ITと農業土木

T. 始めに

 最近ではITという言葉が至るとろに出てきており、どの業界にいてもITの言葉の意味を知らない者はいないであろう。しかしながら、そのとらえ方には様々で、インターネットをすることがITであったり、これを利用した商品取引がITの目的と考えられているケースもあるように思う。最も私自身ITを十分理解していないので、巷で解説されているITの正否を論ずることが出来ないが、ITが人間社会に及ぼす影響については、どちらかというと悲観的なとらえ方をしている方である。とは言うものの、2005年には日本は世界のITの最先端国家となるべく進んでおり、ITと無縁に生きていくことは出来ないと思われるので、仕事の上で直接影響のある農業土木の分野について、ITとの関わり合いを考えてみることとする。

U.国政の目指すIT革命

 森内閣は日本新生の最も重要な柱を「IT戦略」として、IT社会の実現こそが、二十一世紀の時代にあった豊かな国民生活の実現と、我が国の国際競争力の強化を実現するための鍵とした。平成12年11月、IT戦略会議において、IT基本戦略が策定され、超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策、電子商品取引と新たな環境整備、電子政府の実現、人材の育成の強化を重点政策とした。政府はIT革命を経済発展の為の起爆剤と考え、21世紀の豊かな社会の創造のため極めて重要であると考えており、IT革命が我が国の経済社会にもたらす具体的は改革として、下記の内容を上げている。(この方針が小泉内閣にどう継承されるかは不明であるが)

1.社会全体の効率性を高め、高コスト構造を改革

2.ネットワーク社会の改革、新たな市場の創造(ベンチャー企業等)

3.家事・育児・介護等の軽減、テレワーク・SHOHO等による経済社会活動への参加機会の拡大

4.芸術・文化の創造力・発進力の飛躍的向上

5.地域コミュニティーによる豊かな暮らしの実現

V. 農林水産分野の目指すIT

 農林水産省は平成13年4月に出した「21世紀における農林水産分野のIT戦略」のなかでITに関する重点政策分野として下記のような内容を示している。

1. デジタルコンテンツ、アプリケーションの充実

(1)企業的経営の支援

  • 意欲有るものが創意工夫を凝らし、企業的経営を展開できる環境整備
  • 地域の生産者と消費者の間で情報ネットワーク化を図り、多品種少量生産という我が国農業の特徴を生かした生産方式の活用及び地産地消費システムの構築
  • 農業者の「経験と勘」のデーターベース化、現場で発生する農業データーを簡易に入力するための現場自動入力システムの開発、携帯端末(iモード等)の利用
  • 環境と調和した自然環境型の農林水産業の確立のため、リモートセンシング技術の導入
  • GIS.センサー等を活用した土壌、作物の状態の精密な把握による栽培管理(適切な施肥、農薬の散布を行う、精密農業の推進)

(2)電子商取引の推進と消費者への情報提供

  • 流通コストの削減、消費者の的確な商品選択機会の増大
  • 消費者ニーズに対応した食品の生産・流通体制の整備

(3)農山漁村地域の利便性の向上

  • 遠隔健康管理システムの開発等による健康・福祉サービスの向上
  • 農山漁村と都市との交流を促進するための情報提供アプリケーションの開発(携帯電話やカーナビ等を活用した情報提供システムの開発)
  • 衛星やGIS等を活用した防災情報システムの整備

(4)資源管理の高度化

  • 農林水産業の持続的な発展や多面的機能の発揮のため、農地、森林、水産資源等の管理の高度化を図るリモートセンシング技術の開発

2.農山漁村地域におけるITインフラの整備

  • 都市と農山漁村とのデジタルディバンド(情報格差)の是正
  • 民間主導による整備が見込まれにくい地域における公的支援措置による整備
  • 既にCATV網のある地域の施設の高度化による対応

3.情報リテラシー(情報の利活用能力)の向上

  • 農林漁業者の情報リラクシー向上へのインセンティブの確保(もうかる、楽しい、魅力あるコンテンツの整備)
  • 情報リテラシー向上のための指導人材の確保
  • 高齢者が使いやすい機器の開発

W 農林水産分野のIT活用の実例

  1. 生産者と消費者の情報ネットワーク化を目指した例

 消費者が稲作農家と契約し、インターネットの画面で契約した田んぼの稲作の状況を確認でき、希望すれば実際の農作業も体験できる。契約した消費者は契約水田からとれた「コシヒカリ」を一区画あたり60キロ受け取れる。(

トピックス参照) 関係者は、中山間地の水田の役割や米作りの重要さをインターネットで多くの人に知ってもらうことを期待している

 2. 流通コストの削減、消費者ニーズの把握を目的とした例

 販売店が生産者に店舗スペースを提供するような形態をとり、生産者は自らの名前の書かれた農産物(主に野菜)に希望の販売価格をつけて、陳列、販売する。売れ行きの状況は随時コンピューターで集計され、その内容は畑からでも携帯電話で確認できる。(NHKテレビより)このため、必要量に応じた出荷が可能であり、新鮮な農産物の供給にもつながる。このような流通システムが普及した場合、生産方式も多品種少生産にかわり、地産地消費の傾向が強くなることが予想される。

3. IT利用の精密農業を目指す例

 東京農工大学とオムロンが開発した「リアルタイム土壌センサー」や三菱商事の衛星画像処理技術を使い、必要な施肥、農薬散布量などをはじき出して@農作業の軽減A経費削減B環境保全などが出来る農業を目指すための実証実験などをする研究会が、自治体、JA、民間企業が一体となって発足した。(

トピックス参照)

X. IT社会における農業土木

 以上述べてきた国の目指すIT革命と、それに基づく農林水産省の施策方針、農業分野でのIT活用の実例から、IT社会を目指す過程及びIT社会が確立された時点での農業土木の関わりかたについて考えてみる。

1. ITインフラ整備への関わり

農林水産省は平成9年より、営農指導の合理化、都市と農村の交流促進、農産物の高付加価値化を図るため「田園地域マルチメディア・モデル事業」で農山村地域におけるCATVの整備を進めてきた。インターネットはCATV内は高速であるが、外にでるとNTTの回線容量に支配される。NTTは都市部から順次、現在の銅線を光りケーブルに換える予定でいたが、携帯電話の普及や他社との競合で固定電話部門の収益が減ったことを理由に、過疎地域への光ケーブルの敷設をしない方針を打ち出している(農業土木学会誌2001/3.P19)前記V.2に示した「公的支援措置による整備」は、こういった傾向への対応とも考えられる。農村と都市を結ぶ幹線光ケーブルの敷設については、幹線水路系に設ける「水管理ネットワーク」の光ケーブル利用が提案されている。現在、水資源開発公団は水路施設の遠隔集中管理のため、愛知用水二期事業で幹線水路に光ケーブルを敷設する工事を進めており、これらの光ケーブルの空き容量を使用する事が円滑なITインフラ整備の推進につながる事になるとの考え方である。先人たちが農地を潤す水を運ぶために築き上げてきた用水路は、将来は農村の生活を潤すための情報を双方向的に運ぶ施設としての機能も持つようになるものと予想され、今後の水路の改修計画においても、この事への配慮が必要になってくると思われる。

2.流通面での関わり

 ITにより電子商取引等、新しい形の生産物の流通形態が生まれることが予想されるが、ITは情報は運べても物は運べない。よってITによる流通革命には、輸送のための基盤整備、現時点で最も有効な道路整備が不可欠になってくる。この道路整備は単に輸送のための施設としてではなく、ITによりつながった都市と農村の交流関係を具体化するためにも、地域の自然環境や景観の特性を生かした施設としての整備が必要になってくる。ただ、この道路整備については、農道整備として対処すべきか、一般道路として対応するのかの必然性が明確でなく、現時点でも大規模農道整備の計画では県道や国道整備との競合が有り、今後の予算配分の行方に委ねられる問題と思われる。

3. 生産方式の変化への対応

 生産者と消費者が情報ネットワークで結ばれることにより、生産者は消費者のニーズに合わせた農産物を供給する事が必要になり、少量多品種の生産方式が必要とされる。大量生産による生産性の向上と所得増大を目指してきた日本の農業のために、農業土木の技術は機械化に有効な大規模ほ場の形成をめざしてきたが、特に畑については、施設栽培を前提とした区画割りや、生産物の迅速な搬出に必要な道路配置等を考慮した整備方式を考える必要があるように思われる。また生産活動に直接ITを導入して行う精密農業においても、コンピューターのはじき出した必要水分を適切に供給するためには、安定した水の供給出来る畑かん施設が必要であり、現在まだ整備率が18パーセントと言われている畑地かんがいの整備も早急に行わなければならないIT対策であると考える。

Y おわりに 

 経済の起爆剤とされたIT革命もアメリカのITベンチャーの株価暴落により、ビジネスとしてのITの限界を知らされた。国の進める急速なIT政策には、乗り遅れないことのみを目的に行き先の分からない列車に駆け込む国民の姿が多々あるような気がしてならない。農林水産分野のIT革命についても、強要された必要性により、その政策方針が決定された感がある。しかし、今後ITが社会経済に与える影響が大きいことは否定できず、農林水産分野にとって有益な技術であることも明らかである。ただ、ITは目的の達成を迅速化するが、プロセスでの検証や、目的の意味を考える余裕を奪ってしまう恐れがある。今後、農業土木事業においても、ITとの関わりは次第に増えてくるものと予想されるが、ITのための農業ではなく、農業のためのIT活用となるよう、技術者として適正な判断をもって望むことが必要であると考える。