1996 | |
★ 旅の始まりは「陳さん」からだった | 2/16 |
★ 香港→マカオ→中国 三国間移動 | 2/17 |
★ コミュニケーションツールとしての漢字 | 2/17 |
★ クラクションの街、珠海 | 2/17 |
★ 広東料理の工夫 | 2/17 |
★ マカオの夜は「大小」で決まる | 2/17 |
朝から雪が降っている。旅の出発にはもってこいの天気だ。大宮駅で今関と待
ち合わせ、成田空港へ。
空港では
様々な手続きを楽しみ、ユナイテッド航空801便に乗り込む。18時05
分、香港へ向けて離陸。
ぼくは早速、香港の本を取り出し、広東語を発音しながら、覚え始めた。隣に
座った女性が、ちらちらとぼくを見ていたが、やがて、「良かったら教えましょ
うか?」と言ってきた。これをきかっけに話をしてみると、この人の名は陳(チェン)さん。中国珠海(マカオの隣)の出身。現在は日本男性と結婚し、日本に在住し、
中国系日本企業で働いている。今の時期は、中国の正月休み前なのでこれから帰
省するそうだ。陳さんは流暢に日本語をあやつる。
ぼくたちの会話は、広東語の発音練習から始まって、国際結婚は大変だ、中国
人は他の国に行くことができなくて嫌だ、香港のお薦めの食べ物・観光地、周富
徳・アグネスチャンが何故日本語が下手なのかなど、大いに盛り上がる。もの凄
く話好きの人で、食事のとき以外に話が止まることがない。
「良かったら珠海に来てください。」と言われ、ぼくたちは「絶対に行きます
。」と厚かましく答える。普通なら社交辞令に終わるが、本当に行くので、香港
からの行き方を教わり、陳さんの電話番号もしっかり教えてもらう。
しゃべっているうちに香港に着いていた。
小雨の香港啓徳空港、現地時間21時40分到着。空港の入口には香港の人がぎっしりと
並び、出てくるぼくらを凝視する。有名人にでもなった気分だ。陳さんの友人、
麦(マック)さんも迎えに来ており、的士(タクシー)に相乗りさせてもらう。
ネオンできらめく香港の街を走り、ぼくたちが泊まるホテルまで送ってもらう。
しかもタクシー代は陳さん、麦さんのおごり。不安になりがちな、夜の見知らぬ
国で、親切にしてもらいありがたかった。陳さんに再会の約束をし、ホテルへ。
旅の出だしは上々。
正月休み前で、マカオ行きフェリーのチケットを取るのは難しいと、陳さんに
言われていたので、朝早起きして、出発。ホテルを出てタクシーを拾う。朝の香
港の表情をタクシーの中から見物。市場には山積みにされたミカン、吊り下げら
れた豚の丸焼き。タクシーは前にいる歩行者を、クラクションで追い払いつつ走
る。フェリー乗り場で、何とかマカオ行きのチケットをget。香港の人が話す英
語は、広東なまりの抑揚があって聞きづらい。高速フェリーに乗って、早々と香港を後にする。
フェリーに揺られて1時間。マカオ入国。タクシーでホテルへ。ホテルの広い部屋に満足した後、
マカオの街を散策
する。バスコダガマの像、Jリーググッズを売る店、犬のトイレ、クレヨン
しんちゃんの服を着る少年などを見る。香港に比べてまったく静かです。
バスに乗って中国との国境、開門に向かう。バイクが路上に溢れて停められて
おり、交通渋滞を引き起こしている。「おい!白バイ。走ってるんなら少しは取
り締まれ。」取り締まってもキリがないんだろうな。帰省の人でごった返す開門
で手続きを済まし、マカオ出国。1日入国ビザを発行してもらい、歩いて中国へ
向かう。中国国旗が風に翻る。
中国入国。1日で三国間を移動。香港、マカオを素通りしている、、、。1日でパ
スポートにたくさんスタンプを押された。
香港、マカオ、中国とも、それぞれ言語・通貨は違う。出入国もいちいち面倒
だ。もともと中国という一つの国であったのが、他の国の力で分割され、文化ま
で変わってしまっている。国の力というのは強大だ。
中国に入国し、珠海に着いたぼくたちは、まず陳さんに電話することにした。
有料で電話を貸している店があるので、電話を借りることにする。店の女性と少
し話して、英語が全く通じないことが分かったので、身振りで電話を借りると伝
える。今関が陳さんの家に電話。ところが、陳さんは不在らしく、陳さんの母親
が出てくる。この人も中国語以外通じない。「ジャパニーズ、ジャパニーズ。陳
、陳。」と今関は連呼するが、当然会話にならず、あきらめて電話を切る。さあ
、どうしたものかと作戦会議。電話を貸してくれた店の人に、代わりに会話して
もらおう、ということに決定。
口ではコミュニケーションできないので、中国人と日本人の共通文化、漢字を
用いて筆談する。最初はうまくいかなかったが、少しずつ伝わりだす。高校の頃に習った
漢文の原理だ。
「我 要 電話 陳」
「我 要 会 陳 珠海」
「我 知 陳 家 存在」
「我 要 待」
など書き並べ、陳さんの家に再び電話してもらう。何度かのやり取りで、陳さ
んと待ち合わせるところまでこぎ着けた。中国の人が書く漢字は、筆記体状態で
とても読みにくく、苦労したけれど楽しかった。両国の文化としてしっかり息づ
いている漢字の凄さ、を感じたひとときだった。「あなたたちはどこから来たの
か」という意味のことを書かれ、「東京」と書いたら「おー、トンケイ!」と感
心されてしまった。
珠海・・・チューハイ。マカオの隣に位置する中国の都市。経済特区として、
ある程度の自由経済が認められている。
さて、陳さんとの待ち合わせまで時間があるので、珠海の街を見物することに
しよう。まずは腹ごしらえに、中国3000年の味、
ラーメン
を食べる。麺が日本とは違いクニュクニュし、全体の味も変わっている。
珠海の街を散策する。明日が中国では大晦日なので、街は人々で騒々しい。正
月の縁起物はどうやら、小さなミカンがたくさんなった木と、桃の木らしい。み
んな買って持って帰っている。市場では、ヘビや鶏、その他不気味な動物等、様
々な食材、生活用品が売られており、すごい活気だ。興奮する。
この珠海の街、来たときから感じていたのだが、とにかく車のクラクションの音が鳴り止まない。何かあると、必ず運転手はクラクションを鳴らす。何か
なくても、とりあえず鳴らす。歩行者は車の走る道路を平然と横切り、車は必ず
、「おらー、行くぜー。」という感じでクラクションをこれでもか、これでもか
、と鳴らして突っ込んでいく。みんながみんなそうだから、あちこちで「ブブー
、プップー」とやっているのだ。小さな子供が平気で道路を横断していく。見て
いて飽きない。ぼくたちも道路横断に挑戦するが、なかなかタイミングが難しい
。他の人が渡るときに、その人の後ろに着いて急いで渡る。もちろんクラクショ
ンを鳴らされた。
陳さん、陳さんの兄さんと待ち合わせ、車でレストランへ。広東料理をご馳走になる。
広東料理の食材の種類の豊富さに驚いた。豚の頭、鳥の指、ハト、スズメ、カ
エル、虫、シャコ、グロテスクな生き物。日本ではお目にかかれない物が並んで
いる。これは、多くの人口を抱え、様々な歴史を経て来た中国という国を表して
いるのかもしれない。食物に困ることも多く、食べられそうな物は全て食べられ
るようにする。少しでも食べられるところがあれば、美味しく食べられるように
工夫をする。その味付け、調理といった一つ一つの工夫が、広東料理を築いてき
たのだろう。
実際に、こんなの食べられるの?という物がとても美味しい。特にハトは脂が
のっていてうまい。陳さんが言うには、中国人が日本に来て、公園などでまるま
ると太ったハトを見ると、唾が湧いてくるそうだ。シャコやスズメやカエルも美
味しくいただく。日本では食べられない味で満腹になり、中国人の食への工夫、
こだわりに感服した。また、普段ぼくらを囲んでいる日本の食材の豊かさも感じ
た。
陳さんは相変わらず、しゃべりまくる。対照的に陳さんのお兄さんは寡黙で、
ニコニコしながらぼくたちにプーアール茶を注いでくれる。おしゃべりな妹にこ
の兄あり。家族でも一人しゃべっているのは陳さんだけだそうだ。
しばらく広東語を教わり、
陳さんたちと記念撮影
をし、国境まで送ってもらう。陳さん兄妹の、至れり尽くせりのもてなしに
、ぼくたちは大感謝。「ロゼ(ありがとうの意)!」と言って別れる。また日本
で会いましょう。
中国を出国し、マカオに戻る。クラクションのないマカオがとても静かに思え
る。バスで東洋一のカジノ、
リスボアホテル
へ直行。ネオンがきれいだ。荷物を預け、金をチップに換え、人々の熱気が
溢れるホールへ。しばらく観察し、雰囲気を楽しむ。庶民の人ばかりで、気軽に
入っていける空気がある。
いろいろなギャンブルがある中、最も分かりやすい「大小」だけをやることにした。大小のルールは簡単。サイコロ3つをディーラーが
振り、その合計が4〜10なら「小」、11〜17なら「大」。ゾロ目は特別。
うまい具合に「大大大大大大大小小小小小小小」とか、「大小大小大小大小大小
」のように規則的に目が出るときがあり、仕掛けがあるのだと思う。そう考える
とディーラーがミステリアスに感じる。
初めて賭けたときは興奮。徐々に場の雰囲気に馴れてくると、「深夜特急」の
沢木耕太郎のように、ディーラーがサイコロを振る機械の音で判断しようとした
り、規則性の後のゾロ目を狙ったりする。「さっきまで小だったから、次は大か
?いいや、また小だ。」いろいろ考える。予想が的中して勝ったときは心の中で
ガッツポーズ。ぶっきらぼうなディーラーの雰囲気がまた良い。賭けている間、
ずっとドキドキし、場の雰囲気に酔っていた。
時間はすぐに過ぎ去る。結果は、利益も損もなし。これだけ遊べてイーブンな
ら大満足。「大小」というシンプルで奥が深いギャンブル、そしてカジノの雰囲
気に酔った夜であった。
真夜中にホテルに帰り着き、盛りだくさんの一日も終了。
明日は香港だ。
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