特殊機械兵隊・外伝/ゼクセリアムの蒼

第5話


にぎやかな宴会が始まる。

合流した特殊戦闘航空機隊・アスティ中尉率いる部隊と、昨日来た補給部隊を交えての久々の大騒ぎである。

「よーう、カイト!久しぶりだなあ」

クマのような容貌のアステイ隊長が、片腕を挙げる。

「もう、始めちまったぜ! シノアも居るぞ」

「ああ、明るくオープンな交際に協力してくれて、有り難いですよ」

と、カイトが受け答えている。

「シノア中尉は、カイト大尉の恋人なんですよ」

ムースのささやきに、フレディは振り返った。クードとナナイがいる女性達の輪の中に、髪を短く刈り込んだ、目立つ存在がある。

「あの、極端に髪の短い彼女。シノアさんです。あと、あっちの、ほら、髪の長い戦車隊のマーク付けている秘書制服の彼女。あれが、ベルリン大尉の彼女」

「恋愛、御法度じゃないのか?」

「そんなことはないですよ。あまり、おおっぴらにいちゃつかなければね」

ムースは、くすくす笑う。

「彼らはね、皆が一緒の時とか、ここのカフェでしか会えないから、オモシロイですよ」

「おうい。ムース、フレディ、来いや」

グリンシャーが手招きをする。

「アステイ隊長に挨拶しないとな」

「隊長、こいつが、うちの新人。フレディ・パステイラ少佐」

「へえ、少佐さん? あれだろ、ヴィムンの王子様」

「もう知ってるんですか?」

カイトが、呆れる。

「管理職やってる奴で、知らない奴はいないぜ? それにさっき、15番機に乗ってたろ?」

アスティは、そう言って豪快に笑った。

「若いのは無茶するか、怯えて出ないかのどっちかだから、すぐ分かったぜ」

「でしょうねえ…。フレディ、彼がアスティ隊長。階級は中尉。戦車隊と戦闘機隊は、一番世話になるから、メンツをしっかり憶えな。他はムースにしっかり教えてもらえよ」

言いながら、カイトはシノアに手を振る。

「俺は自分のことでとっても忙しいのよ… ほら、来た☆」

女性の一群が、やってくる。

「あれは戦闘機部隊の女性が中心のグループなんだ。奴等は強いぞ」

と、グリンシャーが囁いてくる。戦闘機隊の他、戦車隊の襟章や補給部のマークも見られる。まだまだ少ない女性兵士の集団だ。

「カイト隊長ぉ♪ 王子様のこと、私たちにも紹介してくださいよお」

「この彼? いやあん、まだボクちゃんじゃなあい〜」

「おまえら、もう酔ってるのかよ? 飲酒運転は良くないと思うぜ…」

「固い事言わないでくださいよぉ〜」

彼女たちは、すっかり出来上がってはしゃいでいる。

「お前らなあ、王子様にご無礼するなよ。怯えてるじゃねえか」

「分かりましたっ! それでは隊長っ! シノアさんとフレディ君を交換しましょうっ」

戦車隊の襟章を付けた女性が、ろれつの回らない口調で提案すると、わっと拍手が上がる。

「チュリー、お前、相当飲んでるだろっ」

「心配いりましぇんっ!」

「この酒乱がぁ〜」

「お、ここは随分華やかだな。ほうら、どんどん飲め!」

戦車隊の隊長、ゾルドムが、大きな酒瓶をテーブルに置く。

「ほら、飲みたい人はコップだしな」

シノア中尉と、戦車隊副長のグァーリ少尉が皆に声を掛ける。二人とも、髪を刈り上げていて、威勢が良い。

「ボクも、もう成人してるんでしょ」

シノア中尉が、フレディにもワインの入った紙コップを渡してくれる。

「しっかり食べないと、なくなるよ」

続けて彼女は、カイトにもコップを渡す。

「久しぶりね、カイト。来る前に、レイとデートしたのよ」

「レイとぉ? それは聞き捨てならないな。あいつとナニしたのさ?」

「戦闘機のコクピットに乗せてあげたのよ。すごく喜んでたわ」

「レイとシノアは、お似合いだったぜ」

アスティ隊長や他が、チャチャを入れる。

「嫉妬するなぁ、もう…」

一方で、女性兵士の餌食になりかけたフレディを、リースや他の、休学して参戦している面々が声をかけて助けてくれる。フレディとムースは、やっとの思いでその場を離れた。

「休学倶楽部ってのが、あるんだ。みんな、いろんな分校から来ててさ。過去問とか、融通しあってんの。フレディも、加わっておけよ。得するぜ」

モーリスホートが、人懐っこく笑う。

――人間関係上手くやりたきゃ、階級は忘れろ!

「あ、ああ。ありがとう。ヴィムン分校の奴も、いるのかな?」

「いたっけ?」

「いるいる。艦橋整備のバッシシが、ヴィムン校だよ」

そういえば、整備系で何人か、徴兵されてるって言ってたっけ…

女性たちのにぎやかな声が気になるが、フレディは振り返らないでおいた。


「なあ」

カイトは、ミーティングルームに最後まで残ったベルリン、グリンシャー、ヘゼウル、ゲーリー、そしてエム、ロダ、キス、スドーの、幹部の面々に話し掛けた。

「フレディの奴、ムースとうまくいくと思う?」

「ムースは、誰とでもうまくやれると思いますけど」

と、ゲーリー。

「今日の場合、怯えてムースに任せきり、っていうのが理想だったんですけど」

と、ヘゼウルが苦笑する。

「あんなに勇敢だとは思わなかったな」

「…それは、同感なんだよな。まあ、カレウラとの感応は確かにいいし、度胸もある」

カイトは、冷め切ったインスタントコーヒーを啜った。

「優秀だと思う。でも、どう使っていくか、問題だよ。適材適所を言うなら、アタッカーだよな…。だからと言って、アタッカーに据えるのも問題ある。荒治療が効いて、除隊してくれりゃ一番いいんだろうけど、いじめはしたくないしなあ」

「いじめは駄目だけど、王子様が補充されたって敵に知れるとまずいよ。今日ので、15番機はマークされただろうからな」

と、グリンシャー。彼は、溜息をついた。

「でも、ばれるとしたら、それはもう時間の問題だと思いますよ」

ゲーリーが、気の進まない様子でコーヒーカップを揺らす。

「ヴィムンの報道機関から、取材の申込みが殺到だそうです。ほら、我々、家族にカレウラとの写真を送ったりしているでしょう? カレウラの全身は写せないけど。で、王子のそうした写真を、新聞に載せたいって」

「…まあ、搭乗員とか整備士の、役得だけど」

と、ベルリンが苦笑する。

「士気向上には、役に立ちそうだな」

それはそうだ、と、カイトは賛成の溜息を漏らした。

「結局、俺も、俺たちも、本人も、無理なんだよ。少佐の階級は忘れる事が出来ても、王子様っていう事実は、きついよな。部長の苦悩がわかるよ」

「何かあったら、部長のクビが飛ぶんですか?」

と、ヘゼウル。

「飛ばないさ。同情が多いみたいだからね。だから情勢は、フレディのほうに不利だ。何をやっても、王子様のレッテルが付きまとう」

「……」

「そういう意味では、気の毒なんだけどね」

「でも、フレディは王位に関係ないんだろ?」

と、グリンシャー。

「皇太子である父親と、二人の兄王子の計3人が死なないと、王位は回ってこないそうです。だから、戦場にも来れたんでしょうね」

ゲーリーが、溜息をつく。

「…ヴィムンの為に、ね。他の休学組は、何を考えて参戦しているんでしょうね…」

「他の奴等より先に参戦できる事が嬉しいって、考えてるのさ。俺は、そうだった」

グリンシャーは、そう言った。

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「エム、お前のことがいっぱい書いてあるぜ」

部屋に戻ったカイトは、エムに手紙を渡し、ベッドに寝転がった。

「何です?」

「弟の、レイから来た手紙」

「読んでもいいんスか?」

「ああ。おもしろいぜ」

「……」

エムは元気ですか? 今度帰ってくる時は、エムも絶対に連れてきて。

彼が来る事は、お父さんに内緒にしておくから大丈夫。ばれたら食べられちゃうかもしれないものね。

でも彼、僕の事憶えているかな?

もうすぐ兄さんの誕生日だよね。すごいプレゼント、用意してます。エムも喜ぶよ、絶対。

「…そういえばレイ君、衛生局に配属されたんでしたね。父上と同じ研究を?」

「多分な。だからお前に逢いたい! ・・・と思っているわけじゃないだろうけど」

「…模型の事も、いっぱい書いてありますね」

「それ読むと、俺が15の時ってどんなだったかと思う。フィギュアが、子供のおもちゃではないことは分かってるけど、幼く感じるよ。フェルディストロムを毎日磨いて、そんな子供っぽい手紙よこして」

「レイ君、普通の学校に通ってないんッスよね?」

「…ああ。軍の特別教室通ってたよ。形式だけ、ね」

「レイ君は、衛生局に配属されても、特別なことは感じないんスかね? 休学組のみんなみたいに」

「…どうなんだろう。そう考えると、休学組は、…フレディも含めて、あいつらは、それなりに幸せなのかな?」

「かもしれないッス。彼らにとっては、休学して参戦するのも、名誉なことです。卒業式には、直属の上司までもが参列してくれるじゃないッスか」

「…」

「サーマルロンのあの戦績なんて、絶対それが影響してるッス」

「…そういえばあいつ、よくやってくれてるよな」

「ええ。学生から学校生活を奪うのは酷かも知れませんけど、本人達は嫌がってないし、それが全体の士気の鼓舞にもつながっているんだから、いいんですよ」

「そうだな。そういうことに、しとこうか…」

カイトは、目をつぶった。


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