最終章 それぞれの旅立ち
マーリングリスルの村を覆っていた黒い雲がちぎれてきた。
眩しい朝の日差しが差し込んできた。
フェレ達は、次第に広がっていく青空を眩しそうにいつまでも見上げていた。
突然誰かが声を上げた。
「あれは何だ?」
「気球だ!」
朝日を背にして気球は緩やかに降下してきた。
気球の下にはメロン色のキルトの袋がぶら下がっていて、そこから小さな女の子のフェレが顔を出していた。
気球が着地した。
「君は誰ですか?」あタロウが聞いた。
「私は、めろん姫。幸福をもたらすフェレと呼ばれています。」
「幸福を?」
「そうです。幸せを勝ちとった後は、その悲劇を繰り返さないための努力が必要です。ささやかな努力で構わないのです。それを続けることが必要なのです。」
「例えば?」
「新しいフェレが誕生したら、体に合うキルトの服を身につけさせなさい。その後は、年に1回はキルトの鎧で身を固める日を設けるのです。」
めろん姫はそう言い残すと、気球に乗ってまた青空に消えていった。
戦いの日から数日が過ぎた。
グー神王、アルテーシア、ルビィは、ロームの神殿のみんなと共に神殿に帰っていった。
また何かがあったとき、必ず駆けつけることを固く約束した。
あタロウは、キョーンの弟子になることを決めた。キルトのハンモックを作って、たくさんのフェレに楽しい夢をみてもらいたいと思ったのだった。
クラフフォレットの国のみんなも、それぞれの場所に帰っていった。
Cooは、シナモンをこっそりと見送った。
「お兄ちゃん。あのフェレ、きれいね。」
ぷりんが背後に立っていた。
「そうかな。」
「うん。笑顔がとっても素敵。」
「そうだな。」
そして、Cooとぷりんはクレイシーファーシィの村に帰っていった。
ぷりんには目的があった。それは、この戦いの記録を
つづった書をホームページに載せること、そしてキルトの鎧を更に分析することであった。
後にぷりんは、医師のオカテツ、鈴、琴と協力して、キルトの鎧から効果的に鶏胚由来弱毒生ウィルスのシングルワクチンを抽出することに成功した。
更にそれを接種することで、キルトの鎧を着る以上に魔王の呪いを防げることを発見した。
ミュウは、ただの子フェレに戻った。
今頃は、ウラン乳を無邪気な顔で飲んでいるころだろう。
ムウは、また旅に出た。
マロンは旅の支度を終えて、最後に首にバンダナを巻いた。
戸口に物音がした。マロンが振り向くとミクが立っていた。
「もう行ってしまうの。」
「ああ。マロン帝国を早く作りたい。」
「どこかあてはあるの?」
「ああ。オーサカというところを見つけた。あそこがよさそうや、と思ってる。」
「遠いの?」
「ちょいとな。」
「ふうん。」
マロンはミクを見つめた。
あんなに激しい戦いをした女とは思えないほど華奢な体をしていることに気がついた。
抱きしめたら、壊れそうな位に細い体だった。
「一緒にくるか?」マロンはポツリと言った。
ミクは驚いてマロンを見た。2匹は見つめ合った。
ミクは静かに首を振った。
「ごめんなさい。」
「ギャグや。ジョーダンや。さあ、出発するとするかいな。」
マロンは荷物を背負うと出ていった。
ミクは黙って見送った。マロンはきっと優しいパパになれると思いながら。
ミクは、白い雪が小さな湖に落ちては溶ける様子を、安らかな気持ちで見つめていた。
もうすぐ新しい年がやってくる。来年もきっと、マーリングリスルの村は相変わらずの楽しい毎日に違いない。
ミクは大きくのびをすると、静かな足取りで村に帰っていった。
気の早い村フェレがミクに声をかけた。
「A Happy New Year!!」
(完)