特殊機械兵隊・外伝/ゼクセリアムの蒼

第6話


「保護者付きのデートしてる気分だよ」

カイトは、目玉焼きの縁をフォークでなぞった。目の前にシノアがいるが、他のメンバーも勢揃いしている。

「あら、わたしは一緒に食事できるだけで、充分嬉しいけど?」

「謙虚だねえ」

戦闘機部隊と戦車部隊と、カイトたち70人ほどが合同で朝食を取っているので、他の人の為にもゆっくりはしていられない。

「カイト、今日の予定は?」

と、アスティ。

「特に無いですよ。出撃命令が出たら、行くくらいで。あとは格納庫で、ミーティングと戦機の補修と、午後から会議だっけ」

「ああ、会議ね。司令部との。そんなのがあったっけな。ゾルドム、そっちは?」

「うち(戦車隊)は、哨戒に出るよ。アスティのとこ、哨戒当番は?」

「明日からだとよ。今日は機体整備かね」

こうなると、デートどころではない。

「カイト隊長、気の毒〜」

アイントンが含み笑う。

「聞こえると、鼻つまみの刑食らうぜ。ところで、ゲーリー秘書官、どこ行ったのさ?」

と、モーリス。

「回覧取りに行って、まだ戻ってないのかな」

「でも、リクリナさん、いるし」

と、カジオリ。ベルリンの向かいに、髪の長い女性が座って恥ずかしそうにベルリンと話している。

「ほら、昨日、顔見たろ? 彼女、リクリナさん。戦車隊の秘書官で…回覧は、リクリナさんと同じ所に取りに行くはずなんだけど…」

きょとんとしているフレディに、リースが説明してくれる。言っているうちにゲーリーが、ダイニングホールに現われた。

「リクリナ、ヒンゼック」

ゲーリーは、各隊の秘書官を呼ぶ。リクリナはあまり未練も無く立ち上がり、戦闘機部隊の秘書の青年も、すぐにゲーリーの所へ行く。

柱の陰で3人は、何か言葉を交わした。

「あ〜あ。秘書達が、朝メシ中止の相談してるよ…」

と、カイトがぼやく。秘書3人は解散し、それぞれ自分のボスの所へ行く。

「…………」

しかも、耳元で囁く。

「ったく、ついてないぜ! 俺の朝メシ、持ち帰りにしておいてくれ! カイト、ゾルドム、先に行くぞ!」

アスティ隊長が、怒鳴りながら出て行く。

「俺の朝メシも、持ち帰り頼む」「わたしのもだ」

カイトとゾルドムも、同じように言って、さっと出ていってしまう。

「どうしたのよ?」

と、戦車隊のグァーリ副長が声をかけめる。

「説明します」

秘書の中では、年齢、階級とも一番上のゲーリーが、軽く手を上げる。

「インシヴィ(連邦側第9惑星)の宇宙域戦闘区間で、激しい戦闘が行われているようなんです。まだ詳しい情報はないんですけど。でも、そうとうヤバそうですよ」

「そっちに招集される可能性は?」

「まだ分かりません。少なくとも、補給艦が戻る予定は延期です」

「ってことは、護衛がてら赴く可能性は大、なわけやね」

と、戦闘機隊の副長が、溜息をつく。

「隊長クラスが、司令室に招集されています。予定と指示は追って出るそうです。我々秘書官は会議に出ますから、後のことは各副長に御願いします」

「了解。お前らの朝メシも、持ち帰りにしととく?」

「御願いします」

彼ら3人の秘書は、それぞれの副長にメモを渡し、走り出ていった。

「ほんと、情報がないよ」

ベルリンは一枚だけのメモを見て、溜息をついた。

「とっとと朝メシ食って、待機しといたほうが良さそうだな。おう、休学組。悪いけど、隊長達6人分のメシ、持ち帰りにしてもらってくれ」

「了解」

リース達が立ち上がり、フレディもあわてて立ち上がった。

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集まっているメンバーの真ん中に戦闘区域の宇宙図が映し出され、司令室には、重苦しい空気が流れる。

「壊滅、か… こっちもやばいな」

ゾルドムが、呟く。ゼクセリアムとインシヴィを結ぶ空域はMMP合意軍にほぼ掌握され、補給艦も、これではインシヴィに戻れないどころか、大気圏外にも飛び立てない。

「補給艦の到着後だったのは、不幸中の幸いだが」

と、まだ若い本隊司令官が溜息をつく。

「インシヴィ領空に展開しているMMP軍がゼクセリアムに降りてくる前に、目の前の敵を叩いておく必要がある」

補給艦が通ってきた道筋にある連邦軍の部隊が、赤く点滅している。それを覆う緑のライトがMMP軍だ。

そこは連邦軍の領域で、いままでそんなに大きな戦闘になったことはない。

「どうしたものか、本部も混乱しているし…」

この頃になると、他の場所に駐留している部隊からも司令官クラスの士官が次々に到着し、会議室の席が埋まっていく。

「MMPは、この大軍をゼクセリアムに下ろす気じゃないだろうな?」

と、誰かが呟く。

「としたら、大変な事になる。今までのような小競り合いじゃ済まないぞ」

司令官が、また溜息をついた。

「状況によっては、戦闘機部隊に行ってもらうしかないが、現時点では考えてない。この戦況は、目の前に居るMMP『ゼ』侵攻軍にも伝わっているはずで、この機会に乗じて勢いをつけ、我々に攻撃してくる可能性もある」

映し出されていた図が、ゼクセリアムの戦闘域のものに変わる。

MMP軍と連邦軍の力はほぼ拮抗しているが、カレウラの供給量は、MMPのが上である。むこうは、使い捨てに近い。

インシヴィや、ゼクセリアム上空の連邦軍基地からの補給路は絶たれたが、MMPの支配に抵抗しているゼクセリアム・ゲリラから、食料や燃料の提供に問題はない。

だが、カレウラの部品だけは、そういうわけにはいかない。

「ホルディオン隊長。カレウラのほうは、どうか? 14機で、どこまで出来そうだ?」

司令官に話を振られ、カイトは肩を竦めた。

「どこまでって、出来るものならどこまでだってやりますよ。この前大破したカレウラ4番機が回収できているから、それを使えばまだ部品に関してはそう切迫した状況ではないと、整備部からは言われてます。それで足りないような場合は…」

カイトは、溜息をついて全員を見回した。

「それで足りないような最悪の場合は、15番機を使います」

「使うというのは?」

「新人よりベテランが使ったほうがいいし、いざとなったら、部品をバラして補充に当ててもいい。そういうことです。正直なところ、王子様を抱えての戦闘は、我々にも負担になる」

「補給艦には、わざわざヴィムンから来ている護衛兵士も、20人ほど乗っている。それも、考えなければならん」

1号補給艦の艦長が、うんざりした顔を左右に振る。

「申し訳ないが我々は、そうとう足手まといになりそうだ」

「来てくれただけで、充分感謝している」

と、司令官は苦笑いをもらす。

「だが、軍需工場のあるペタンは、早急に解放しなければならなそうだな…」

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格納庫…

「おい、エム。悪いけど、手ェあけられるか? カイトがお呼びだ。ロダ(ベルリンの相棒)、グリンシャー、あと頼む。俺とエムは、重戦機3部隊と整備部の合同会議に行ってくる」

と、ベルリンは、電話を置いて振り返る。

「どんな状況だって?」

と、グリンシャー。みんなも、ベルリンの回りに集まってくる。

「かなりまずいってさ。会議のほうもせいぜい30分ほどで切り上げて、全員に説明するって言ってる」

「カレウラ、出られるようにしといたほうがいいかな?」

「急ぐ必要はないと思うね。戦車隊の茶室で会議するっていうから、何かあったらそっちに頼む」

ベルリンとエムは、格納庫を出た。

―――

戦車隊のミーティングルームは、追加で呼ばれた者を含め、13人ほどになる。

「朝メシ前に、招集されたのか?」

持ち帰り用として、サンドイッチに処理された朝食を食べるカイトたち6人を見て、整備部のチーフが気の毒そうな顔をする。

「メシの前じゃなくて、メシの最中ですよ。呼ばれたのは」

と、ゾルドム。

「持ち帰りになっても、まっとうなものが食えるんだからまだいいよ。戦闘激しくなったら、コクピットでチューブになるぜ」

と、カイト。

「カレウラと戦車は、コクピットで食事できるからまだいいよ」

と、アスティ。戦闘機の中では、飲水だけしかできない。

「どういう状況なの?」

ベルリンは、ゲーリーに囁いた。司令部での会議に出ていた各隊長は、食事しながら雑談を続けているが、後から呼ばれた者はそういうわけにもいかない。秘書たちに群がって、食事の邪魔をしないように状況を聞く。

ゲーリーは、広げた端末の液晶を、ベルリンとエムに向けた。

「こんな感じです。我々3部隊の動向は、これから決めるんですよ」

「インシヴィは、どうなったんだ?」

「会議の終わりには詳しい状況も大分入ってきましたけど…ちょっとね」

ゲーリーは、中途半端に答えてパック入りの牛乳のストローを吸った。

「あとこれ。承知しておいてください。カイト大尉が大英断ですよ」

15番機の扱いが、液晶に映る。

「…本当に、大英断だな」

「これを部隊内でどう扱うかは、あとで決めるつもりなんだと思います」

ゲーリーは紙袋を丸め、空になった牛乳のパックの中に、ストローを押し込んだ。

「うまく、戦争が切り上がればいいんですけどね。みなさん、食べ終わったようなら始めたいんですけどね、よろしいですか」

「待って、あと一切れ…」

「ジュース類はもう、飲みながらでいいですよ。司令部の会議とは違うんだから。食べるものだけ、とっとと胃に収めてください」

あちこちからもう少し待つよう声が上がるが、ゲーリーは黙殺して立ち上がり、ボードを拭いた。

ゼクセリアム攻防は、大きく動きだそうとしていた。


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