特殊機械兵隊・外伝/ゼクセリアムの蒼

第4話


フレディは、大人しくカイトに紹介され、皆に挨拶をした。

「ま、仲良くしてやってくれ。人間関係の揉め事は、仲裁したくないからな」

と、カイトは皆を見まわした。みな、肯く。

「で、ムース、フレディのこと頼む。細かい事教えてやってくれ。それと…」

彼は、書類をめくった。

「肝心のチーム分け。ドロウとサーマルロンは、ベルリンのチームに入ってくれ。とくにドロウは、ベルリンの補佐頼む。それから、哨戒のチームだけど、リースに加わってもらって、ヘゼウル、クードベイ、リース、それからフレディの4人でやってもらう。ヘゼウル、フレディの面倒みてやってくれ」

「了解」

「質問してよろしいでしょうか」

と、フレディが手を挙げる。

「何?」

「チームって、どういう役割を担っているんでしょうか? 分けている基準というか、役割を教えていただきたいのですが」

「ああ、悪い。説明してなかったっけ。得手不得手を考慮して、3班に分けてるの」

カイトは、フレディのほうを見た。

「カレウラは今、4番無しで15番まで14機ある。俺の班が5機、ベルリンの班も5機。それから、ヘゼウルの班が4機。ヘゼウルの班は、主に空母護衛と、俺たちの戦闘データの処理、それから、無線の中継なんかを担当してもらってるんだ。そういうのに向いた機種と相棒が多いからね。残りの10機は、機体性能も戦闘能力も、ほとんど差はない。だから、最前線投入ってわけ。その時の状況で、色々とかわったりするけどな」

「はあ…」

「最前線希望なのは聞いてるけど、いきなり実戦は無理だろ。しばらく、ヘゼウルの下で俺等の戦い振りに馴れてくれ。状況次第で、アイントンとフレディを、入れ替える事も考えるから」

「え、俺じゃないの?」

と、モーリスホートが冗談めかして言う。

「アイントンが下がるなら、俺が下がったほうが適任と思いません?」

「思わんね。モーリスが下がったら、前線での指示無線の中継は、誰がやるんだよ? 寝起きの良さでチーム決めるんなら、俺だってヘゼウルの班に行きたいよ」

カイトの言葉に、笑いが漏れ出す。

「ということだ。フレディ、他に質問は?」

「いえ、今はいいです」

「ん。何かあったら、適当に誰かつかまえて聞くといい。ゲーリー、フレディ入れて、生活管理のローテーション組んで。あとは、ゲーリーから何かあれば」

「了解。生活管理プログラムのローテは、夕食時に回覧します」

と、ゲーリーは郵便袋をテーブルに置く。

「あと、全員にそれぞれ手紙届いてます。フレディには、さすがにまだ届いていませんが… それから返事のほうは、明日夕方締切りだそうです。映像部からフィルムの配給があったので、ショットを希望する人は名乗り出てください」

「あ、俺…」

皆が一斉に手を挙げる。と、その瞬間を狙うかのように、出撃のサイレンが鳴り響いたのだった。

―――

「ついてないねえ。フレディ、お前もとりあえず、出撃しな。ムース、面倒見てやれ。ヘゼウル、あと頼む。班が変わった奴は、間違えんなよ」

と、カイトが言いながら、真っ先に着替えて出て行く。

「フレディ、お前さんは15番機だ。動かしかたは、分かってるよな? 学校で使う訓練機と、そうは変わらないから」

ヘゼウルは、ヘルメットを被った。

「わからない奴の事は、機体番号で呼べばいい。哨戒機は、7、8、14、それとお前さんの15番。俺は7番機だ。あとはムースに任せとけ。こいつは、ベテランだからな。それから、俺の近くに居ろ」

「りょ、了解」

フレディは、同じようにヘルメットを被る。と、ムースがぽんと肩を叩く。

「いきなりの実戦、ご愁傷さま。まあ、とりあえずは俺に任せておいてください」

「ああ…」

「リース、情報処理より、戦闘のほう頼む」

「それしか出来ませんよ、俺。ヘゼウル先輩、こまかい指示頼みます。クード、俺の座標も、管理してくれよ!」

言いながら、リースとペスツーが飛び出していく。

「いやよ! ペスツーは、そういうの得意でしょ! 待ってよナナイ!」

「リボン!クード、リボンがほどけてるよ?!落ち着いて直してからおいでよ!」

「かまってられないわよ!待って!」

残りのメンバーは、にぎやかに飛び出した。

――――

「王子様、どう思う?ナナイ」

クードベイは、シートベルトをはめた。8番機・ローズレッドが立ち上がり、カタパルトに乗る。

「いいんじゃないかしら? おぼっちゃんってカンジで。最前線には、さすがに実力で選ばれて来たって話だし」

人工生命・ナナイは、黄緑の大きな瞳を瞬かせた。

「ま、訓練と実戦は、違うんだけどね。クードのタイプ?」

「違うわね。もうちょっと、野生味あるほうが好きよ」

カタパルトが音を立て始め、信号機が青になった瞬間、8番機は空中に飛び出した。この8番機は、カレウラの中でももっとも軽量で、戦闘よりも、情報の収集と処理を役割としている。

『フレディ、索敵しとけ。あとはムースがやり方知っている』

と、ヘゼウルの声が聞こえてくる。

『リース、俺は、フレディの面倒みなきゃならん。クードベイの護衛頼む。それから、赤いのからは逃げ回れよ』

『了解』

『全機、注意しろ。敵に、赤い奴がいる』

カイトの声だ。

『奴とは、俺がメインで相手する。取りこぼしがあったら頼む』

「カイト大尉、索敵をサポートします」

と、クードは幾つかの操作をこなす。モニターに、これから戦になるだろう場所のほぼ全域が映し出される。

「敵データは、こっちで処理します。ただ、この前のムースみたいに、13秒ってわけには行きませんけど」

『戦闘中に、二回くらい更新してもらえればいい。フレディ、ヘゼウルの言う事きいて、いい子にしてろよ』

ブツッ、と通信が切れる。

「あららっ、大尉ったら、戦闘に入ったかな?」

「みたいよ、クード。行きましょ♪」

ナナイが、妙に嬉しそうにスキャナを打ち上げた。

―――

「若い奴等は、気楽でいいねえっ!」

カイトは、スピードを上げて右に逃げていくセクソーヴァに、狙いを定める。

「ロックオン完了、発射!」

バシッと音がして、3連発のミサイルが撃ち出される。

「俺なんか、老け込んじゃうよ…」

「クードから、データ届きましたよ」

「あいよ。フレディは、何してる?」

「いい感じに、ヘゼウルに寄り添っているッス」

「そのままで願いたいね。ベルリン!そっち行ったぞ!」

『了解!』

「グリンシャー、俺は一回、中間地点まで下がる」

『分かった。アイントン、カイトが下がるから、見失うな』

『了解』

ザザッと音がして、通信が聞き取りにくい。

「ずいぶんと、戦闘ノイズがひどいな…エム、後ろに下がるのは俺がやる。索敵しろ」

「了解」

エムの前の計器が、緑の光を帯びる。

フェルディストロムは、後方にいる艦隊と、カレウラ隊や戦車隊がいる最前線との中間点に下がった。後方の艦隊と一緒に、ヘゼウルたちの4機がいる。

―――

「よりによって、王子様の子守を仰せつかるとはねえ」

ヘゼウルは、溜息をついた。

「どう思うよ? スドー」

「どうって… 妥当な配置じゃないですか? それにヘゼウルは、それだけカイト大尉の信頼厚いんですよ」

相棒のスドーは、そう言って笑った。

「あの大尉、ほら、何でも他人任せだから」

「まあ、いい意味でそうだよな。俺なんかに班長させちゃうんだから」

「カイト大尉のやり方、この隊にあってますよ。隊長がカイト大尉になってから、ほんと、ほっとしました。クードベイなんか、急に生き生きしてるしね」

「それは認めるよ。でも、だから、王子様押し付けられるんだと思うね」

「で、しょうね… ヘゼウル、お喋りは終わりです。敵機、きます」

スドーは、手元の計器を見やった。

「フレディは、ムースがついてるから、まあ、大丈夫でしょう」

「カイト大尉が下がってる。リースは? リース、クードベイの護衛に集中しろ。フレディ、敵機がきている。弾をよけるくらいは自分でやれ。判断は、ムースに任せろ」

『は、はいっ!』

フレディの、上擦った返事が聞こえる。リーステロルは、もっと慣れた調子で返事をし、クードのほうへ移動していく。

「赤い奴は、相手にしたくないんだけどね…来たっ!!!」

ヘゼウルのグスタスローマ機は、一歩フレディの前に出て、真紅のセクソーヴァにミサイルを撃った。

「艦から離れる! ムース、なんとかしておけっ!」

目覚し時計の鳴る音と同じような音が、ロックオンされていることを報せる。

「冗談だろ!?」

「ムース、避けて!」

スドーが、通信機に叫ぶ。

「ロックオンされた。そっちが避けてくれないと、どうにもならない!」

「スドー、盾準備! よけたら船に当りかねないっ!」

「盾では、一発が限度です!」

「全弾とも、船に当てるよりはマシだろ!」

バシュッと音がして、セクソーヴァの肩からミサイルが打ち上げられた。

―――

「フレディ、盾でミサイルを受けます!」

ムースの声に、フレディの全身が緊張する。カレウラの放つ誘導弾なんて、当然受けた経験が無い。

「盾で、そんなの受けられるのか?!」

「一発が限度です。対処は俺が… 来るっ!」

ムースの声と同時に、盾が、斜め上に向けて掲げられ、その瞬間に凄まじい衝撃と音に包まれる。

「アイゼン出しますっ!」

「…ムース! 盾の損害率を出せ!」

フレディは、思い切って叫んだ。だが、声が震えている。ムースが、ちらっと振り向く。

「盾の損害率、そっちのモニタに出します!」

「これなら、もう一発受けられる。ムース、ヘゼウル少尉の7番機についていこう!」

「ついてくって… ヘゼウル少尉、こちら15番機。今からそっちのサポートに回りますから…」

『来ないほうがいいっ!』

通信機から、ヘゼウルの怒鳴り声が響く。彼らの7番機グスタスローマは、あの赤いセクソーヴァと交戦中だった。

「少尉!」

『こいつ、手強すぎる!』

「ムース、赤いのに照準合わせて!」

「接近戦の最中に、ミサイル撃ち込むのは危険です!」

「命令だ!」

「ルールってもんが、あるでしょ!」

「赤い奴を倒すためだ! ミサイルが駄目なら、突っ込む!」

フレディは、大剣を突き立てるようにして、7番機とセクソーヴァの間に突っ込んだ。

「冗談でしょっ?!」

ムースの、驚愕した声が響く。15番機の突撃に、セクソーヴァが離脱する。

『15番機!? この前パイロットをやったはず… 補充、早いねっ!』

セクソーヴァは、7番機から15番機に目標を変えたようだった。

『カレウラ壊さないと、意味が無いってことだよなっ!』

「わっ…」

ムースの操作で動いた盾が、間一髪でセクソーヴァの剣を受け止める。

「さっきミサイル貰ってるから、もたないよ、これ…」

「ムース、押し返せっ!」

「パワーで負けてるんだから、無茶言わないで!」

『大人しくしていろって言っただろっ! ヘゼウル、後方頼む! フレディも、下がってろよっ!!!』

割り込んできたのは、フェルディストロムだった。フェル機は、15番機の胸をぐっと押すような仕草をすると、右腕でセクソーヴァの顔面を殴りつける。

「カイト大尉?!」

『何やってんの! 下がれ!』

「手伝います!」

『しなくていいっ!』

『フレディ、さがれっ』

通信機からは、ヘゼウルの声もする。

『カイト大尉の邪魔になる!』

「邪魔ってのは、言い過ぎなんじゃないの?!」

ぼやくうちに、ムースが機を後退させてしまう。

「ムース、何をする?!まだ戦えるし…」

「戦えませんよっ!」

フレディの言葉に、ムースが言い返してくる。

「盾は使い物にならないし、何よりも、カイト大尉の邪魔になります!」

「他の機は、大尉を手伝ってるじゃないか!」

「この15番機は、艦の守りが役目です!」

[[[カレウラ隊、いったん引け! 戦闘機隊が入る!]]]

艦からの指令と同時に、キ−ンという音とともに、漆黒の戦闘機が、10数機も舞った。

『カレウラ隊、ご苦労様です! 追撃はお任せを!!』

『くそう、引き上げるっ!』

セクソーヴァは、うるさい戦闘機を振り払うように、空に飛び上がった。

――――――

「ゲーリー、今のうちに、写真撮ってくれよ!」

格納庫に納まったフェルディストロムのコクピットから、カイトが大声を出す。

「ったくぅ…」

ゲーリーは昇降機でコクピットの位置まで上がる。

「コクピットに納まってる姿で良いんですか?」

「ああ。ちょうど、カレウラスーツ着てるからね。エム、お前も入れよ」

カイトは、エムの首に腕を回して引き寄せる。

「はい、いきますよ〜」

パシャッとストロボが光る。

「ゲーリー、次、こっち!」

あちこちで声が掛かる。ゲーリーはポラロイドのフィルムをカイトに渡し、慌ただしく次の昇降機に飛び移っていってしまう。

カイトとエムが下に降りると、すでに写真を撮ってもらった面々が、集まっていた。

「あっちこっちで、写真撮影会だなあ」

整備士の面々も、カレウラの足や手に座って写真を撮り合っている。

「一体、なんなんですか?」

フレディの問いに、ベルリンが肩を竦める。

「見ての通りさ。補給艦に持ってってもらう手紙に、元気な姿を同封しようって魂胆だ。カレウラの姿全部はうつせないから、みんな、手や足と一緒に写るんだがね」

「写真撮り合ってりゃ、反省会どころじゃないな。手紙の締切りもあるし… ま、今日のところはまあまあだろ」

「データだけは、夕食後にでも確認してください」

と、クードベイ。

「もちろんだよ、クード。それから …ああヘゼウル、ご苦労さん」

と、カイトはみんなの輪に入ってきたヘゼウルの肩を叩いた。

「あの赤いの、パワーありますねぇ」

「ああ。ヘゼウルが組み合ってるのを見た時は、ギョッとしたよ。フレディの突っ込みも、結果的には良かったからまあ、今回はいいとして…でもフレディ、お前、もう1、2回は、大人しくしていろよ。今日のは、ビギナーズラックだぜ」

「…でも」

フレディは、上目遣いにカイトを見たが、視線は合わせない。

「うまく戦えたと思います」

「今回はね。だけど、手柄を焦り過ぎだ」

「大尉こそ、一人でセクソーヴァを倒そうとしているのでは?」

「一人でとは、思ってないけどなあ」

カイトは、ふう、と溜息をついた。

「セクソーヴァと同等以上のパワーを出せるのは、フェルディストロムだけだから、毎回俺が先頭切って行っちゃってるけど…」

と、言っている間に全員が揃う。

「引き上げようぜ。夕飯食ってからミーティングするからな。手紙、締切りに間に合わせろよ」

「了解」

フレディはそれ以上の反論はせず、皆も、ぞろぞろと格納庫から出て行った。


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