向山貴彦・著 宮山香里・絵

わりと知られていないかもしれませんが,とても良い作品です。

しかし「それって,本当は恐ろしいグリム童話みたいなやつ?」と

友人に言われたときにはショックでした・・・。みんな童話っていうと

そういうのしか頭にないみたいですね・・・・・。れっきとしたファンタジーです。

「指輪もエンデもナルニアもゲドも勾玉もハリポタも読んだ!」

「他に面白いファンタジーはないの?」

といった方々。一押しです!!絶対読んで損はなし。

分厚い小説なのに挿絵も多い。クローシャの地図・地域と文化も絵入りで説明。

ファンタジーファンとしてはお得です。

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その世界は,太陽と月,星が見守る大陸,「クローシャ」。

そこには,「妖精の日」という話が伝わっています。

・・・・・主人公の少女ペチカは,貧しい村トリニティーに住む孤児。

人のことなんか考えていられない,生きるに精一杯の生活。

毎日村の皆からいじめられ,お母さんの写真だけが大切なもの。

教会の塔に上ったペチカはなんと「妖精」のフィツに出会ってしまい,

・・・・・そこから彼女の「果てしない旅」は始まったのでした・・・・・

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★ここからは感想です★

最初,童話,という題名から考えられないほどシビアな世界のなかで

生きるペチカを見て,可愛そう,とかなんてひどいんだ,とか思いました,が・・・・

やっぱりペチカも,やさしい普通の女の子だったんですね。

ペチカがひとを愛せなかったのは,愛してもらえなかったでしょう。

人を疑ってばっかりいるように見えましたが,良く見ると,信じて

だまされているのが多いですし。

後半,たくさんの人々に出会ったペチカが,成長し,

「やさしくなりたい」というのを見て,感動しました。

フィツについては(・・・それにしても,この世界における妖精って

「天使」みたいな存在で,三天信仰のモチーフなのに,なんで

ディーベ疫病を運ぶ存在にされちゃったんでしょうね・・・?)

最初お人よしでなんか個性ないなーという印象があったのですが,

後半のフィツはワガママになってみたり正義の味方になってみたり,

実は甘党だったり,忙しくて面白かったな,とか思っています。

しかしフィツの言うとおり,いつかは皆消えちゃうけど,そのかわり

変われるから,あきらめてはいけない。

ルージャンは,いろんな意味でかっこいいですけど,なんていうのか,

実は登場人物の中でいちばん消極的かつマイナス思考だったりして,

と感じたりしました。もっと勇気を出せ!って。

童話物語には,いろんなメッセージが詰まってます。

生きることと死ぬこと。本当のやさしさ。可能性。あらゆる面での人の力。

わたしが最も印象に残ったのは「ヒト同士のつながり」。

そして「誰だって,自分が思ってるよりはすごい人間だよ」。

ここでは語り尽くせません。しかし,強いて言うなら,

「わたしの読みたかったのは,そして書きたいのは,こんな物語だ」

それほど,この物語から受けた衝撃は,大きいものでした。

これほどまでに泣き,読んだ後さわやかな気分になれ,

元気が沸いてくるファンタジーは他に・・・あるけれど(M・エンデとか)

煽り文は大げさではない,とわたしは思います。(でもJ・クロウリーて誰?)

余談ですが,オムレツが食べたくなります。ので,

お母さんに作ってもらいましょう(^-^)。

(さすがにクルスクスの種とポムル炒めを入れるのは無理でしょうが・・・。)

自分の中では,二十世紀一のファンタジー。

ついに文庫化!しかも一巻には設定資料が!

7月7日,ついに文庫版入手。

 

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