センチメンタリズム
18世紀70年代後半に生じ、その世紀の終わりにかけてロシア文学に新しい文学の傾向--センチメンタリズムが発展する。
ロシアでは、文学傾向としてセンチメンタリズムが現れた時期、西ヨーロッパ諸国とは別の社会的政治的事情があった。経済的政治的権力は、これまで通り貴族地主の手の中にあった。それ故に、西方諸国のようなブルジョワジーではなく、貴族階級が新しい文学傾向の主な創始者となった。人々をひどく驚かせたプガチョフの乱は、地主と農奴農民との間の矛盾がいかに大きいかを示すことになり、貴族の作家たち--新しい文学傾向、センチメンタリズムの代表者--は、自らの作品の中で、これらの激しい対立を和らげようとし、自らの運命に十分満足した「感じやすい農民(чувствительные поселяне)」の心的経験を描いた。ロシアセンチメンタリストたちのそうした芸術的表現によって、読者の関心は、心的経験の範囲内での社会生活の世界から、道徳教育による問題の解決への向かうようになった。彼らは、すべての人々は社会的な状況にもかかわらず、最も崇高で美しい感情を生じさせることができるという考えを発達させた。しかし、一度そのようになれば、社会的に関係するすべての人々が同じ好みを享受するわけではないことに悲観したり激昂したりする必要はない。どんな社会的身分にあっても、人は自らの精神世界で幸福になることができる。こうして、彼らは様々に「農民でさえ愛することができる(и крестьянки любить умеют)」、自然の美を歓喜することができる、そして農民の中にも心の寛い人がいることを強調する。「いかなる状況にあっても、人はバラの花に喜びを見いだすことができる。(Во всяком состоянии человек может найти розы удовольствия)」--とロシアセンチメンタリストの旗手、Н.М.カラムジンは主張した。もし、農民たちに人生の喜びが理解できるのなら、それは国家や社会制度の変革を通してではなく、人々の道徳教育による社会全体の安寧福祉への道が横たわっている。
どうして俺たちが歌わないことがあろう、俺たちは幸福だ ロシアセンチメンタリズムの独自性というのは、このように貴族的保守的なものであった。
農奴農民自らの生活、貴族地主との真の関係を、農民自らが創造した文学で表現した。残念なことに、そうした作品は私たちには少ししか伝わっていないが。当時の農民は文盲であったし、農民の作家にとっては支配階級に属する印刷所で書物を印刷するなどということは不可能であったから。貴族や権力による彼らの作品の迫害がこの原因を説明するだろう。しかし、保存された作品は、生き生きと真に農奴にされた多くの農民の生活や気分を描写し、民衆の中に潜んでいた貴族地主への階級的な憎悪を表現豊かに物語っている。
あぁ!悲しみの我ら農奴、主人たちのために生きる!
「嘆き(Плач)」は、こう始まる。農民の生活を描きながら、著者は彼らの完全な無法状態について語る。彼らは殴打され、むち打たれる。たとえ地主貴族が「召使いを殺しても(умертвит слугу)」、その場合でも、彼(貴族地主)は罪に問われない。「奴隷のそうした密告を信じることは禁じられていた(холопьему доносу и в том верить не велено)」が故に。農民の労働によって得られたすべてを貴族地主は自らのものとして奪い取る。「しかも、彼らを怒らせると、父の遺産さえも奪い去る(а когда прогневишь их, так отымут и отцовское наследство)」「移住させられたものすべてを通せ--惨めな生活はそんなものではない(Пройди всю подселенную -- нет такова житья мерзкого!)」--「嘆き」の著者は自らの結論をこう導く。
ネヴァ川の水のように、彼らの権力は増大する 法も裁きも主人たちは考慮せず、それがために至るところ不正が横行する。たとえ主人が「10000(ルーブル)盗んだとしても(украдет хоть тысяч десять)」、知事は主人を正しいと認め、「たとえ主人の1グロシュ銅貨(2コペイカ)を盗んだとしても、そのものはシラミのように死刑の命が下される(а если украдет господский один грош, указом повелят убуть, как вошь)」「貴族の特権に関する勅令を(Указом о вольности дворянству)」利用して、地主貴族たちは自らの領地に閉じこもり、何もぜず農奴たちを苦しめるだけ。
残忍な眼差しで俺らを見つめ しかし、「嘆き」の中には、不幸な生活への不満だけでなく、社会の不公平に対する抗議が響いており、自由への夢、暴君貴族地主への民衆の報復の秘められた夢とが表現されている。
あぁ、自由が我ら愛しい兄弟たちのものになったなら、
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