どうっ、と音がして、基地の正面に爆風が荒ぶ。先制きって、ランディが手榴弾投げたんだ。
基地はそれこそ、ハチの巣を突ついたような騒ぎになる。
「あんなに出てきて、いいのか?」
と、ヨハンは呆れたように呟いた。奴等、50人くらい出てきて手当たり次第に撃ちまくる。
「もっとも、撃つほうとしては楽でいいけどね」
ヨハンとジェシーは、一発ずつ冷静にヒットさせて、まるで狙撃の練習状態だ。
やってるうちに近くにガス弾がぶち込まれて、空気が一瞬濁ったけど、味まではわからない。ガスマスクしてるからな。
まあ、世界の精鋭がああも簡単に捕まったりしたのは、多分、警戒してないところで例のドラックと一緒に作ったか何かした、ガス弾のようなのを打ち込まれたからだったのかもしれない。新人ガイドが簡単にやられたのは、注意が足りなかったせいだとは思うけど。
ヨハンとジェシーは、一発一発、楽しそうにヒットせていく。他の奴等は、手当たり次第に撃ちまくり。もっともこっちだって、茂みや木の陰からの射撃だ。あまり強烈なのをぶち込まれると、当る前に逃げ回る。
「そろそろ、来るぞ!」
と、ファーダが叫ぶ。その言葉が終わると同時にキーンという耳の痛い音がして、爆撃機が急降下してきたのだった。ものすごい風圧に、銃撃が止み、それと引き換えに機銃掃射だ。弾は基地の中まで届いたようで、何かが爆発し、人がわっと出てくる。
「すげぇ(^^;)」
「国際法違反してるぞ、あれ」
と、ランディ。
「戦争してるわけじゃないってことだろ」
ヨハンが、冷めた一言を言う。まあそうだけどね。爆撃機は3回それを繰り返した。文字通り、七面鳥撃ち。4回目は、威嚇に急降下してきただけだったけど、降下と同時にヤーブの持っていた通信機を鳴らした。
「本隊は、あと15分だってさっ」
「予定より、遅いじゃねーかっ(^^;;;」
こっちだって、最低装備だからな。いい加減、弾尽きるぞ…
みんながドンパチしている間、俺はサムの様子を探ろうかと、ナビの端末を出した。
おうおう、居る居る♪俺が想定してある基地中枢部に、いるようだ。仕掛けておいた発信機の白い光がピコピコ光ってる。
「ファーダ。サムの奴、いい加減にクライマックスだと思うぜ。そろそろ行かないと…」
と、そこまで言った時だった。サムの居場所を示す白い光が、すっと消えた☆まさか、こんな土壇場で、俺の発信機に気付いて壊した…なんてことはないよな。
これは絶対に、故意ではない理由で壊れたんだ!
絶対に、まずいっ!!!死んだかもっ!
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俺の報告に、ファーダは舌を打った。
「仕方ない。コージ、二人で中、見てこよう。ランディ、後頼む!」
「了解するけど、長くは持たねえぞ!」
「軍が来るまでは、持たせろ!! コージ、行くぞっ!」
だだだだっと、軽快なリズムをBGMに、俺達は敵の基地に飛び込んでいた。
前を走るファーダの三つ編みが、揺れている。
奴は、ふんわりと飛び上がると、自分を遮ろうとした敵兵の顔面に、膝蹴りを食らわせた。おおっと、意外と身軽。
どの兵士も、正規の訓練は受けてないようだった。中核を成す精鋭だけが、しっかり訓練されているのかな?
サムと逢った夜、俺達を追いかけてきたのは、プロの集団だった。
そういえば、指揮系統が乱れてるって言ってたっけ…と、激しく銃撃されて、俺達は間一髪でコンテナの陰に飛び込んだ。でもその銃撃も、ランディたちの援護のおかげですぐに止む。
「ここからは先に行く!」
と、俺は飛び出した。ほとんどが出払ってしまったのか、あまり人気がない。が、走る人の気配を感じる。
「こっちだ!」
俺は、無機質な通路を左に曲がり、息をついた。ファーダも、すぐ横に張りつく。
「どうするんだ?」
「こっち。急いで」
すぐ上、2メートル半くらい上の壁に、ハシゴの一番下の段がくっついている。俺はそれに飛びついて、登って行った。ファーダも後に続く。
上がったところは、通路の天井。天井っても、配管やらなにやらで、まあ、透け透け。ただし電灯より上だから、影が写ることはない。歩けるのは、幅15センチの作業用通路と、頼りない手すり。
曲がるまで走っていた通路を、バタバタっと兵士が走っていく。
「ここなら、鉢合わせて冷や汗かくことは無いと思うぞ」
「なさそうだけど、目的地まで道は続いているんだろうな?」
「そりゃないだろ☆俺が、行き止まりの道に案内したことあったか?」
「ないけど、間違えたことはあるよな」
「………(--;)忘れてくれ」
まあ、どきっとしたことは確かにあるけどさ。俺は、先に走り出した。中に入ってから、3分経っている。
俺達は、最深部…の手前にある、サムの消息が途絶えた場所まで急いだ。途中二回ほど、下を武器持った兵士たちが走り抜けて行って、ドキッとしたけどな☆
ここまで来ると、もう誰も居ない。
「他の奴、逃げたかな?」
「表は下っ端に任せて、精鋭幹部の皆様は、逃げる準備ってとこじゃないか?」
と、ファーダ。俺達は、天井から下に降りた。目的の場所のドアは、開いている。ファーダと目を配ませあい、一気に踏み込む。
俺が最初に見たのは、正面で、吹っ飛んだ机に寄りかかって、うずくまっているシギィだった。床に、血溜りが出来ている。そして、自分たちのすぐ前、シギィと向き合う位置で座り込んでいるのが、サムだった。二人の真ん中に、俺が渡した、例の発信機付きのゴーグルが、割れて落ちている。
「……貴様、あの夜の…」
と、シギィが、人相が分からなくなるほどボコボコに殴られた顔を俺のほうに向けた。
「…憶えてくれていたんだな」
まじめな、カッコよく決めたほうがいいシーンには違いないんだけど、俺は必死で笑いをかみ殺した。とゆーか、このひどい顔に、ちょっと引いたよ☆
「ここに展開してから、捕まえられなかったガイドは、貴様だけだ」
「それは光栄」
ファーダはサムの脇に屈み、奴を覗き込んだ。生きている。
シギィは、青黒く腫れ上がった顔でにんまりと笑う。
「腹が立ったんで貴様を付けねらったんだが、まさかハンティングの地図読みだったとはね…」
って、沖縄や香港で狙われた原因は、サムじゃ無くて、サムとたまたま一緒にいた、俺かよ?!(^^;;; そりゃねーぜっ☆
「どうりで捕まらないはずだ…」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、紛らわしくて迷惑したぞっっ(^^;;;」
奴は、無気味な顔でニヤニヤ笑い続ける。
「どうした、サム。俺を殺しに来たんだろ。仲間も迎えに来た。さあ、やればいい」
「……」
サムは、何も答えなかった。
「それで気が済んでるなら、行こうぜ」
と、俺は二人を促した。
タイムリミットまで、あと7分少々だ。
サムはファーダに腕を掴まれて立ち上がる。
「まてよ、いいのか? 俺を殺さなくて…そのためにここまで来たんだろ…」
と、その時だった。深層部のほうから、どんっという音とともに爆発音が聞こえたんだ。
「やっと、起爆…」
と、シギィは最後まで言えなかった。ずずっと音がして、目の前の天井から、梁が落ちてきたんだ!
俺とファーダはサムを両脇から捕まえて、部屋の外に飛び出した。ドウッと音がして、土煙と埃が舞う。。
座り込んだ俺達の尻や手の平にゴゴゴ…っと、鈍い音が響いてくる。深層部と俺が読んでいる製薬工場は、絶対に、崩れ始めているっっ!
「急ごう!」
ファーダがサムを引っ張って立ち上がる。シギィの奴、妙にお喋りしていたと思ったら、俺達のこと引き止めてたのかよ☆
こうなるともう、敵のほうも逃げるのに精一杯。にもかかわらず、前方では、まだ銃撃戦が続いているようだった。
俺達が想定したタイムリミットより前に軍の本隊が到着し始めたらしい。一人足りとも逃がしてなるものかと、軍は入り口向けてめちゃくちゃ撃ってくる。
俺達はひとまず、木箱と木箱の隙間に飛び込んだ。サムが、息を切らせて苦しそうだ。銃創からの出血もひどい。
「落盤、まだ続いてるんだろうな…」
と、ファーダが呟くけど、続いているのは確かだ。地響きがして足元も空気も揺れてる。
「進退極まったぞ。出て行ったら味方に蜂の巣にされそう…」
「ここで、終わりかな?」
と、サムが自嘲を浮かべる。
「巻添えたな…。でも、助けはいらないって言ったのに」
「助けに来たのは、婆婆の依頼だ。こっちも、金貰って動いてるからな」
と、ファーダ。
「俺といるときに、あまり不吉な結末は考えないでほしいぞ」
と、俺は腰からグレネード弾用のカートリッジをはずし、そっと物陰から後方を覗いた。
「俺達が飛び出してくってのを、伝えられれば…げっ!」
見たものを説明する間もなく、俺は頭を引っ込めると、ファーダとサムのほうに飛びのいた。
どおんっとすっごい音がして、俺達が背にしている木箱がズズズッッッと動き、爆風で人が吹き飛ばされる。続いてまた、どんっと小規模な爆発が何度か続いた。でも、銃撃が止まない。
俺達の前の木箱の向こうで、まだ抵抗している奴等がいる。音からして、かなりの人数。
憑かれたように、軍に撃ちまくり。
俺達の真上から、土がぽろぽろ降ってくる。
「生き埋めはごめんだぞ。気付いてくれよ、頼むから」
俺は、カートリッジの先に信号弾を取り付け、這いつくばると、入り口の屋根ぎりぎりに弾が飛ぶように構えた。
「人に当りませんようにっ」
ボムッとちょっと間の抜けた発射音がして、赤と白の煙を吹き出しながら弾が飛んでいく。敵が、ぎょっとして振り返ったその瞬間、また爆風だ。
「行こうっ!」
ファーダが、一緒になってひるんだ俺を物陰から押し出し、もう片手でサムを引っ張った。あとはもう、味方に向かって走るしかない。
ランディたちが、茂みから飛び出して、俺達を援護してくれる。
俺達に向かって乱射してるけど、絶対に当たらない。奴等に向かって走れば、後ろから狙い撃ちされることもない。
敵より先に、撃つから…
「撤収!」
ファーダの怒鳴り声がして、俺は振り返らずにそのまま突っ走った。ファーダがそれに続き、多分、ヨハンとランディが一番最後に来るんだろう。
とにかく俺は、軍の後方まで先頭切って走っていくのが役目だ。安全なところに、全員を無事に案内するまでが、俺の仕事なんだから☆
「ごくろうさん!」
俺達に声を掛けてくれたのは、昨夜、俺を基地からホーチミンの国連ビルまで運んでくれたヘリの機長だった。
「仕事、これでOKだろ?」
俺の問いに、彼はウインクして見せた。
「バッチリさ。だからここまで進軍できたわけだしな。上の奴が、喜ぶぜ。基地までヘリで送るように命令が出てるんだ。乗りな」
と、彼は輸送ヘリを親指で差す。
「助かるよ。ここから徒歩は、辛いもん」
俺達は、ほっとしてヘリに乗り込んだ。サムは、俯いたままだったけど、何も言わずにヘリに乗ったよ。
ヘリのローターが回転し、機体がふんわりと浮く。
まあ、機内はうるさくて喋る声も聞こえないし、みんなも息が上がっている。だから誰も口を利かなかったんだけど、飛び立って3分後の、機長の野太い悲鳴ははっきり聞こえたよ☆
「うおおっ!」
声がして、続いて機体が大きく傾く。俺は持ち上がった右翼側に居たから、シートベルトで腹部を締め付けられて一瞬吐きそうになった☆
「おえぇっ☆」
「俺の向かいでやめろよっ!」
と、膝がくっつく距離で俺と向き合うジェシーが、メチャクチャ嫌な顔をする。
だけど本当は、そんな余裕かましているどころじゃなかった。俺達のヘリのとなりに、一機のヘリが並んだんだ!
「機銃、ないの?!」
乗り物系の兵器担当のアーサーは、やっぱり反応早かったよ。怒鳴りながら彼は、機長のシートにへばりつく。
「んなの、あるわけないだろう!俺の愛機は輸送機なんだよっ!」
「基地に逃げ込めないのかよ?!」
「進路が逸れたし、『殺る気』があるなら、領空内に入ったって、突っ込んでくるんじゃないの?!」
「俺とアーサーで応戦を…」
ファーダが、揺れる機体の中をで懸命にアーサーのところまで移動しようとする。
「俺がやるっ!」
叫んで立ち上がったのは、サムだった。彼は機体の右横にあるハッチを開けた。
風と回転音が入り交じり、耳が痛い。
「サム、よせっ!コージ!アーサーと機長を手伝え!」
ってファーダが風の音に負けないくらい大きな声で叫ぶけど、俺にヘリの操縦の、何が手伝えるっていうんだよ(^^;俺の移動に、ジェシーが手を貸してくれる。俺は、やっとの思いで機長の足にしがみついた。だけど、そのハッチの横を摺り抜けたとき俺が見たのは、同じような輸送ヘリの昇降口で、機銃を構えるシギィだった。
もう、こうなったら細かいことは気にしてられない。並ぶ敵機からは、断続的に弾がぶち込まれる。旋回しまくるおかげで、皆は椅子から立てないし、立っているサムも、壁から手を放すことが出来ないでいる。
俺とアーサーは機長のシートにへばりついていた。アーサーは操縦を半分くらい担当していたけど、俺に出来そうなことって…(^^;)
逃げ回るせいで、アナログのコンパスが揺れて定まらない。高度計も落ち着きが悪い。
「ジェシー、わたしに手を貸してくれ!」
後ろで、ヨハンの声がする。
「こういうのは、わたしが一番馴れている。任せてくれていいぞ」
俺は、肩越しに振り返った。大きく開いたハッチの反対側、俺の真後ろの壁に、ヨハンが背中を押し当てて立ち、それに向き合うようにして…正確には抱き付くような格好でジェシーがヨハンを壁に押し付けて、天井付近の手すりをしっかりと掴んでいた。
それに、ファーダとランディ、そしてヤーブが同調する。
「サム!君も、ヨハンを支えて!」
ヤーブがサムに手を伸ばす。サムはそれに掴まり、皆と同じようにヨハンを壁に押し付けるように覆い被さった。
敵機から乱射された弾が俺の足元に数発当り、残の弾が誰かに当って、吹き出した血が気流に舞う。でも、誰に当たったのかはわからなかった。誰も倒れなかったし、みんな、しっかりとヨハンを固定している。
「弾の再装填は、無いからな」
ヨハンの、自分に言い聞かせるような呟きが、妙に大きな声で聞こえる。奴は、自分に密着しているジェシーを抱くように、奴の脇の下から両手で銃を構え、右肩越しに照準を絞る。
「機長!ホンの一瞬だけ、並ぶぞ!」
アーサーが俺の反対側から機長を覗き、機長の手の上から操縦管を掴む。スピードがちょっとゆるみ、機体がふわっと浮いた。
バスッ! 風のせいか、マグナムにしては重苦しい鈍い発射音が響く。一呼吸置いたあと、バスッ、バスッと銃声が続く。
敵機が煙を噴き、ローターの回転が目に見える位に遅くなる…と、マグナムの5発目が爆発音でかき消される。
俺達の乗ったヘリも、横から爆風を食らい、空中を一回転したかのような重力を感じる。目の前の景色がぐるっと回り、緑のジャングルが渦巻く。こういう状況が、パイロットの感覚を狂わせて、自分が上いってるのか下行ってるのか分からなくなったりする。
機長とアーサーが、今まさにその状態だった。
「!」
こうなったらもう俺は、自分の感覚を信じるしかないよ。間違っているのはアーサーたちで、俺のが正しい!そう信じて、アーサーと機長がとっさに手前に引いた操縦管を、俺は全身体当たりで反対側に押し倒した。
ふわっ、ぐるぐるっといった感じで目の前の緑と青がめまぐるしく入れ替わり、混ざり合う。
「分かったあっ! どいてろっ!」
機長が、俺を押しのけ腰を半分浮かせて操縦管にしがみつく。
そして、ほんの2秒ほどで機体は元通り、正常に戻った。
------
基地に着くまで、俺達は今度こそ、誰も口をきかなかった。椅子に戻ってシートベルトをする元気もなく、ただそのまま、それぞれみんなその場に座っていた。
ヘリのローターが、ゆっくりと回転を止める。
「あいててて」
と、ランディが立ち上がる。
「怪我したのは、ランディだけか?」
「と、俺」
と、ヤーブ。二人はそれぞれ、脇腹と肩に銃創つくってたけど、出血量ほど深い傷ではなかった。
「コージが、機体の状態を最後まで把握していたおかげで墜落しないですんだよ」
と、アーサー。
「あんたにも、助けられたぜ」
機長が、アーサーの肩を叩く。
俺達は、順次ヘリから降りた。機長は、銃弾受けてボコボコになった愛機の外装をみて、がっくりしていたよ。
「よう、悪かったな。仇を横取りして」
と、ヨハンがサムに言う。だけどサムは、首を振った。
「いや、感謝するよ。俺には、出来なかったことだ。殴り殺すことに、こだわり過ぎて」
「…」
「一人でやろうなんて、無理なんだ。分かっていた」
「殴り殺すチャンスがあったら、譲ってたさ」
と、ヨハンはこれまた健康に悪い煙草を取り出し、一本くわえる。
「適材適所がファーダのモットーで、このチームの鉄則だし」
「…ああ。すごかった。あの銃弾の中、誰もまともに食らわないでいられるなんて、初めてだった。途中からは、神様の御加護もあると、思ったくらいさ…」
「残念だけど、神様の御加護はないかもね」
と、ファーダがふうっと背伸びする。滑走路には夕方の柔らかい日差しがさし、足元が薄赤い。
「絶対成功するって時だけ神様に祈ると、ガッカリしなくて済むよ」
ファーダは、サムに片目をつぶった。
「うちのチーム、先攻のポジション空いてるんだ。どう? 歓迎するよ?」
「…ああ。入れてもらうよ。あんた達となら、ガッカリしたり、死んだりしないで済みそうだ」
サムは、ファーダが差出した手をぱちん、と叩く。俺達は、建物に向かって歩き出した。
「とすると、今まで先攻やってもらってたヨハンには、スナイパーとしてのポジションに専念してもらうとすると」
と、ファーダがジェシーを振り返る。
「スナイパー、余るな。ジェシーに仕事頼むことがなくなるかも」
「ひでぇっ!こんなにこき使っておいて、そりゃねぇんじゃないか? 分け前は、きっちりもらうぜっ」
「がめついなぁ…」
「がめついのは、どっちだよっ! ここのチームが、分け前は一番少ない…」
ジェシーはそこまで言って、サムと肩を並べた。
「そうそう。ここはな、欧州のチームの中じゃ、1,2を争うほど分け前少ないぜ。考え直すんなら今のうち」
「余計なこと教えるなよ(^^;)」
と、ランディ。でも、ジェシーは振り返ってにやっと笑った。
「サム。こいつらがどんなチームか、俺が今晩、じっくりと教えてやるよ♪」
「ったく…」
ファーダがぼやくけど、ジェシーはけっこう色々喋るだろうね。でも、ジェシーはこれから先も、大きな作戦には加わるだろうし、俺達は、サムを加えてますますパワーアップしていくんだろうね。
☆☆
敵のアジトは、結局ほとんど崩れて吹き飛んだみたいだけど、各国軍は協力して掘り返したようだった。犠牲者の死体も、そして龍衆のメンバーと見られる死体も回収された。アルハンテリの黄金は、失われたよ。落盤の影響で源泉が埋まり、全く湧き出さなくなったらしい。でも、薬の精製に役立ったその成分が何だったのか、調査は続く。
墜落したヘリからも、シギィと数人の幹部の死体が回収された。シギィの本名も何も、結局わからないままだったけど、戦士としての腕は確かだったと、サムは言っていた。
どこで、麻薬やら死体卸なんかに傾倒したんだろう。ただ、この緊張に耐え兼ねて、変なことをしでかす奴はたまに居る。シギィもその類だったんだろうか?
だとすると俺達だって、そういう異常犯罪とかってやらかす可能性があるってことだよね。
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その後俺達は、香港に寄らないで帰国することにした。婆婆からの依頼について、代金はしっかりと、しかも多めに振込まれていた。
婆ちゃん、へそくり使っちゃっていいのか?(^^;;;
「子供、いるんだろ。いいのか?」
とファーダの問いに、サムはけっこう明るく首を振った。
「いいさ。どうせ俺の顔なんか憶えてないだろうし、俺みたいな、あっちの世界もこっちの世界も知ってるような中途半端な人生より、裏世界に最初からどっぷり浸かっていたほうが、それなりに幸せになると思う」
「そうかねぇ…(^^;)」
「俺が引き取ったって、表の世界に連れ出せるわけじゃない。それに、あの坊やに力があれば、そのうちきっと、ヘッドになるよ。金髪じゃないしさ。俺とは違う未来を掴むよ…」
「まあ、そうかもね。所在ははっきりしてるわけだし。その気になれば、会うこともあるさ…さあ、帰ろうぜ☆」
ファーダは先に、飛行機のチケットをひらひらさせて歩き出した。
香港の、新九龍のヘッドかぁ。サムに似てるなら、きっといいオトコだろうから、婆婆がヘッドっていうより小説っぽくてカッコイイかもしれない。婆婆も、もう2度と自前のチームは作らないだろうし、その未来のヘッドにも、作らせないだろう。
生きていれば、会うこともある。お互い、生きていれば。
一人増えた俺達は、帰国の途に付いた。
さ、帰ったらウェリーの墓参りでもして、ゲーセン行って、報酬をぱあっと使っちまおう♪