしくお願いします(^^)」
と、その割レイは明るかった。記憶が飛び飛びっていっても、どのくらいなわけ?それに、何だって俺達のチームに入ってくるんだ?
その時ふと、レイと目が合った。
「あっ、コージ♪久しぶりだねっ!」
久しぶりって…お前なあ……
「それに、教会で会った事のある人たちばかりだ♪」
……………。
「慰霊祭の日のこととか、肝心で大切なことは、きれいに忘れているんだよ。軍のほうも、これ以上のレイの束縛は諦めた」
と、ファーダは日差しに手をかざした。
「どっちにしろ、俺達と一緒に行動するのも、軍にとっては立派なデータになりうるんだってさ。こいつのレンタル期間は、俺達が解散するまで。俺達の寿命は有限だけど、レイの寿命は無限だからね…」
と、ヤーブ。ファーダは、行こう、と俺達を促した。
「俺達がこうして、こういうメンバーでチーム組むのも、何かの縁だよ。新入りさんの歓迎会と仕事の打ち上げ、派手にやろうぜ(^^)」
そ…そんな簡単なもんなのか?!だって、こいつと戦ってたんだぜ。そりゃあ中身はこいつじゃなかったけど…
それにもしかして、知らなかったの俺だけ?みんななんだか、奴にフレンドリーじゃねえか…(^^;)
「不服なのか?」
と、歩き出したヨハンが俺を小突く。
「不服はないけど…」
「じゃあ、安心したんだろうな?レイの処遇、すごく気にしていたんだろう?コージってば派手に落ち込んでいたから、みんなして気を使ったぞ」
気を使っただあ?俺は、ため息をついた。
「心配したって、素直に言え!」
「あっ、いい匂い♪」
と、いきなりレイが振り返る。
「コージの持っている、それだね!(^^)/」
満面の笑みで、嬉しそうに……ったく、仕方ねーの。歓迎してやるか(^^;)
俺は自転車を漕ぎ出し、レイにピザを渡した代わりにスーツケースを奪い取って、みんなを追い抜かした。手首は確かに痛いけど、ハンドル持つのには、差し障りがないような気がしてきた。けっきょく痛みなんて、気分によるもんだよな♪
「早いとこ、帰ろうぜ!これ以上こんな暑いところにいたら、ピザが悪くなるからな」
こうして俺達は、メンバー8人・プラスゲスト1人で9人になった。
チームがいつまで続くのか、軍からこんなモン借りちまって大丈夫なのか、いろいろ思うところはあるけれど、まあ、いいか……
今が充分、楽しいんだからなっ♪ fin