相変わらずの静けさだった。
コクピットに座るムウは大きくあくびをすると、代わり映えのしない星々をぼんやり眺めた。
宇宙を旅して既に1ヶ月が過ぎようとしていた。
ムウは星間定期輸送シャトルのパイロットである。彼は惑星μで採掘される良質のバイトを自分の星である惑星ホーモツデーンに運ぶ、いわば宇宙のトラック野郎である。ムウにとって宇宙の旅は幼い頃からの夢だった。幼い頃から体が大きく重かったムウは、高い場所に上れずにいつも悔しい思いをしていた。
「どこまでも高く高く昇っていけたら・・・」
そんなムウ少年の夢は宇宙への憧れに変わっていった。
スペースパイロットの職を得た今でも、ムウは宇宙への憧れは忘れていなかった。むしろ、その憧れは高まるばかりだった。
「交代の時間よ」
ミクの声にムウは我に返った。ミクは細い体を巧みにくねらしてムウの隣のシートにスルリと座ると、無邪気な表情で聞いた。
「何か面白いことでもあった?」
その言葉にムウは、仕事のパートナーとして初めてミクを紹介された日の事を思い出した。ミクの細い体と顔、白い爪先とエプロン、それに頭の白い稲妻模様。それは、昔生き別れとなった彼女に完璧な程に似ていたからだった。
あの日、息をのんでミクを見つめるムウに、ミクは笑顔で言った。「何か面白いことでもあった?」と。
ムウはあの日と同じ返事をした。
「別に・・・」
そのとき警報が突然鳴り響いた。
!!!ぴゅぅーぴゅぅーぴゅぅーぴゅぅーぴゅぅー!!!
ムウはパニックになり、暴れ始めた。
「どうしたの!? ムウ、落ち着いて!」
ムウは聞いちゃいなかった。
ミクはコンソールを叩いて、いくつかのインフォメーションウインドウをポップアップした。そして安堵のため息をついた。
「大丈夫よ、ムウ。隕石が船体を擦っただけ。」
ミクは笑顔をムウに向けたが、その笑顔は急速に凍りついた。
「だめぇー!! そのボタンは!!」
ミクが阻止するよりも早くパニックを起こしたムウが押したボタンは、非常脱出用のボタンであった。
ムウとミクの座るコクピット部分は非常時の脱出用ポットも兼ねていた。その脱出用ポットの爆発的推力を持つ4機のエンジンが一斉に発火し、爆発の巻き添えを避ける為にすさまじい速度でシャトルから射出された。
その衝撃に耐え切れずに意識を失ったミクとムウは、新たな運命が始ったことを知る由もなかった。
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